【月灯りの恋人たちⅡ】

雲間から覗く下弦の月。
静かで穏やかなスラヴィアの夜。
瀟洒な城館の一室に差し込む一筋の月光。
寝台の上で愛し合う、一人の女貴族と、一人の屍人の少女。
二人手を繋いで、長い長い薄暗闇の道を歩いていく。
月灯りの恋人たち。


優しいキスの雨。
互いの蕾と花弁を愛撫する。
指と舌を絡めて、唇と肌を合わせて。
ひとしきり快楽を交換し合った後、彼女は私の方に向き直って言った。

「あのさ、これからはもーちょっとハードな感じでいってみない?」
「…………はい?」

唐突になに言い出すのかしらこの子。
思わず額に手を当てて熱を測る。
丸くてすべすべしてひんやりとしたおでこ。

「いや、今まで割とソフトな感じのエッチだったでしょ?
 これって唯の地球人だった私の身体気にしてくれてたんだと思うんだけど…」

いや、別に。
単に私自身がソフトなセックスが好みなだけで。

「ごめんねー今まで気を使わせちゃって…
 屍人の体にして貰ってようやく全力全開でアデーレの相手できるようになったんだし
 これからはそういうこと気にしなくて大丈夫だよ!」

可愛らしいガッツポーズ。
思わず顔がへにゃ、と蕩ける。

「そ、そんなこと気にしなくて良いのよ?今のままでも私は十分満足だし。
 それにあまり強くキスマークとか付けちゃったら、折角綺麗な身体なのに勿体無いでしょ?」
「逆、逆。あたしがアデーレにきっついキスマーク付けるの。もちろんそれで終わりじゃないんですけどね、うぇへへ…」

あれぇ?何か変な方向に話が向かっている。
彼女の目が怖い。

「今までずっとあたしばっかり気持ち良くして貰って悪いなーと思ってたんだよね。
 これからはあたしがアデーレのことネッチリ気持ちよくしてあげるからねー…(ジュルッ)」
「あのっ、ちょっと、気持ちは有難いけど、ホラ明日は『饗宴』復帰戦だし今日はこれくらいで、ね?ね?」
「ほんじゃ復帰戦の激励と前祝いを兼ねてってことで。」
「あっ、あっ、ちょっと、やっ、やめ~~っ」

…彼女はかなり凄いテクニシャンだった。
私はとんでもない『怪物』を生みだしてしまったのかも知れない。
結局『激励と前祝い』はそれから『饗宴』本番の直前まで続いた。


◇◇◇


「今宵、再び華麗な剣の舞を目の当たりにできるのか!?深紅のマントと白銀の甲冑でお馴染みパルファンドゥール女伯爵、『血塗れのアデーレ』遂に復活!!」

注目のカードに「審議候」キエム・デュエト侯爵のマイク・パフォーマンスが冴え渡る。
観客席の貴族たちも興味深々だ。

「ほう“血塗れのアデーレ”ですか。暫く見かけませんでしたが…」
「おや?少々『力』を失っているようですな。」
「マーダー・ペナルティですかな。」
「しかし以前に比べて技のキレは増している。体捌きにも剣筋にも迷いが無い。心境の変化という奴でしょうか。」
「怖れず、されど侮らず。結構なことです。」
「いやはや、まったく。」
「ところで『力』失ったせいですかな?微妙に腰がカクカクしているようだが…」

アデーレ・パルファンドゥール女伯爵は、昨晩の彼女とのハードプレイで身体に若干のダメージを残しながら
冷静沈着な試合運びで見事難敵を下し「饗宴」復帰第一戦を勝利で飾った。


◇◇◇


「おめでとー!ホントすっごいカッコ良かったよー!!
 お城に戻ったらご褒美あげるねー!ご褒美はあ・た・し!なんちてーあははは」

大興奮して観客席からぶんぶん手を振る彼女。
観客の前で大きな声でなんてこと言うの、もう。
可愛い『怪物』はもはやとても私の手には負えない。

私は観客席の彼女の元に走り寄って、キスで彼女の口をふさいだ。
彼女は真っ赤になって静かになったが、代わりに観客席がどっと湧いた。



end















●あとがき
 読んでくださった方ありがとうございましたー。【月灯りの恋人たち】の続編です。
 相変わらずゆるーい百合ですが、前作とは違って非常に軽くてアホな感じに仕上がっております。
 この二人はこれからもこんな感じで夫婦漫才続けながら、二人手を繋いで薄暗闇の長い長い道を歩いていくのでしょう。
 拙い作品ですがちびっとでも楽しんでいただければ幸いです!


  • 理性のリミットが外れたと言うのでしょうか伯爵をも腰砕けにしたのは本能の開花?とも思いましたがよき相手にお互いがめぐり合えたということだけなのかも知れませんね -- (名無しさん) 2013-03-22 22:22:04
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最終更新:2013年03月30日 13:13