11.
「あいつを…楽にしてやってくれ」
「……貴方と彼は知り合いだと聞いてたんですけど…」
僕はその奇妙なお願いを聞いて彼に聞き返す。
それに対して
オーガの老人は笑って答える
「はは、知り合い?……そうだ、あいつとは長い付き合いだ。長い長い…な」
言いながら老人は酒を煽る。
「本当は残った俺が始末をつけるべきなんだろうが、俺にはそれをする勇気さえ無いのさ…なんたって大船長争いから、いの一番で逃げた敗残兵だからな…チッ!もうカラか」
酒を煽りながら自嘲気味にそう語り、飲み干したスキットルを放り投げる。
「……さて、何から話そうか」
「かいつまんで彼の力量と組織の構成員をお願いします。僕は仕事でやってますので彼を仕留めはしますけど、彼の昔話を聞いたところで貴方の思う様な『楽』にはしてあげられませんから」
きっぱりそう言うと老人は少し笑って「わかった。それでもいい…」と言い話し始めた。
そして、僕は老人から彼の簡単な来歴と銃の腕前、率いているならず者の数や武装、拠点にしている酒場兼宿屋の位置など襲撃に必要そうな情報だけ聞くと礼を言いその場を辞した。
戸を開けて出て行く時、老人から声をかけられ振り返ったが、彼は一瞬逡巡し力なく「気をつけろよ…」と見送りの言葉をかける。
僕は振り返らず帽子のつばをつまんで少し持ち上げてから彼の根城である酒場に向かった。
「…これで本当に良かったんだろうか…なあ、ヘンリー」
ガンマン姿の地球人を見送ってから老人は床下に隠していた長い筒状の物を引っ張りだしてそれに語りかけた。
単なる物な上にボロボロに壊れたそれは当然のことながら言を返すことは無く、老人は椅子に座ったままただそれを撫でつつ思案に暮れる。
12.
バシャン!
「ごぼ!ごほ…けは…」
冷たい水をぶっかけられて石の床の上で目が覚める。
体を動かそうとするが、縄で手足をがんじがらめにされていてロクに動けない。
「お目覚めか?この糞ガキが!!」
顔を上げるとそこには目を釣り上げた全身火傷だらけのオーガが桶を持ってそこにいた。
彼は僕を乱暴に掴むと無理やり引き起こす。
「…やあ、男前のオーガさんですね。起き抜けにはちょっと濃いけど」
肉が爆ぜるような音!
レッドにユーリと呼ばれていたオーガが僕の顔を殴りつけたのだ。
「調子にのんなよこのクソが…テメエのせいでこっちがどれだけ被害出したと思ってんだ?あぁ!!」
怒鳴りながらまた床に倒れた僕の腹に何度も蹴りを入れる。
「ごふっ」
腹筋を固めて何とか耐えるがオーガの強靭な足で幾度も蹴られ内蔵が出そうなほどの衝撃が腹部を駆け抜ける。
「ゆ、ユーリの兄貴、殺しちゃまずいですぜ?」「そうそう、そいつを殺すと俺らがボスに殺されちまいますよ」
脇に控えていた生き残りらしいトロルと
ゴブリンがユーリを止める。
「うるせぇ!!赤剥けゴブリンの酔狂なんか知ったことか!こんな奴はここでぶち殺しといた方がいいんだよ!!!!」
部下の制止の言葉を無視して僕を殺そうとなおも執拗に打擲を続けようとするユーリにまた声がかかった。
「賑やかだな…お客人が起きたのか?」
「ボス!?」
一瞬で張り詰める空気。
いつの間にかユーリの背後にレッドがピタリと寄り添っていた。
ユーリが震えながらゆっくりと両手を上げる。背中に銃口が当てられていたからだ。
「…すいやせん。俺、興奮しちまって…本当にすみませんボス」
「……謝らなくていい、誰にでも間違いはある」
銃口が背中から話され張り詰めた空気が緩む。ユーリが安堵して手を下ろそうとする。
「だが、お前は間違い過ぎた」
一瞬、ユーリの顔が絶望に歪み轟音とともにザクロのように爆ぜた。
頭部を失ったユーリの大きな体が床の上に転がり血だまりが床を侵食する。
レッドは何の感情も浮かべず、隅で震える生き残りの部下二人に向き直ると
「刑台の準備ができた。客人を連れて行け…丁寧にな」
それだけ言うと興味を失ったように地下室らしいこの部屋のドアを開けて何処かへ去っていった…
「…本当にお前は疫病神だよ」
腰に縄をつけ足の縄を外して歩けるようにした後、僕をトロルと二人がかりで抱え起こしながらゴブリンがそう言った。
13.
もう一つの拠点だったらしい教会の地下から出て、街の寂れた中央通りに連れて来られた僕はそこに鎮座する急造らしい絞首台の前に引っ立てられた。
周りの建物の窓や戸口から多くの視線が向けられているのを感じる。
僕はそのまま台の上まで足場の悪い階段を登らされる…
ガクンッ!
「!?
おい、転ぶな!さっさと立て!!」
トロルはそう言うと突然足がもつれたようにしゃがみ込んだ僕を無理やり立たせるとそのままゴブリンと引きずるようにして13段の上に連れて行った。
台上に着いた後、僕を引っ張っていたゴブリンが離れ絞首台の前の方まで出て声を張り上げる。
「Attention Please!!この街の善良な市民である紳士淑女の皆々様、本日は貴兄らに喜ばしい報がある!
ここにいるのは極悪人…[おいお前、名前は?][なんとでもどうぞ]チッ!…アノニマス・カワード!!
昨夜、我らが街と『自警団』の詰め所を襲撃し多大なる被害を与えたが、我らが自警団長により取り押さえられたのだ!(当のレッドは少し離れた建物の柱に寄りかかってつまらなそうにこの光景を見ている)
そして、今これからこの大罪人には法の裁きの下、その罪にふさわしい報いである絞首による極刑を執り行う!!」
ゴブリンがアゴで絞首台の前面にある吊り木から垂れ下がっている輪っかを指し示すとトロルが僕を輪っかの前まで引っ立てた。
そのまま床から前に突き出るように配置された板の台に乗らされ首に輪をかけられる僕。このまま台を蹴り飛ばせば、僕が絞首台の下に落ちその勢いで首の縄が締まってお陀仏という寸法だ。
「…何か言い残すことはあるか?」
トロルがそう聞くので口を開き
「前も街はこんな感じだったんですか?」
と、つまらなそうにこっちを見ていたレッドに聞いてみた。
すると彼はその言葉を聞いて大笑いして答えた。
「あっはっはっはっ…そうだ!ここの奴らはずっと『前から』こんな感じだった!次は自分の番かも知れないって予想する能力を持って無いんだよ。ここの奴らは!…だからここに帰ってきた時は、保安官にお暇頂くために鼻息一つ吹いただけで精霊なんぞ使う必要もなかったのさ!」
そう言ってまたカラカラと乾いた様な笑い声を上げ
「だから、無駄な事してないで諦めろ」と今度はこちらの目を見て言った。
どっと冷や汗が噴き出る。
周りをちらりと見ると彼の二人の部下は今の言葉の意味がわかっていないようだ。
…部下は節穴だが彼自体はやりにくい事この上ない。
だが彼はここで撃つ気はなさそうだし、やらなければこのままクリスマスツリーの飾りみたいになることになる。
まあ間に合うかは分からないけれど…
「おい…御託はもういい。大義名分なんてここの奴らは聞いていない。とっとと始めろ」
レッドが二人に指示する。
二人は一瞬なにか言いたそうだったが、自分たちの正当性の主張と体の風通しが良くなることなんて天秤にかける必要性も無いとばかりに素直にそれに従い台に足をかけた。
「¡ Buen viaje !」
「ッ!…it's amazing」
そして、台が蹴り落とされる。
- こう続けてくるとは全く予想外だった。とってもウエスタンの終着駅はどうなる?最後に登場キャラスタッフロールと時系列の表記が欲しいな -- (としあき) 2013-11-14 23:06:15
- より映画チックになってきたけど落としどころがちょっと分らなくなってきたのは確かに分る -- (とっしー) 2013-11-15 23:04:39
- これだけでシリーズ化できそうな勢い。キャラまとめとか欲しくなる -- (名無しさん) 2013-11-16 19:31:49
- いままで読まず嫌いだったけど、おもしれー! -- (名無しさん) 2013-11-17 23:05:22
- やりにくい事この上ないという一言に集約されるREDの行動と見えない本質。破滅に向かって進んでるようで己だけは何があっても立ち続けるのだという確信も持ってそうな。正に命の終焉直前の引きからどうなるか次回を期待 -- (名無しさん) 2018-03-18 16:57:48
最終更新:2013年12月17日 01:25