連鎖という言葉がある。
それは人と人とを結ぶ運命の赤い糸のごとき甘美な笑みを浮かべては、絶望の歯車にてその身を引き裂くのだ。
幸せに包まれている者にはけして見えないその魔物は、常に足元にその牙を潜めているのである。
ほら。今日も不幸せな者どもが、連鎖の渦に飲まれていく。
十津那学園屋上に、4人の男子生徒がいた。
時刻はちょうど昼休み。だが、肌寒い風が吹きすさぶ屋上にいる物好きは彼らくらいのものだ。
「なあ、お前ら今日が何の日かわかってっか」
男子生徒の一人、龍人のドランがつまらなそうに言う。
今日も今日とて時代錯誤なリーゼントにド派手なスカジャンが眩しい。
「バレンタインだろ。言わせんなバカ野郎」
地球人の元原丈児(もとはらじょうじ)が輪をかけてつまらなそうに言う。
「あえて解説をするならば、バレンタインとは十津那学園においては最重要行事の一つである。
それは女子が仲の良い、あるいは思い人の男子にチョコレートをプレゼントするイベントなのだ。
地球と異世界との交流を最重要視する十津那学園の学生が、このイベントに食いつかないはずがない。
つまり、ドランと丈児がつまらなそうなのは、あえて言うが、そんな校風にも関わらず、
チョコを貰える算段が無いからなのである」
「おい、クロト。何ナレーションみたいな口調でフザケた事言ってんだよ」
「図星だろう?」
ニヤニヤしながら丈児をからかっているのは、
ノームのクロトだ。
「坊ちゃんはクラスメイトからチョコを貰えるかもしれねぇけど、俺らにとっちゃ死活問題なんですぜ。
なにせ、チョコの1個も貰えねぇとあっちゃあ、男としての威厳が保てねぇってもんです」
「俺らってのは何だよ。オメーがゼロで俺が10ってところだろ」
あぐらに頬杖という器用なスタイルでドランを茶化す丈児。
「んだコラ!俺がじゅ・・・まあ、3個でお前がゼロだろボケ!
オメーもウォーチも仲良くゼロ記録更新してろや!」
噛みつくドランに、のんびりと
オーガのスラヴィアン、ウォーチが言う。
「ご、ごめん。もう2個貰っちゃった」
ド「あ゛あ!?」丈「ちょ、待てよおい!」ク「ん?ああ、『オチ・ムシャ』ファンの娘ね」
三者三様の驚き方ののち、ドランと丈児は顔を見あわせて深いため息をついた。
「もしかして、チョコ0個なのってガチで俺ら2人だけなのか?」
「んなこたねーだろ。おいドラン。ちょっとチョコゼロのヤツの顔を見に行くぞ」
丈児のあまりに馬鹿げた提案にクロトは露骨に呆れた視線を送っていたが、案外ドランは乗り気だった。
二人はブツブツと何か呟きつつ、屋上から姿を消した。
凶相。まさにその言葉が相応しい学生が3人、雁首並べて唸っていた。
一人はオーガ。一人は
オーク。最後の一人は虎人だ。
誰の顔を見ても「鬼瓦」「魔王の眷属」「歩く顔面お化け屋敷」といった言葉が思い浮かぶ。
教室内で無言でにらみ合っていた3人だが、オーガが不意に言葉をもらした。
「第一回。学園で一番バレンタインチョコを貰って天にも昇る気持ちになる女子はだーれだ選手権・・・」
まるで地獄の底から響き渡るような重低音でそう呟いた。
と同時に、残りの二人から「ドンドンドン。パフパフ」というオーラが滲み出た。
「まず言いだしっぺの貴殿から述べるべきであろう」
そうオークが言うと、オーガは重い口を開いた。
「王華春香(オーガハルカ)さんだ」
オーガがそう言うと、オークと虎人からグムウという重々しい唸り声が出た。
王華春香さんとは本名ハルクァ・オ-ガンという名前の
ドニー・ドニーからの留学生だ。
1年C組の16歳。身長210センチ、体重ヒミツ、筋骨隆々のいかにもオーガの女子らしい娘だ。
オーガはどうだと言わんばかりの顔をしたが、オークはグッと身を乗り出して言った。
「あの筋肉は素晴らしいが、少々あざとすぎるのではないか?」
「何を言うか。はち切れんばかりの筋肉。ガッチリとしたアゴ。オーガらしからぬリボン。
キャッチフレーズの『一日一回殺しますイェイ!』と全てが完璧だろう」
オーガは反論するが、虎人がポンと膝を打つ。
「それがあざといと言うのだ。完璧すぎて隙がなさすぎる」
「完璧すぎる・・・か。ではお前は誰が良いのか」
次にオークが語りだす。
「奥山さんだな」
酷い顔をなお酷くクシャクシャにしてオークが言うが、他の二人は鼻で笑った。
奥山さんとは
ミズハミシマからの留学生で、豚人系オークと呼ばれる種族の女子だ。
身長180センチ。体重はヒミツ。スリーサイズは91-68-89だ。
「小柄すぎるだろう。体も細すぎて魅力に欠ける」
「彼氏持ちではなかったか?」
「小柄なのが良いのだろう。それに彼氏がいたってかまわぬだろうに。それでは貴殿は誰を推すのか」
虎人がそう言われると、少し考えたのちに言った。
「バティさんだな」
「おお、D組のパーバティさんか」
「なるほど・・・そうくるか」
パーバティさんは大延国からの留学生で、象人の女子である。
身長230センチ。体重200キロ。ふっくらとしたシルエットの持ち主だ。
「確かに彼女の筋肉質かつ包み込むような柔和な雰囲気は魅力的だ」
「何より足首がいい。太いふとももからストンと落ちる魅力的なラインだからな」
「バティさんは彼氏がいないと聞いたぞ」
「グムウ。もしかして我らいけるんじゃね」
「うむ。うむ」
「バティさんがくれるんなら仕方がないな。放課後までジックリ待つとするか」
笑みひとつ浮かべず、3人は下校の放送が流れるまでその場を離れなかったという。
「アイツらはゼロ個確定っぽいな」
「ああ。次に行くぞ」
- チョコ0!しかし!これが現実ッ!クロトいい性格している面白。コワモテ三人組は一発で終わらせるには勿体無い -- (名無しさん) 2014-02-17 23:03:26
- 大きい系の亜人男子の恋バナなごむ。亜人の好みとかもそれっぽいなぁ -- (名無しさん) 2014-02-18 22:40:21
- 結局のはなしモテたいんです?女なんていらねぇなんです? -- (名無しさん) 2014-04-18 22:22:21
最終更新:2014年08月30日 23:31