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【ラ・ムール、その門を越えて】

国連査察団募集という名目で各専門分野から募られたメンバーの実に半数が“実物の猫人を見てみたい!”という動機だった。
突如光に包まれて遠近問わず何時も問わずワープする事例が多く報告されている異世界の国へ赴くと何とも頼もしいヤツらだ。
真面目に異世界の砂漠地質調査に趣味と実益を兼ねて立候補出た私が間抜けに見えてしまうじゃないか。

かつて世界情勢の緊張が沸騰寸前にまで到達した湾岸戦争の最中、最大の攻撃作戦開始直前の夜空に浮かび出た
並ぶ兵器群を照らした巨大な光球と、それから直下に降り伸びた眩い柱。
新兵器か核の使用かと騒がれる中で双方両陣営共に攻撃は停止。
全世界規模で発生する“光の柱現象”。兵士と監視の目が注目する先、光柱より現れたのはラ・ムールの大使と名乗った“猫人”であった。

情勢の複雑さや財政事情から異世界の門である光柱の管理を国連に委任する国も出てくる中で、イラクもその一つであった。
あらゆる戦闘意思が睨み合った砂漠は鉄とコンクリートで固められ、ゲート管理局が建造された。
場所柄、その施設の防備は堅固強力で多国籍軍が滞在するに至る。
とは言いながらも、地球側からの通行には厳重なチェックと制限が付くが異世界側からの通行は、他国の自由通行ゲート並みである。
それは、国連がゲートによる経済基盤とそれによる往来と治安安定化を望んでいるという表れだろうか。

かくして国際合同査察団はイエロー&ブラックのスプライトが四方に貼り付くゲートルームより…光へ入った。
「あ…この感じ、昔お婆ちゃんの家の縁側で浴びた陽射しの様な…」
懐かしさを噛み締める間もなく石段に足が着いた。
「査察団の人たちはロープのこっちを通るにゃー。 そっちは地球へ向かう通路なのにゃー」
 これが!本物の!肉球!猫人!にゃー!
想像していたよりも結構猫。
異世界の種族は同じ中にも多様な容姿に分かれると言われているが、きっと人っぽい猫人などもいるのだろう。
「ではこれから王都へ向かいますにゃー。異世界の人たちはガイドである私の言うことをよく聞いて行動するにゃー」
「猫娘さんのガイドも頼めるのですかな?」
「オプション料金になるけど呼べますにゃー」
「分かりました。如何ほどでしょうか?」
さくさくと交渉を進めるスポーツ学の教授… 既に為替を済ませ異国の貨幣を数枚、ガイドに手渡している。
「相当な年代モノだが、しっかりとした造りですね。床も壁も浅い亀裂程度で本質的な劣化はほとんどないようです」
壁と足元をしげしげ見つめながら歩く英国の遺跡研究者は既にスイッチが入っているようだ。
腰から少し上、子供の背丈の猫人だが思ったよりも足が速い。
それに想像していたよりも見た目様々な人で溢れているため、少しの油断ではぐれてしまいそうになる。
「っと、どうしたい。 ん?あんたが今回の護衛対象か?」
ぼろぼろの服の上からでも分かる硬い胸板、鱗肌…
「す、すみません。ちょっと急いでいたもので」
「カナヘビの旦那~こっちですぜ~」
「早くするニャ!時は金なり商機なりニャ! サバーニャ商会では“時間”は貴重な非売品ニャ!」
「すまない。勘違いはこちらの方だった」
異世界側、ラ・ムールのゲートがあるのは廃神殿。
長らくその身を休めひっそりと佇むだけであった無人の神殿も、今では世界を行き来する人々と、その人々目当ての商売人などで大いに賑わっている。
自然光の差し込む神殿から一歩出ればそこは何処までも広がる砂漠、焼ける砂の匂い。
所々に岩と草も見える砂地にうっすらと石畳の様なものが見え隠れする。
「皆さん、これに乗って下さいにゃ」
大小様々な厩舎や小屋が並ぶ中からガイドが連れてきたのは丸太の様に長く太い青色の胴体に四対八本の脚が生えた蜥蜴。
乗用なのだと見て分かる鞍が六人分と、貨物台が尾の根元に備え付けられている。
全員の荷物を積み終え乗ったのを確認すると、ガイドが蜥蜴の首元に立ち乗り、轡から伸びる縄をぴしゃりと打ち鳴らす。
「はいにゃーシルバー!」
まさかの世界共通か!

それぞれの足を器用に素早く動かすせいか、その速度以上に安定性に驚く。
「筋肉と骨、それぞれの動作のバランスが生み出した自然のサスペンションということか。今後の開発指針に盛り込んでみるとしよう」
エジプトの工科大学から参加した女教授は、砂漠でも高い運動性を生み出す構造体の研究のために異世界の生物も研究するとのこと。
廃神殿を出発してから少し、向こう岸がかろうじて視認できる広大な運河に到着。それに並走する形で王都を目指す。
砂漠の乾とは対照のひんやりした湿が流れてくる。
進む途中、所々水分けの水溝が耕作の緑畳へ伸びている。
膝までの高さの樹が並ぶ間を猫人やゴブリンなど小さな種族が何かを摘み取っているかと思えば、
新たな畑の開墾を鈍重ながらも身の幅十倍以上はあるかと思う鍬を牽く頑強な甲羅に覆われた牛の後を、これまた大きな鋤でならしていく大きな種族もいる。
ふと気になった。
「建物も畑もきっちり線を引いた様に作られているんですね。 区域や所有を分かり易くしているんですか?」
「違うにゃ。あれより先は大甲蟲や大線蟲の縄張りや巡回範囲だから入り込むと襲われてしまうにゃ。
王宮とかの調査隊が調べて公表しているから何か作ったり通ったりする時は助かるにゃ」
「そう言えばあそこで大きなダンゴムシの周りに人だかりが…」
「あれは砂漠のお掃除屋さんにゃ。公務員なんだにゃ。
大甲蟲の骸は放置しておくと悪い虫がついてしまうからすぐに処分しないといけないんだにゃ」
「あそこで大甲蟲に追いかけられている人も掃除屋ですか?」
「あれはただの試練だにゃ」

暫く走っていると物々しい輸送獣があちこち動いている地帯に入る。
「あの遠くに砂から突き出ている岩…かなり下に大きな岩が、ひょっとしたらそれ以上のものが埋まっていそうですね」
「察しがいいにゃ。あの岩の下は鉱山がまるまま埋まっているにゃ。
中には鉱石そのものが頭を少し出して埋まっていることもあるにゃー」
「砂の中に聳える山ですか。ファンタスティックですね」
「ラ・ムールの砂漠には色んなものが埋まってるにゃ。
月の神に泣かされた太陽神様の涙もあちこちに落ちて染み込んでいるにゃ」
近くをすれ違った巨大なそりを牽く岩の様な鱗の大蛇が響く高温で鳴くと、それに呼応して蜥蜴もひと鳴きした。

「もうじき都に到着にゃ」
そういうと蜥蜴は進路を運河と逆に向け、緑生え敷き詰められた中を抜けていく整備路を進む。
砂漠において広がる緑は、王都の持つ力をひしひしと感じさせるようで、
見た目の柔らかな目に優しいのに反して大きな圧力もある。
「都の門からは宿舎まで徒歩になるにゃ」
「これはまた賑やかな…」
「私は後から宿舎に向かうよ。 少し寄る場所ができたので」
蜥蜴の背の上ですっかり意気投合したスポーツ学教授と猫娘ガイドが楽しそうに歓談している。
「査察団の皆さまに一つ注意しておくにゃ。
向こうの世界に帰るまでにお金がもつように財布の紐はしっかり結んでおくのをおすすめするにゃ」

思ってた以上に多様な種族が混ざる都は繁栄の華が咲いている。
人とも意外とすれ違い、外国にいるかのような錯覚も覚える。
「あの、メモか何か落とされましたよ」
前を歩いていた旅行者だろうか、紙を落としたのを拾い渡す。
「どうもありがとうございます。 これがないと店に辿り着けないので、助かりました」
「確かにこの喧騒では地図がないと迷ってしまいますね。 どんな店なんですか?」
「前にラ・ムールを旅した時に飲んだ酒の味が忘れられなくて、あのピリリと辛いを味わいにもう一度この国へ」

別の世界、遠いと思っていた異世界の国。
しかし実際に行ってみるとどうだろう。
これから先の時代は間違いなく世界同士がより一層深く広く関わり合っていくだろうと予感した。
そのためにも、お互いがお互いを知る理解する事が重要になるのは、
間違いないだろう ──


  • 神殿から都までどれくらいの時間で行けるんだろう?乗り物によって違いそうだけど -- (とっしー) 2014-01-20 22:23:53
  • 意外と多いんだよねラムールの国内描写。皆の中ではけっこうできあがっている国なんだな -- (名無しさん) 2014-01-21 22:34:03
  • 受け入れ態勢万全すぎて和む。にゃー -- (名無しさん) 2015-10-20 22:28:33
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最終更新:2014年01月20日 21:29