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【エルフを拾った日】

「おい神崎、お前今日はもうあがっていいぞ」
そう言ったのはバイト先の店長だ
時間は13時、バイトからあがるにはいつもより1時間ほど早い
いつもは混み合っている店内も今日はガラガラ
これから客が来そうな気配もないが、
「いいんですか?」
そう店長に問いかける
「おう、とりあえず開けてみたが、3が日も過ぎねぇ内にラーメン食いに来るのなんざそういないだろうし、
今日はもう俺だけでいいよ」
商店街側の古びたラーメン屋が僕のバイト先
常連客だけでもってるような店だが味は確かで時給も悪くない
店長はドラマにでも出てきそうなくらいいかにも昔からやってますって感じのオヤジだが、
それなりに気前もよくて僕はこの人が嫌いじゃない
「じゃあ今日はもうあがらせてもらいます」
そう言って僕は裏に下がって制服から着替える
と言っても上着を変えるだけだけれど
「じゃあ失礼します、お疲れさまでした」
「おうお疲れ、お前は次は明後日か?宜しくな」
一旦店長に顔を見せてから店の入口へ向かう
外に出てみれば雨が降っていた
「店長、外雨降ってますよ」
「そうか、それじゃあ尚更客がこねぇな」
今日は早めに締めるか、という店長のぼやきを聞きながら店を出る
ビニール製の雨避けがうるさく音をたてるくらいには強い雨だ
「傘、買って行こうかな」
そう思ったけれどアパートの自室のすでにビニール傘が何本かある事を思い出し思いとどまる
上着のフードをかぶり自室まで走ることを決めたとき、後ろから声がかかった
「傘がねーんだったらウチのを使うか?」
振り向くとカウンターの中にいた店長が入口そばまできていた
「いいんですか?」
「次のバイトの時に持ってくるのを忘れるなよ?」
「ありがとうございます」
ありがたく店長から傘を受け取ることにする

傘を広げてアパートまでの道を歩く
雨の勢いは相変わらずで傘をはねる音がうるさい
店からアパートまでは徒歩で20分かからないくらい
それほど遠い距離ではないが古ぼけたアパートのある場所は商店街から離れ、人気のない所である
3が日も過ぎていないという事もあり人は全くと言っていいほど見かけず雨が降っていると正直不気味だ
ズボンの裾が雨にぬれて気持ち悪い早い所家に帰りたくてつい足早になるが、

視界の端に、何かが写った

黒い、と思った
しかし近づいてみればそれは雨と泥に塗れ黒くなっているのであって、もとは白いものであったように察せられた
そして雨のせいでよくわからなかったが、それが何であったのかも分かるようになる
「子供?」
僕は思わずその子に駆け寄った
「どうしたの?大丈夫?」
その子の前にしゃがみこみ声をかける
目の前でよく見てみれば泥に汚れたその肌は大分白い、外国人だろうか
「迷子?言葉わかる?」
その問いかけにその子からの返事はなかった
ただその頭が肯定を示すように少しだけ揺れた気がした
「ウチに来る?」
そう言って、その子に傘がかかるように向けて立ち上がる
座り込んでいるその子の手を取ろうとすると、拒否するようにその子の体が震えた
その様子に思わず手を引っ込めてしまう
「ついておいで」
そう言って歩こうとすると、後ろで慌てて立ち上がるような気配を感じた
ついてきてくれはするみたいだね

アパートにつき次第僕はその子を風呂に押し込んだ
僕の部屋は風呂は付いているものの部屋自体は狭い
漫画やドラマにありそうないかにも貧乏学生の住む部屋という感じだ
お風呂も当然ユニットだ
黒い汚れでぐちゃぐちゃな服はどうやらワンピースだったようだ
服を脱ぐように言った時にあの子は少しためらった様子だったがどうやらそれは女の子だからだったようだ
でもまぁまだ小学生くらいのようだったし大丈夫だろう
しかし迷子の小学生と思しき子を家に連れ込むのはまずかったかもしれない
まぁやってしまったのだから仕方ない、この汚れた服はあとでコインランドリーに持っていくとして
これからあの子が着る服を用意しなくてはならないな
そう考えつつ部屋の端に置いてあるストーブのスイッチをつける
灯油式のストーブなので温まるまで少し時間がかかるが仕方ない、
後は何か暖かいものでも出そうとヤカンに水を入れコンロで火にかけ、
ひとまず僕の古着でも引っ張り出して着せようかとタンスを開けようとして気付いた
シャワーの音がしないのだ
もしかして使い方が分からない?
僕はドアを叩いて声をかける
「シャワー、使い方分かる?」
返事はない、思えばあの子はこれまでも言葉を発していなかった
思わずため息が漏れる
「ごめんね」
と声を掛けドアを開ける
彼女はまた座り込んでいた
「ここをひねると水が出るんだ」
なるべく彼女の方を見ない様にしつつシャワーの使い方を教える
お湯がちょうどいい温度になった後で彼女に渡す
「あっ」と、
彼女から少しだけ声が漏れた
僕は少しだけ安心した、もしかしたら声が出せない子かとも思っていたから
「温まったら出ておいで」
そう言ってから部屋に戻ると
「げ」
火にかけっぱなしだったヤカンからすごい勢いで湯気が出ていた

シャワーを浴びて出てきた彼女にタオルと着替えを渡し、2つのカップ麺にお湯を注ぐ
彼女には僕のシャツと高校時代のジャージを来てもらった
やはり丈が合わなかったので袖と裾をまくって合わせてあるが、それが尚更に彼女を幼く見せる
下着は持っていないのでなしだ
これは、捕まっても何も言えないな
シャワーで汚れを落とした彼女は白い肌とくすんだ銀っぽい長い髪の美少女だった
それだけでも目立ったが、それ以上に
「耳が長い」
思わず口に出たその言葉に彼女は身を固くした
「何もしないよ、と言ってもすぐに信用するのは無理かもしれないけど」
そう言って彼女にカップメンを差し出す
明らかに外国人と思われる彼女に箸が使えるかは分からないので代わりにフォークを渡した
彼女はそれがなんなのかよくわからない様子だったが僕が食べ始めるとゆっくりと食べ始めた

「私はエルフです」
と、彼女が言ったのはカップ麺を食べてしばらくたった後だった
初めて聞いた彼女のちゃんとした言葉に僕は一瞬固まったけれど
エルフという聞き慣れない言葉に
「エルフって言うのは名前かい」
と尋ねた
すると彼女は困ったような顔をして
「いいえ・・・名前では、ないです
ええと、あなたは・・・異世界というものを知っていますか?」
と返してきた

異世界

世界各地にゲートが開いたことによってつながった別の世界
その世界の住人がこちらの世界に来ていることは知っていた
しかし、これまで僕は実際に異世界の住人というものを見たことはなかったのだ
今、この時までは

「じゃあ、君はその異世界から来たってこと?」
その問いに彼女は、はい、と肯定を返した
「私はその中でもエルフと言う種族です」
耳が長いのがエルフと言う種族の特徴なんです、と彼女は補足した
彼女の話によると、なんでも彼女はこちらの世界に半ば騙されて連れてこられたそうだ
その後、彼女を連れてきた人物は彼女をこちらの人間に売り払おうとしたらしい
しかし彼女はどうにか抜けだし逃げてきたとのことである
何だか面倒な話になってきてしまった
ひとまず誘拐犯として捕まる心配は少なくなったであろうことが救いか
まさか人身売買に手を出している奴が警察に駆け込むこともあるまい
「はぁ」と、また溜息がもれる
彼女がまた震えた気がした、怖がらせてしまっただろうか
「とりあえず君はしばらく外に出ない方がいいかな」
そう僕がいうと彼女は少し俯いていた顔を上げて
「いても、いいんですか?」
そう訊ねてきた
「いいよ」
まさかここで放り出すわけにもいかない
異世界とやらに戻るにしてもしばらく匿ってからの方がいいだろう
彼女を連れてきたという奴に見つからないとも限らない
ただ、問題としては
彼女の下着を一人で買いに行かなくてはならないという事だ
また溜息が洩れた


  • シチュエーション的に全うじゃない展開ですんなりとハッピーラブラブにはなりそうもないだけに…続きにムネワク -- (名無しさん) 2014-01-03 11:39:09
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最終更新:2014年01月03日 11:32