【RED3】

前の話【RED2】


7.
ある日、南から奇妙な未開人の集団がやってきてこの街の土地を明け渡せと脅してきた。
そしてそれを討伐しようとした当時の首長の私兵団はあっさりと殺され、指揮を執っていた首長共々、街の前に頭の皮を剥がされた首を並べられるという笑い話にもならない結末となった。

首が並べられてから街は上を下への大騒ぎだったが俺たちはそれを横目に棺桶を作るのに大忙しだった。
はっきり言って関係がなかったからだ。
そう、どうせ除け者の俺達には関係ない。
…そう思っていたせいで俺は、ヘンリーが時おり奇妙な表情を浮かべていたのを忙しいせいだと、気にすることはないと…手遅れになったその日まで勝手に思い込んだままだったのだ。

あの表情が一体何だったのか今ならはっきりとわかる。
彼が浮かべたあの何とも言えない様な表情は懐古と逃れられない運命に対する諦観だ…

8.
盾にしていた目の前の瓦礫が爆ぜ、レッドが撃った幾つもの弾丸が伏せた自分の上を通過する。
僕は銃をくわえて右手で引き抜いた最後のダイナマイトの束を近くで燃えている火で点火して銃を乱射するレッドの方へ放り投げる。

「ッ!」
ダイナマイトに気を取られ彼の射撃が止まる。
その一瞬を見逃さず、くわえていた銃を手に取り右手の親指で撃鉄を上げ彼に向かって一発、銃口の跳ねを利用して親指で撃鉄をまた上げて二発…撃ちながら一気に酒場の出口に向かって突っ走る!

店の外に出た瞬間に後ろで轟音が鳴り、同時に巻き起こった爆風で吹き飛ばされる。
店の前を無様にゴロゴロと転がり、数メートル地べたと熱烈なタンゴを踊ったところでやっと止まった体を起こして酒場の方を見ると、酒場は完全に崩れて火の手に包まれつつあるところだった…

「ッ~…最初っからケチらず全部放り込めばよかったな」
僕は砂を払い、撃たれた肩を抑えつつそう独りごちた。

9.
あの日、俺の運命が変わった日、今でもはっきりと覚えている。
自分の無力さを…

「どうして…どうして一人で行かせた!!」
俺はジジイに詰め寄った。

「…」
「何とか言えよこの野郎!!!クソッタレな街の奴らが武器を持ってるあいつに行かせろって迫って来たからか?
 あいつの銃の弾はもう殆ど無いって知ってただろ。なんで止めなかった!?」
いくら食って掛かってもジジイは何も言わず目を伏せるだけだ。

「クソッ!クソッ!セコいだけの臆病者共め!俺は行くぞ、あいつを助けに行くぞ!」
「止めろ!もう間に合わん」
俺はジジイの制止を払いのけて薪割り用の手斧を持って街の外の平原まで駆け出した。

平原まで駆けて駆けて…俺はやっとのことであいつの所に辿り着いた。
そう、俺は辿り着いたのだ。
彼の愛用の銃の一丁が握られた左腕と赤錆びた鉄人共の死体が転がる平野に…

ジジイの言う通り、俺は間に合わなかった。

10.
僕がその場から立ち去ろうとした時、背後の崩れた酒場から大きな音が聞こえた。
「!?」
「おいおい、もうお帰りかい?まだ宵の口だぜ…」
ダイナマイトとは違う爆発で跳ね上がった瓦礫の中心に、平然と体に炎をまとわりつかせたレッドが立っていたのだ。

「あの程度で俺が死んだとでも思ったのかアンタ」
そう言いつつ彼はローディングゲートを開けて余裕しゃくしゃくと排莢と弾の装填をしだした。
僕はすかさず銃口を彼に向けて一発…

しかし、撃った弾は全く彼にかすりもしなかった。
彼にまとわりついた炎が弾を飲み込んだのだ。
炎が弾を飲み込む一瞬、炎の中に大量の火の精霊達がたむろしているのが見える

「ちったぁ頭を使えよアメリカーノ。なんで俺があの爆発の中で助かったと思ってるんだ?」
リロードを終わらせた彼が鼻を鳴らして馬鹿にする。
「…」
「ハッ!わからないか?じゃあ可哀想な精霊術後進国出身のお前のために俺が講義してやろう…Lección 1!」
彼が指を立てながら話し始める。
「お前はこちらに来る時に、精霊とは仲良くすることで恩恵を受ける事ができるとこっちの奴らに教わったと思うが…アレは大嘘だ。
 精霊って奴は俺のように力でねじ伏せ恐怖によって支配するものなんだよ」
こんな風にな、彼がそう言いながら自分にまとわりつく炎の中から数匹の精霊を掴みとり握りつぶした。
すると、それに怯えた精霊たちが殺されないように必死に炎の勢いを強くする。

激しい業火を纏った彼がその銃口を向ける前に僕は横に飛ぶ。
銃声と同時に彼の銃口から高速で炎を纏った弾が発射され、さっきまで僕が立っていた場所に大穴があいた。


「Lección 2!」
今度は周りに漂う風の精霊達を掴み、殺さない程度に握り締める。
「おい、お前…」
彼が精霊達に何事かを囁くと彼の前に大きな回転する風の球体ができ、彼はそれを先ほどの炎の弾丸二発で撃ちぬいたのだ。
まるで爆発したかのようにそこら中に炎が撒き散らされ僕は身を焼きながら近くの建物の影に必死で逃げ込んだ。
「支配できたとしても同じやり方じゃずる賢いこいつらはすぐに言うことを聞かなくなる。だからやり方をあの手この手と変えていくんだ。
 そうすれば、他の国の奴らがありがたそうにやってるしち面倒くせえ手続きや詠唱なんかしなくても、今みたいな合成魔法も簡単にできるって寸法さ…
 おいおい、もうグロッキーか?まだ最後のLección 3が残ってんぞ!」
彼がゆっくりと銃口をこちらへ向ける。

「クッ!」
「集い、混じり、敵を穿て」
彼は恐怖で従えた精霊たちに号令をかけ、三発の弾丸を撃った。
それは今度は炎を纏って空中で螺旋を描きながら巨大な火の槍となり、強烈な破壊力で僕が盾にしている建物を消し飛ばした…

「上手く支配できても上手く使役できなきゃ意味がねえ。精霊共は脳タリンだ。
 だから指示は簡素にわかりやすく、そしてタイミングよく行うこと……どうだ?これが本場の精霊術を使った戦闘方法だよアミーガ」

運良く爆心地のようになった建物から吹き飛ばされた僕は、彼のありがたい講義を最後まで聞けなかった。
吹き飛ばされしたたかに地面で全身を打ってそのまま気絶してしまっていたからだ。


【RED4】に続く

  • 終わらなかったぞ!?エグさがどんどんヒートアップしていないかRED -- (名無しさん) 2013-10-14 21:10:06
  • 特に時系列を交錯させなくてもよかったような気も。まだ奥の手が残ってそうだ… -- (とっしー) 2013-10-15 22:48:33
  • 強烈な精霊の使役法。REDの凄まじい精神力と気魄があればこそではないか。これも一種の天才と言えるかも知れない -- (名無しさん) 2013-10-15 23:07:34
  • 回想交えたら長くなるぞー!どうなっても知らんぞー! -- (名無しさん) 2013-10-18 23:13:31
  • また別の乱入者とかきそうな雰囲気で最終回はいつになるのか?と思ったけど好きにやっちゃってくれるのが一番面白い -- (としあき) 2013-10-21 22:52:39
  • REDの清々しいまでの悪役っぷりが精霊の扱い方も相まって凄いですね。異世界ではやはり有限の銃弾というのが今後の肝になってきそうな予感がします -- (名無しさん) 2017-09-17 17:39:42
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最終更新:2013年11月14日 20:43