【私が拾われた日】

まだ続けるのかい?と
あの子は囁く
みつけたところで何がどうなるわけでもないだろう?
私は頷いた
それはどちらの問いかけに対するものなのか
私にもよくわかってなかった


しばらく前に失踪した友人の居場所を知っているとそいつは言った
ゲートで異世界に来てしまったけど無事だから心配しないで
そう言付かってきたとそいつは言ったけれど
明らかに嘘だ
あの子はそんなことは言わない
だって私が心配なんかしない事はあの子が一番知っているから


嘘つきな異世界人にくっついて異世界にやってきた
そいつが何を考えているのかとか割とどうでもよかった
何故あの子の事を知っていたのか
それもどうでもよかった
なんとなく、こっちに来てみようかとそう思っただけ
「どうとでもなるしね」
そう囁くあの子を幻視した
ふと辺りを見渡すけれどその姿はない
「こちらですよ」
嘘つきの案内するがままにジドウシャとか言うものに乗りこむ
生きてないのに走るだなんてスラヴィアンにしかできないと思っていたけど
人の思うままに動かせてしかも大した速さだ
案外、こちらの世界に来たのは正解だったかもしれない
暇つぶしにはなりそうだ

連れてこられたのは森の中の白くて大きな建物
ろくでもない気配がする
まぁわかってたけど
ジドウシャが停まる
先に降りた嘘つきに促されてジドウシャから外に出て
私はそこから走りだした
それこそ全力疾走で
勘のいい人なら私でなくたって逃げ出すというものだ
どうせこの建物ではろくでもないことをしているのだろう
例えば、異種族の研究とか
大体私はこいつらが嘘をついてることを知っていたのだし
嘘つきたちは私を捕まえようとしたけれどそんなのは無駄なことだ
あの子の笑い声が聞こえる
その声を聞いたのは私だけではなかった
あの子の声はこのあたりに響き渡り
そして、雨が降った
私を止めようとする奴らの上にだけざぁざぁと
滝のような土砂降りだ
身動きすら取れないほどの雨に打ちのめされ私を捕まえることなんかできそうにない
私は山を駆け下りる
今はまだあの建物の辺りにしか降っていない雨だがすぐにその範囲を広げることだろう
あの子の笑い声はまだ続いているしこれは相当な大雨になることだろう
だってこの雨はあの子が降らせているのだし

あの子と最初にあったのはいつだったろうか
一緒にいない記憶がない
あの子はとても強い力を持った精霊で
私は幼いころから一緒だった
もちろん今も一緒にいる
基本的に姿を見せることを好まず、けれど常に私の側にいる
あの嘘つきたちは私に「親しい友人がいて」「その姿を見た者がいない」ことは知っていたのだろう
しかし、その「友人」が精霊で、しかもとても強い力を持っていることは知らなかったのだ
まぁ私も親しい友人がいるとを誰かに言う事はあってもそれが精霊であると言ったことはないし
紹介して、などと言われても旅をしているので久しく会っていないなどとごまかしたりなどしていたし
あんな間抜けな嘘を言うのも仕方なしというものだろう
街に向かって走る私の側できゃあきゃあと笑い声が響く
友人とは言うもののこの子の考えは私にはよくわからない
でもそんなのは割とどうでもいいし、全く理解できていなくとも私はこの子の友人だと思っている
思っているというか、当然のことなのだ
私とこの子が離れることはないと、なんとなく確信している

街に着いたころには辺りはもう雨に包まれていて
当然のように私もびしょぬれだ
そして泥だらけでもある
山から逃げてきたから仕方ないことだ
きっと私が途中で足を滑らせて無様に尻もちをつかなくても泥だらけになった
仕方ないのだ

結構な距離を逃げてきたので疲れてしまった
そして寒い
実はこの子は私の為にその力を使ったわけではない
ただ面白そうな時になんとなくその力をふるうだけなのだ
それでなぜ、あんな計ったようなタイミングで雨が降ったのかと言えば
アレはタイミング良く雨を降らせてくれたのではなく
私がタイミングよく逃げたのだ
何せ100年も一緒にいるのだからこの子がやらかすタイミングも大体わかる
あれ?300年だったかな?
まぁどちらでもいい
とにかく私は疲れて道端に座り込んでしまった
何度体験してもこの土砂降りは身体に堪える
しかし逃げたはいいがこれからどうしようか
異世界に来ても雨乞いが出来ると言えば農村あたりでお金も貰えるだろうと思っていたが
目の前にあるのはどうやって作ったのか見当もつかないような建物と
堅くて冷たい、石では何かに固められた道
ジドウシャとか言うものはビュンビュン走っているし
この世界で雨乞いとか重宝されそうもなかった
はぁ
思わずため息が漏れる

どうしようかな


道端に座り込んでこれからについて悩んでいた私であったが
「どうしたの?大丈夫?」と
声をかけられた
声をかけてきたのは人間の男性で
黒い髪に人のよさそうな顔をしていて線が細い
向こうの世界では頼りないとか力が弱そうとか言われてモテないタイプだ
「迷子?言葉わかる?」
しかしその声は確かに優しさを感じさせて
「ついておいで」
とそう言って歩いていく彼の後ろについ、ついていってしまった

連れて行かれた先は小さな部屋で
まずは服を脱がされた
ついてくるんじゃなかったと思った
そして素っ裸にされるや否やさっきの部屋よりずっと小さい部屋に押し込まれた
何なのよ
変な男に引っかかってしまったとちょっと泣きそうになっているとその男もこの部屋に入ってきた
何の準備をしていたんですかねぇ
さっきの部屋に戻ったら木馬とか置いてあるのは勘弁してほしいとか思っていたけれど、どうもそういうわけではないらしい
彼が何やら壁の丸いものをひねるとなんと長細い道具から水が出てきたのだ
しかも暖かい
そのお湯に触れて私は思わず
「あっ」と声が出た、
そして
私働き口見つからないな、と
そう思った

借りた服を着て、彼の差し出した食べ物を食べる
しょっぱくてちょっと口がピリピリするけれどなかなかおいしい
見知らぬ他人に、自分の服を貸し、暖かいものを食べさせる彼はやはり良い人なのだろうと思う
ふと、彼が私の顔をちらちらと見ている事に気づく
耳、だろうか
さっきも彼は私の耳の事を気にしている風だった
彼ら人間にはおそらくこれほど耳の長い人はいないだろう
他の部分がほとんど同じだからかえって気になるのかもしれない
なので私は食事の後に彼に向って
「私はエルフです」とそう言った
私としては、その言葉を聞いた後で彼があの嘘つきたちに知らせるかも知れないとも思っていたため
意を決しての発言でもあったのだが、それに対しての彼の発言は
「エルフって言うのは名前なのかい?」
という、何とも気の抜けるものだった

「君のことはニィアって呼ばせてもらってもいいかな」
と彼が言ったのはエルフと言う種族にと異世界について軽く説明し、私の名前を教えた後だった
私の名前はこちらの人間には発音し難いから、という事であったが
そんなあだ名で呼ばれるのははじめてだった
翻訳の加護と言えど名称については難しいところも多いのだろう
まぁ世界が違うのに会話出来る方がおかしいのよね
と思っていると
「僕の名前は神埼昭士って言うんだ」
これからしばらく宜しく、と
彼、ショウジは言う
明らかにわけありな、しかも異世界人をあっさりと家に置こうとする彼は随分と不用心
こんなにお人好しで大丈夫なのか心配になってくる
しかも自分のベットまで私に譲って
ほんとにお人好し
でもまぁあの嘘つきたちはダメだが
「こっちならいてもいいかな」
毛布にくるまり小さくつぶやいたその言葉は
きっとあの子だけが聞いていた



  • 一周回ってこの演出回で一話を締めたのは上手い。二話からどう話が転ぶか楽しみですな -- (とっしー) 2014-01-06 23:57:39
  • コピペミスで丸ごと抜けてた部分があったので追加しました -- (書いた人) 2014-01-07 19:05:28
  • 精力的な活動が眩しい。この優しい空気いいね -- (名無しさん) 2014-01-09 23:30:10
  • 友人どうなってしまうん?施設の謎や追ってとかは?というのもあったけど人間との寿命の違いが一番気になったかな -- (名無しさん) 2014-01-10 23:21:21
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最終更新:2014年01月07日 16:21