3.
ゲート
ある日突然に、何の前触れもなく出現したとされる異なる世界と世界を繋ぐ門
僕の生まれる丁度1年前に開いたと言われるそれは、これまでに世界中の様々な学者たちによって研究されてきた
しかし、僕がこうして成人しフリーターと言う不安定な道を歩みこれからの人生に少々の不安を抱くようになるほどの年月がたった今でも
全くと言っていいほどその原理は解明されていない
だが未だに多くの学者がゲートについての研究を続けており、異世界に赴いてまで研究している人間も少なくないとか
そして、また
ゲートがもたらした様々なものを研究のテーマとする学者も数多い
それはゲートの向こう側にある異世界そのものであったり、あちらの世界にあるという魔法とでも言うべきものであったり
異種族という生物であったりだ
「私はもともと、あちらの世界で失踪した友人を探していました」
彼女、ニィアは落ち着いた様子で話し始めた
その表情は堅く
幼い、ともすれば小学生にも見えそうなその外見には何とも不釣り合いだった
「ある日、ある人間が私に声をかけてきました」
私の探している人を探していると
彼女はそう続ける
人間が、というその言葉は
こちらの住人と彼女とが、ひいては僕と彼女が
文字通り別の世界の住人である事を嫌でも感じさせる
「私の探し人は小ゲートによりこちらにいて、事情により離れられないけれど心配はいらないと言付かってきた、とその人は言いました」
こちらの世界と言うのはえーと、今いるここのことです。と補足して
「私はその人に頼んで友人に合わせてもらうためにこちらに連れてきてもらいました」
しかし、彼女の連れてこられた場所は
「私がこちらの世界にきて連れてこられた所は白くて大きな建物でした
そこが普通でないのはすぐに分かりました」
精霊が教えてくれましたから、と彼女は言った
精霊と言うのは自然現象等を操ることのできる意思を持つ存在であり、こちらの世界では今のところ見かけないけれど異世界にはよくいるものであるという
彼女は仲のいい精霊が一緒にこちらの世界についてきてくれたおかげでその施設から逃げだせたのだという
「ということはその精霊さんは今もいるの?」
「はい、でも人見知りなので」
姿は見せてくれないと思うとのことだ
少し残念だ
彼女はその施設でやっていた事について詳しくは触れなかった
ただ、そこでは
エルフや他の長命種族についての研究をしていた、と言う事だけを告げた
「言いたいことは大体分かったわ」
と、これまで黙って彼女の話を聞いていた姉が口を開く
「そんな風に大きな施設で研究をしているような連中は警察とも何かしらつながっているかもしれないってことでしょ?」
ニィアはこくりと頷き
「私はそのケイサツというものはよくわかりませんが、あなた方の口ぶりからしておそらくは厄介事の解決を担当するものなのでしょう」
ならば、
「大きな施設で研究をするなんて目立ちそうなことをするのなら、そのケイサツという人たちとつながっていてもおかしくないのでは?」
そう彼女は告げた
長命な種族の研究
ドラマや漫画の中であればたしかに、偉い人がやらせそうな研究ではあると思う
しかし、果たして現実でもそうなことがあり得るのだろうか?
それも警察に根回しをしてまで?
なんとも信じられない話である
だが、既にこの世界では信じられない事が起こっているのだ
そう、僕の生まれる1年前に
ゲートの出現という信じられない事態が
「わかった」
と、またしばらく考え込んでいた姉が言った
「あんた実家に帰りなさい」
と姉は僕に言った
唐突だ
意味がわからない
……意味がわからない!
「なにそれ!?」
思わず叫んでしまった
本当に意味がわからない
何故この流れで僕が実家に帰ることになるんだ!
「その施設については私が何とかしとくわ」
今なんて言ったコイツ
「その間あんたはこの子と一緒に隠れてなさい」
何とも信じられない事を言っているが姉の顔はいたって真面目だ
僕は知っている
こういうときの姉は本当に真面目に考えてそう言っているのだと
その様子を見て僕も少し冷静さを取り戻すことができた
だから、僕は姉に問いかける
「何とかしておくってどういう事?」
そう問う僕に姉はしっかりと目線をあわせ、
「私の仕事、教えたことなかったよね」
そう言って姉は携帯電話を取りだした
姉がどこかに電話をかけて20分ほどたって、僕達のいる安アパートの前にはなんとも似つかわしくない高そうな車が停まっていた
姉の仕事仲間と言う人の運転するその車に乗って、僕とニィアは2時間ほどかけて僕の実家へとたどり着いた
道中、僕はバイト先の店長に家庭の問題によりしばらく帰省しなくてはならず3ヶ月ほどこちらには戻れないと告げた
店長は急過ぎるその知らせにとても参った様子であったが、また戻れると約束できるのならバイトは辞めたことにはしないと言ってくれた
そのありがたい言葉に、もう僕は店長に頭が上がりそうにない
まぁ戻ってきた後に、向こう1年は自給を100円減らすと言われてうなだれることになるのだけど
結局姉は僕に自分の仕事の内容を言わなかった
僕も特に聞こうとは思わなかった
どうせ言わないのは目に見えていたし、とりあえず普通な仕事ではないことはわかって、それだけでもいいかとなんとなく思ったのだ
あの人は昔から、見かけはただのギャルなのに裏ではいつも何か凄いことをやらかしているような、そんな人だったから
そして僕はいつもそんな姉に憧れていた
そんな姉に憧れて都会へ出て、やっていたのがラーメン屋のあるバイトでは恰好がつかないけれど
車内での僕とニィアの会話は他愛のないものでしかなかった
今向かっている僕の実家がどんなところかとか、姉の話とか
実験施設から逃げた時とかにけがとかはなかったかと訊ねて、シャワーを浴びた時に見たでしょなんて言われて墓穴を掘ったりもしたけれど
異世界の話も少しだけど聞けてなかなか楽しかった
所々聞きとれない言葉があったけれどそれはきっと名詞か何かなのだろう
そうだ、こうして彼女と話せるのも彼女がゲートをくぐる際に得た翻訳の加護のおかげなのだという話も聞けた
昨日から今日までの間できっと一番会話ができたと思う
でも、もしかしたらそれは、これから帰るあの家の事をあまり考えないようにするために無意識のうちに多弁になっていただけかもしれない
家に行く途中でスーパーによってもらう事にした
あの家には今は食べ物は何もないはずだから
この村から出て行ったのはもう何年も前だが、昔よく使っていたスーパーは今も変わらずそこにあった
まぁココがなくなったらこのあたりの人は片道1時間はかけて買い物に行かなくてはならないのだけど
実家周辺は畑と田んぼしかないような農村でその風景は今も全く変わっていない
ニィアはスーパーでは物珍しそうにきょろきょろとしていたが、畑ばかりの風景を見ると自分の故郷を思い出すともらしていた
少し笑顔を浮かべるその様子は可愛らしくて思わず頭を撫でてしまった
かなり嫌がられた
数年ぶりに帰ってきた実家は記憶の中と全く変わらぬ木造の古臭い姿のままだった
違うのは、両親がいない事くらいだ
そう、僕の両親はどちらもすでに亡くなっている
遺産は想像以上に残っていた。それこそラーメン屋のバイトでは一生かかっても越えられないくらいには
しかし僕と姉はあえてそれを使わずに自分で稼いだ金で生活することをえらんだ
そういえば、と
僕は両親がなんの仕事をしているのか知らなかったことを思い出す
もしかしたら姉は両親の仕事を継いだのかもしれない
なんとなくそれが間違っていない気がして、少しの疎外感を感じると同時に
きっと姉は僕に好きにやらせたかったのだろうとも思った
ここまで車で送ってくれた姉の同僚は休憩する間もなくすぐに街に戻るそうだ
送ってくれた礼を言うとまた明日にでも姉と一緒にこちらに来るとのことだった
何かあったらメールを送ってくれとアドレスを交換してくれたが、
メール交換の際に表示されたのが「鈴木太郎」というあからさまな偽名なのが気になる
やっぱりヤバい仕事なのだろうか
だがツッコまない
君子危うきに近寄らずである
さて、まずは何年も使ってなかった家の掃除でもしようかと思っていると
地面にしゃがみこむニィアが視界に入った
「どうかしたの?」
と声をかけると、彼女は地面に触りながら
「良い土ですね」
と言った
「そうなの?」
「ええ、良い土です」
そう言って彼女は微笑んだ
そう言われると僕もまた、少し嬉しくなった
僕はこの家を出て都会へと移ったけれど、決してココが嫌いだったわけではなかった
産まれ育って、思い出もあるこの土地を褒められるのは何にせよ嬉しい
「ありがとう」
「えっ」
「さて、掃除をするよ。この家はずっと使ってないんだ」
家の中は思っていたよりも綺麗だった
もしかしたら姉が時々帰って来ていたのかもしれない
そう思いながら軽く家を掃除してから、夕食の準備に入る
玉ねぎを刻み、鶏肉と一緒に炒める
台所に良い匂いが充満してくる
火が通ったところでケチャップを入れからめる、そしてご飯を入れてほぐすように炒めていく
良い感じに混ざり合ったら一旦ボールにあけて置いておく
さて、次は卵だ
卵は軽く混ぜておいて、フライパンにはしっかりと油を馴染ませる
そしてフライパンでバターを溶かし、まぜておいた卵を投入
はしでかき混ぜながら卵を熱して、半熟になったら火を止める
さぁ最大の難関であるところの包み作業である
正直上手くやれる自信はないけれど
卵の真ん中にさっき作ったケチャップライスをのせて卵で包む
そして包んだ物を回転させていけばオムライスの完成である
完成したオムライスをニィアの前に出す
「はい、召し上がれ」
「たまご?」
彼女の目の前には見事なオムライスが置いてある
僕の自信作だ
もっとも僕用のものは量が多かったせいもありちょっと不格好になってしまったけれど
「うん」
「たまご好きなんですか?」
そう聞かれてから、そういえば朝もオムレツだった思い出した
「そういえば朝も卵だったね」
「あっええと、飽きたとかではないんですよ?」
慌てたように言う彼女に僕は思わず頬を緩める
「明日は違うものを出すようにするよ」
「あのっ本当に飽きてはないですよっ」
言いながら彼女は目の前のオムライスにスプーンを入れる
そして中のケチャップライスを見て
「あっ」と声を出す
「食べてみて」
そう促すと彼女はすくい取ったライスと卵とが崩れない様にそっと口に運んだ
そしてゆっくりと咀嚼し、「おいしい」と小さくつぶやいた
その言葉に僕は心の中でガッツポーズを取ったけれど、なるべく顔に出さぬようにしながら自分もオムライスを食べる
でもきっと顔がゆるむのは隠しきれていなかっただろう
こういうのは久しぶりだ
オムライスは母の得意料理で、姉の好物だった
もちろん僕も大好きだったから、昔、母に頼んで教えてもらって何度も練習したのだ
昔を懐かしみながら食事を終える
そして彼女にお風呂を進めようと考えて、
服を買ってない事を思い出した
姉にニィアの服を買ってきてほしいとメールで頼み
結局今日も彼女には僕の服を着てもらうことにした
食事をした部屋と、襖で仕切られた隣の部屋に布団を一つずつ敷き
そしてさぁ寝ようかという段階になって
「あの……今日も、寒いですね」
彼女はためらいがちにそう言ってきた
「ああ、うん、そうだね」
どういう意図かはかりかねている僕に彼女は
「いっしょに寝ませんか?」
そう爆弾発言をかましたのだった
「え?ええと、なんで?」
まさかたった2日で僕に惚れたわけでもなかろうにと戸惑っていると彼女は
「エルフは寒いと死ぬのです」
と、淡々と答えた
「なにぃ!?」
なんて脆弱なんだエルフ!
いや待て、でも確か
「昨日雨に打たれてたのって」
「実は死にかけてました」
だから声が出せなかったのです
そう言う彼女の声は妙に無感情で淡々としていたがエルフと言う種族について無知な僕には真実かどうかの判断はつかない
冷静に考えよう、幼いと言えど女性である彼女が無意味に男性と一緒に寝ようとするだろうか?流石にそれは考えづらいのでは?
と言う事はやはりエルフは寒さに極端に弱い種族と言う事か?
まっまぁアレだ、僕が手を出さなければ特に問題はないのだ
いくら可愛いと言えど小学生か中学生くらいの子にそんなやましいことなど僕はしない
そういう鋼の心を持てばそう
「いっいいよ?」
この位はどうってことない
ハズダ
同じ布団に入った彼女は、僕が思っていたよりも更に小さく華奢に感じた
ほのかに何か花のような香りが漂ってくる
僕は心の中で呪文のように、まだ子供まだ子供、と唱え続ける
こんなに意識してる時点でもう子供と見れていないのだがそこからは目をそらす
僕ってロリコンだったのかなぁ?自分ではシスコンだと思っていたのだけれど
などと目の前の小さなぬくもりから目をそらすべく思考に没入していたのだけれど
ふと彼女が何か言葉をもらした
「大丈夫だよ」 と
その言葉は、彼女自身に言っているようにも思えたし
僕に向けて言っているようにも思えた
思えば、僕は今日姉と久しぶりに会い
長く離れていた家に戻り、
少し、心が弱くなっていたのかもしれない
いや、きっと弱くなるまでもなく僕の心は強くなんかなかった
憧れていた姉の真似をして田舎から出たのも
親の残してくれたお金を頑なに使うまいとしたのも
ただ目をそらしていただけだったのかもしれない
両親がいなくなったことから
両親のいない家が嫌だったから、好きだった田舎からも離れて一人で暮らして
ずっと家に戻らずにいた
そして久しぶりにこの家にもどって、両親がいない事を実感して
案外彼女は、ニィアはそんな僕の気持ちをなんとなく察して
慰めてくれようと、こうして一緒に寝るなんて言いだしたのかもしれない
そう思うと、古くて寒いこの家も、少しだけ暖かくなった
そんな気がした
- ただのイチャラブになるかと思っていたけど大きそうな背景と最小限度のキャラそれぞれにがっちり色をつけていてとっても魅力(特に姉さん -- (名無しさん) 2014-01-07 23:16:24
- ニィアの背景の危うさと二人のふれあいのギャップが次回をわくわくさせる。二人の空間で話が進むと思ってたので姉登場!は予想外の期待感 -- (名無しさん) 2014-01-10 23:17:09
最終更新:2014年01月07日 23:14