「こレが地球の船カ」
ミズハミシマゲートのある海上に、光の中から現れた巨大な鉄の船。
轟氷でも押し退け進まんばかりの船首とは裏腹に、側面には赤く大きな蛸が愛嬌たっぷりで描かれている。
“タコフェリー” 日本と
ミズハミシマ間を越門運航する客船である。
運営難より運航廃止がとりだたされていた明石淡路フェリーを国が買収。
本格的渡界交流が整備される中で瀬戸内航路の中に組み込まれる。
当初は所有するフェリーの改装転用も計画に入っていたが、
渡界の際に必要になる設備や機能、
ゲート通過と航路に伴う規格の見直しなどもあって
既存千四○○tクラスのフェリーから代わって新造された千八○○tクラスが航路についた。
国と自衛隊、十一門対策自衛隊とそれに兵庫、神戸の市政関係者の協議の結果、
“極力警戒や威圧的印象を与えないように。馴染み易いものにする” と結論。
タコフェリーの特徴でもあった船体側面の海洋生物のペイントが受け継がれることになった。
「乗船の方はこちらの階段へ~」
海上波止場が満員だったので船から直接フェリーに乗り継ぐことになったのを、延びた階段の先から誘導する声。
取ってつけた様なガイド帽をちょこんと斜めの被った烏賊人が拡声器を口元に呼んでいる。
「何モかもが鉄ナのだナ」
「おや?日本に行かれるのは初めてですかにゃ?」
ふと声がかかる。 猫から鮫へ。
「頑丈で揺れも少ないので気を楽にして乗れますにゃ」
「店の船もコれくラいであレバ積荷の心配もシなくテ済みそうデすナ」
鯖模様をぴくりと動かし髭がピンと伸びる。
「ほほぅ。貴方も御同業ですかにゃ」
「空気ヲ匂えバ察しくらイハ」
階段を登りきった先には広々としたスペースがあり、椅子や留まり木から小さなプールなどが幾つも用意されている。
「また世界の何処かでお会いすることがあるのなら」
「ソの巡り合セを尊んで」
「名乗りましょう」
「名乗リまショう」
がやがやと波動く人混みは多様な人種で溢れ、その中で別れる二人の商人。
「とハ言ってモ今回は商売トは別の目的だガ」
全ての乗船を確認した作業員が柵を閉じると、高らかに汽笛があがる。
船や波止場で手を振り見送られる先で、フェリーは光の中へと進む。
閃光一瞬の後に広がる青い空と海。 瀬戸内海に浮かぶ光からフェリーが現れる。
「ム、何だ?心無シか…」
「皆様、空気が多少重いと感じるでしょうが今しばらく慣れるまでの辛抱を。
風も匂いも太陽も、今までとは一味違う。これが地球、日本で御座います。 ようこそお越し下さいました」
黄色と黒の縞模様が載る他より仰々しい柵の前、壇上に立った背広姿の男が挨拶の後にお辞儀する。
「これより皆様方は入国のための検査と確認を受けてもらいます」
一際大きな声の後、作業服の職員達が柵の前で作業を始め簡易の通路と窓口がすぐに出来上がる。
「入界証をお持ちの方はそのまま窓口で諸々の確認を行って下さい。
お持ちでない方はあちらに見えます艦が接舷した後に検査を受けてもらいますのでこちらへ」
男が手を上げる後、洋上に“十一門対策自衛隊”と大きく書き記された薄水色の中型艦がフェリーへとゆっくり接近してくる。
見る者があわやと思うほど接近し停まった艦より通路が渡し設置されると、次々にフェリーの職員とは違った作業員が乗り移ってきた。
てきぱきと無駄の無い動きでテントを設営すると多様な文字で“入界検査”と書かれた看板を立てる。
「む?ソう言エば言葉ガ…」
「あぁ!すみません。一つ言い忘れていました。
皆様の手などにお持ちの“こけし”は捨てずに異世界へ帰るまでお持ち下さい。
皆様とこうして会話しているのもそのこけしの御利益なので御座いますから」
一斉に場の渡界者が手や荷物を見ると、そこには少々不恰好で小さなこけしが入っていた。
一通りの手続きが済むと接舷していた艦が離れ、フェリーはゆっくりと進みだす。
許可の下りた者達は柵の向こうへと出る事ができるのだが、下りなかった者達は広間から出る事は出来ず、
ミズハミシマへと再び戻されるのである。
只、どちらにしても景色が見える様に広く開けており、戻される側も一時の地球を体験する事は出来る。
フェリーの出てきた場所には光が大鳥居を形成しているのが見える。
進む左の海岸線に本州の街並みが薄っすらと見え、遠く右側には四国を臨む。
そしてフェリーは明石大橋へと差し掛かる。
「間も無く通過しますのが本州と淡路島を結ぶ明石大橋で御座います。
船下には鳴門の渦潮も幾つか見えるはずですが、余り身を乗り出さぬ様にお願いします」
渡る鉄骨とコンクリートの塊の影をフェリーが通過すると感嘆の声があがる。
「何とモはや…あレほど遠クの島を橋デ結ンでしまウとは。 この世界ノ凄さを見セ付けテイる様ではナいカ。
しかし、この“ちくわ”とやらは中々に味わい深い。 もウ一本貰えナイだろウか」
「ありがとうございまーす。157円になりまーす」
黄色黒色の柵を跨ぐ様に鎮座する大きな売店で、ちくわ片手に景色を眺める鮫の手元にもう一本が差し出される。
「一目デ価値が分ル貨幣とは便利ナものダ」
「ありがとうございまーす」
複数の触手を器用に使い、受け取り受け渡しレジ打ちを同時にこなす蛸人。
「そチラの香ばシい匂イのすル玉も気ニなルが…」
「たこ焼き(ソース)で御座いますか? あつあつとクールを用意して御座います」
「デはクールで」
「ありがとうございまーす」
「もう暫くして、当船はポートアイランドの平之港に到着します。
下船の際に、お荷物こけし等のお忘れ物が無い様にお気をつけ下さい」
陸地が近づくにつれ街並みも高く密集し賑やかなものになっていく。
フェリーの周囲を他の船が往来する中、神戸空港の管制塔が背伸びをして待っている。
『 どうも、首飾りの節はお世話になりました。
この度、僕達は結婚することになりましたので
ヴさんにも是非出席して欲しいと思い手紙を書いた次第です。
出席に○を記して返送してもらえれば、渡界の手続きの仕方と費用をお送りします。
まだ法が認めていない内なので形と僕達の気持ちの披露宴になりますが、どうぞ御身一つで起こし下さい
── 須磨 眞潮 ・ 白黒波 』
「世界モ変わレバ変わルものダな。 今回ばカリは商売の事ハ考えなイでオこうカ」
手紙を畳む鮫人がぷかぷかと煙管を吹かす。
空には白い雲が大きく膨らみ、白い煙の環はゆっくりと吸い込まれていった。
ミズハミシマから瀬戸内ゲートを越えてポートアイランドまでの一幕をシェアを添えて
- 異世界の海と風と地球のはどれくらい違うと感じるんだろうかと精霊のいない自然を思う -- (とっしー) 2013-11-18 22:29:00
- 厳重な警備よりも自然体のほうが効果的?明石大橋のインパクトは大きいだろうなー -- (としあき) 2013-11-21 22:28:55
- 違う世界で知り合った人を招待するっていいなぁ… 結婚するのか!?シャチショタカップル -- (名無しさん) 2013-11-22 23:29:58
- にゃと可愛いサバーニャですがそこそこな歳だったと記憶。異世界の人々が驚きそうなのは物の大きさもさることながら鉄で形成されたという点なのではと思いました。世界を越えて知り合った人を招待する・できる時代が心温まりました -- (名無しさん) 2018-03-18 17:12:09
最終更新:2013年11月16日 23:23