【海賊の流儀】

「次、は俺、が、行かせてもら、う」
薄暗い木の香漂うがらんどうとした部屋にしゃがれた声が低く響く。
床に突き刺さっていた傷だらけの錨を持上げたのは、連なる影の中でも低く小さい。
「余りやりすぎるんじゃないぞ」
「だーめよだめだめ。 オルチがそんな器用なことできるワケがないじゃないさ」
一瞬にして場の空気が張り凍りつく。
緊張感だけが増していくにも関わらず、下半身、桃色の触手群をうねらせる女海賊は微笑を湛える。
「口、の訊き方、には気をつ、けろよ小娘。 後ろ盾、には自信が、有りそ、うだ、が
そんな、物は、俺には関係、な、い」
小さな影の発した言葉には怒気は無く、冗談染みた笑気が漂っていた。
解けた空気にやれやれと丸太よりも太い腕、岩と見紛う掌をはた付かせる巨漢。
「鬼神のお達しではな ──
「知ってい、る。 しか、し、ラウダフルよ、俺、が、小細工な、どできない、のは十分、分かってい、るだろう。
“来訪者を知れ”と、いうの、が鬼神の求め、る処で、あるなら、俺、は、全力を、もって戦う、ことし、か術を持たん」
更に一際高く錨が上がる。 少し離れた場所で、直ぐに多くの足並みが鳴り揃う。
「俺、で終わ、れば所詮、それま、での者達だっ、たというこ、とだ。 その程、度では、どの道、ドニー・ドニーでは、生き、ていけん」
「分かった。好きに戦(や)ってくれ。 ドニー・ドニーの流儀ならば鬼神も大目に見てくれるだろうさ」
嘴端を曲線に吊り上げ、オレンジ色の長い眉を二三度上下させる。
隻眼の鳥男が勢い良く扉を腹で押し開くと、多くの魚人が武器を手に続いていく。
「あーああ。異世界からの来訪者達もこれで全滅ね」
「船なら幾らでも修理するが、生身の修理は範疇外ぞ?」
部屋がそぞろに騒ぎ出す。
「頭領~ぅ、何だかややこしいぃことになっとるの~ぅ? ヒック」
「お客人、恥ずかしいところをお見せしたが、気にせんで欲しい」
やたら酒臭い息を吐きながら千鳥足…ならぬ千烏賊足でふらふらやってきたぼろ海賊服をだらしなく着る烏賊人。
「“来訪者”と言ったかぃ~? ひょっとしたら~うちのもんが~ぁ役に立つかも知れん~の~ぅ」
既に鼻歌になり掛けているが、その言葉に頭領と呼ばれたオーガが興味を示す。


 ── 酒場
「そう苛々していると、益々頭が禿げ上がるき。少し落ち着くぜよ」
『ワシは“蛸”が手に入ると言うからこんな北国までついてきたんやぞ?
それがどうじゃ!?港につけば蛸どころか魚もなんもかんも歩いとるわ!
これじゃミズハミシマと大差ないじゃろうが! ワシは断じて歩いとる蛸を蛸とは認めんぞ!』
蛸の様に顔を赤くし禿げた頭を茹でらせた老人が焼き魚の輪切りを噛み千切って見せる。
目の前には和装の、額に縦一文字傷を持った男が落ち着けと言わんばかりに酒を注ぐ。
「ドニー・ドニーなら海産物は何でも揃うと、烏賊船長も言っちょったき。 後で市でも見に行くぜよ」
向かい合う二人の言葉は全く違うものであるが、何故かお互いに通じ合っている。
だが、周囲の客は老人の発する言葉は理解出来ていない様で、訝しげな顔を向けている。
『こちとら“こっち”に飛ばされて来てからまともにたこ焼きを焼いとらんのじゃ…
まるで生きた心地がせんと右手も嘆いておるわい!』
「どうどう、どうどう」


 ── 海上
「オジキ、見えてきやしたぜ!」
「何だありゃ…山か何かが落っこちてきたみてぇだ」
夜の帳も降り様かという夕闇の海を、数十隻の船が波を切り進む。
「…夜と同時に攻め込むぞ。海中に浸かった場所から入る」
「もし中で来訪者とやらに出会ったらどうしやす?」
「戦闘、だ」
「オジキ、最初は斥候でも出したらどないやろか?」
「容赦、は、要らん。最初、か、ら全力で、行け!」
暗い海原に猛る怒号が響き渡る。
次々と海へ飛び込む魚人達は一斉に、巨大な鉄の山へと潜行していく。
戦(いくさ)が始まる ──



仮説デジマの1.5話
年代的にも海賊団の面々がちょっと若くしてみました

  • デジマの中には一緒に転移してきた地球人たちが?このまま武力衝突かコミュニケーションが成立して和解か -- (名無しさん) 2013-10-13 17:43:00
  • 豪快というか脳筋だなあ -- (名無しさん) 2013-10-14 12:25:25
  • ゲートが開く前に異世界にやってきた人間?スレで出てたたこ焼きお爺さん登場は吹いた -- (名無しさん) 2013-10-14 21:34:20
  • ネモチーが入ってない以外は変わってないのかな七大海賊団。しかしロシア軍はこのまま全滅してしまいそう -- (とっしー) 2013-10-15 23:04:08
  • 力も金も夢も漂流者も海から様々なものが集まってくる海賊の町という雰囲気があります -- (名無しさん) 2017-07-23 19:15:02
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最終更新:2013年10月12日 21:49