【初手】
百物語やろうぜ。
オカルト研究会所属の水岸が私を誘ったのは、8月の蒸し暑い日だった。
忙しい事を理由に断ろうかと口を開いた瞬間に、お前がヒマなのはお見通しだと言われた。
悔しいがそれは事実なので反論の余地は無い。
それにしてもなぜ自分なのかと尋ねても、お前ほど適切な人材はいないからだとしか答えてもらえなかった。
開催日時はその日の21時。それぞれ最低1つは怖い話を持ち寄ること。会場はオカ研の部室。
それじゃあ待ってるぜ。そう言って水岸は他の学生にも声をかけに走り去っていった。
困ったのはそれ以後だ。地球人の怖がる話とは一体どんな事だろうか。
試しに同じクラスの元原に怖ろしい話とは何かを尋ねてみるが、失笑されたのちに「鏡見ろよ」とだけ言われる。
鏡を見ても解決しないのは明白なので図書館に行き、図書館管理委員の女学生に恐ろしいとは何かと尋ねても
「目玉が・・・目玉が・・・」と呟くだけで一向に問題が解決しない。
結局何の話題も無いまま、百物語の会場へと足を運ぶ。
スラヴィアンであり、いわゆるスケルトンの私の姿を見て何人か絶叫したが、何とも失礼な話だ。
さて。百物語のはじまりだ。
【森林の怪異】
これは友達の従姉妹の同じクラスの娘が実際に体験した話なんだけど・・・
ある年の夏に知り合いのツテで訳あり4WDを得たそこの一家は、家族でキャンプに出掛けたんだって。
最初こそ父親が「この車は四駆だぞー」とか言って調子こいて山道を爆走していて
もう見てられないって感じだったそうなんだけど、ある場所を通り過ぎてから
ちゃんと道を走っているのにカーナビの現在位置がどんどん道から外れていって
そのうち周りに何もないところを走っている表示になったんだって。
「大丈夫。こういうのは通信速度とかの誤差が出るものさ」とか強がってるけど
父親も真っ青になっていて、これはひょっとするとマズい事になってるんじゃないかと。
とにかく車を走らせて大きな道に出よう。ところがどこまで行っても山道が続いていて、
これはもう恐ろしい事が起こったに違いない。焦ったところで目の前に白い人影!
急ブレーキをかけて止まると、目の前の人影が話しかけてきた。
「一体何をどうやったら、地球でこんなに大量の精霊を連れ歩けるのですか・・・
しかもいたずらされ放題で。大丈夫ですか?」
そう
エルフの若者に話しかけられた瞬間、精霊はわっと散っていったんだってさ。
【メトロQ】
メトロQっていう学園の怪人の話なんだけどね。
十津那学園の各校舎に地下があって全部繋がってるウワサは有名だと思うんだけど、
そこを根城にしているメトロQっていう怪人がいるんだってさ。
図書館で手伝いしている奴に聞いた話なんだけど、地下3層目くらいの書庫で書棚整理してた時に、
聞いたこともないような機械音がゴウゴウと壁の向こうで鳴りはじめて、
普段は使用しない点検用ドアを慌てて開けて確認してみたら、
もうもうと立ち上がる土煙の向こう側に、人間の半分くらいの身長の怪人メトロQが立ってたんだってさ。
ああ、と思ってとく確認しようとした途端に、メトロQの周囲に煙があがって
次の瞬間にはもう姿が見えなくなったんだって。
ウワサじゃ、学園を作る時に生き埋めになった人の亡霊なんだってさ。
皆が怖がって騒いでいる中、なんとかといった
ノームの先輩とそのツレだけが冷静だった。
「学園プライベート地下鉄のためだ。やむなし」
「ナフ・・・またロクでもない事をしてたのか・・・」
【壁の中の声】
あー・・・3日前に炊いたご飯だから強(こわ)くて強(こわ)くてってのは。
まだ早いって何だよ。中盤ダレたら笑いもOK?どんなルールだそれ。
じゃあ実際にあった話な。短いけどカンベンな。
部室棟あるじゃん。俺の部もそこに入ってんだけどさ。
去年の冬っくらいだったかな。壁の中から人の声がする時があってさ。
最初は壁伝いに別の部屋の会話が聞こえてんのかな、とか思ってたんだけどさ。
面白がって実験した連中がいて、それで結論は伝達してないって。
じゃあこの『壁の中から聞こえてくる声』は何なのよって話になってさ。
話の内容をメモしだしたヤツがいてさ。
そいつ最初はノリノリだったのに段々と表情が強張っていってさ。
で、そいつが書いてたメモを覗き見たら。
『出して・・・お願い・・・壁の中にはまっちゃったの・・・誰か』
ってさ。
キャアキャアと騒ぐ周囲をふと見渡すと、何故か一人の動甲冑の女の子がモジモジしている。
いかんせん動甲冑なので表情は読み取れないが、周囲が怖がる中、彼女だけは照れくさそうに見える。
「しょうがないじゃん・・・体をバラせば入れると思ったんだもん」
彼女は確かにそう言った。
【DLCC】
怖い話ね・・・
都市伝説とかネットの噂話でもいい?
みんなDLCCって知ってる?缶コーヒーのメーカー?それはDCCでしょ?
DLCCってのはネット黎明期からある都市伝説っていうか神話というか・・・まぁ、そういう系のものなんだけど
もしネットをしてて広大なネットの海でDLCCに遭遇できたら何か一つだけ知りたいことを教えてくれるらしいわ
アメリカの最高機密や今買っておけば何百倍にも価値は跳ね上がる株の銘柄とか、とにかく何でもよ
え?私が遭遇したら何を教えてほしいですって?
そうね・・・
私を殺した奴が今どこにいるか、ってことかしら・・・
【後ろに立たれる少女】
怖い話、ですか・・・
あの、私の拳骨はかなり危険なものなので使用には細心の注意を払っているんですけど、
先日風紀委員の仕事がたてこんで遅くなってしまった時に、誰もいない校舎の中を一人で歩くようなことになったんですね。
あ、暗いのは私平気なんですよ? ただ、誰もいない寂しい廊下というのはどうにも心細くて・・・
そうしたらですね、後ろからなにかが尾けてくるような気配がしたんです。知り合いかと思って一応確認したんですけど、
返事がなくて。私、怖くなって早く帰ろうと足早に玄関に向かったんです。
そうしたら気配もなくなったので安心していたら、玄関に着いた途端なにかが・・・
思わずその、右ストレートが出てしまいまして。
それがきっかけで、その、用務員さんが一人辞めてしまわれました。責任を感じてます。
【親切な村】
怖い話かぁ
あいにくそういう持ちネタはないんだ・・・
僕の出身は生きるのに精一杯だったからね
あ、でもこういう話知ってる
新天地に「とても親切な人が暮らしてる村」があるんだ
その村は交易路からも離れた荒れた土地にあるんだけど
その村の人はとても親切で道に迷った人がいたら無償で泊めてくれるんだそうだ
そして、信じられないことに自分たちの食べ物も満足に無さそうなのに無償で料理をふるまってくれるらしい
そんな村人の親切な心遣いにすっかり感銘を受けた人はそのままその村に留まってしまうんだってさ
だからその村からは誰も出てこないんだ
いやぁ、僕もそんな親切な村一度行ってみたいね
【ずっとおそばに】
あるところにとても妻と娘思いの男がいたんだ
男は幼馴染だった妻がはじめての人でそのまま結婚
一生妻を愛すると誓ってほどなくしてかわいい娘が生まれた
男は幸せだった
だけどその頃から男に付きまとう女が現れた
耳長の女だ
女は男が好きで好きでしょうがなかった。耳長の性みたいなもんでどうしょうもない
だけど男にはそんな気は欠片もなく、とにかく彼女には諦めてほしいと言い続けた
しばらくはそんな状況が続いたがある時からパッタリとその女が現れなくなった
男はやっと諦めたかと安堵した
それから男はまた平穏で幸せな日々が訪れた
しかし、大きくなっていく娘は時々おかしなことを言う
「ねぇおとーさん?おかーさんはどこにいったの?」
男は意味がわからなかった
男の妻はずっと男の傍にいるというのに
【カンバリ入道】
ありゃあ俺と坊ちゃんがこの学校に来たころの話なんだがよ
同じ部屋の奴と拳で語り合ったあとにな、手打ちってことで酒盛りしたんだわ
んで、夜中に、こう、なんつーか、もよおしてよ・・・部屋についてる便所にいってションベンしてよ
そん時にさっき同じ部屋のやつが言ってたことが頭をよぎったんだわ
「お前ぇこっち来てから便所いったか?そうか行ってねぇか・・・んじゃカンバリ入道にゃ気をつけな」って
聞きゃあ粗相すりゃ問答無用で便所水ぶっかけるんだと
くだらねぇ作り話だろーと思ってたんだが…腕が壁にぶっかけて何かを押したんだ
そしたら便器から低い唸り声が聞こえてきてよ・・・細長い腕みたいなやつがすーっと伸びてきて温い水をぶっかけてきたもんだからよ
思わずブチきれてな、テメェ俺をどお・・・じゃねぇやドラン様と知ってのケンカかぁ!?
って便器ごとぶっ飛ばしてやったんだが・・・さすがに一瞬びびっちまったな
だかよ一番ビックリしたのはな、次の日寮監に突きつけられた請求書の額と
坊ちゃんがその日のうちに自分の部屋の便器もろともバラシちまったってことなんだよな・・・
【夕闇に吼える群青色】
夏の夕暮れ。
昼と夜の境目が紫色に滲んだ空を見上げるとしよう。
カナカナとけたたましく鳴いていたセミの声は、いつの間にか欠き失せる。
それどころか、車の音も、人の声も、風の音も聞こえない。
不審に思い周囲を見渡すと、ガザリガザリと枯れ枝が擦れあう音が響く。
頭上から。延々と。聞いたことも無いほどの大音量で。
けれどもけして上を向いてはいけない。
空に広がるのは、宙に浮かぶ無数の目玉を内封した群青色の円錐。
それはけして何かをする訳ではない。世界を監視しているだけだ。
ただ、人はそれを理解できず発狂する。
夏の夕暮れには気をつけろ。
見たら発狂するのに、何でそれを知ってるヤツがいるんだ。
お決まりのツッコミが入るが、彼はそれを寂しそうに笑って聞いていた。
最終更新:2014年08月31日 02:11