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【影は蠢く】

 新天地中央に点在する小さな集落の一つにアルハブスという村がある。
 主に暮らしているのは新天地がオルニトから独立する以前から暮らす鳥人達。
 独立後はそこに移住してきた数家族の異種族が加わった。
 特産品らしい物はこれといって無かったが、近くの有力な土地に税として作物を納めても暮らしていけるだけの収量はあった。
 荒地が大部分を占める新天地の中で、アルハブス周辺は比較的耕作に適した土地であった。それゆえに新しい家族を迎え入れてもさしたる問題はなかった。
 村には十数軒の民家、家畜小屋、独立以前に建てられたハピカトルを祭る聖堂、それからこの地域で古くから信仰されている土地神の祠があるだけの、小さな村。
 しかし、そんなアルハブス村はもう無い。
 あるのは家々を灼く紅蓮の炎が夜の闇を焦がす光景だけ。
 そして、そんな焼け落ちていく村を小高くなった丘の上から眺める人影。
 それは一人の女だった。村を灼く火精の炎に群がる風精によって強くなった風に女の長い栗色の髪が揺れる。

「……さて、そろそろ本題に入るとしましょうか」

 しばし紅蓮の炎に吞まれて一つの村がこの世界から消えていく光景を眺めていた女は、それにも飽きたのか自分の背後を振り返る。
 そこには幾人かの者達が居た。
 老若男女、多くは鳥人だが何人かはそうでない種族の者もいる。
 性別も年齢も種族さえ違う彼らだが、共通することがあった。それは彼らの顔に張り付いた恐怖の感情。

「なぜじゃ……なぜこんな惨いことを……」

 群集の中から一人が歩み出し掠れた声をなんとか絞り出したのはアルハブス村長の老人、彼の表情にも恐怖と怯えが張り付いているが、その目には憎しみと怒りがあった。

「なぜ……なぜ、ねぇ……」

 刹那、乾いた銃声が周囲に響き、眉間を撃ち抜かれた老人の体は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。

「それ、別に言う必要ありませんよね?」

 銃口から硝煙をたなびかせながら、彼女は物言わぬ屍になったかつての村長に冷たい口調でそれだけ言って再び視線を震え上がる村人達へと向ける。
 彼らにはまったく理解できなかった。なぜ自分達がこんなことになっているかを、なぜこの女がこんなことをするのかを。
 それは突然のことだった。突然の轟音と共に村の中心部にあった聖堂が吹き飛び、それが合図であったかのように次々と民家も燃え上がった。
 村の住人達は訳もわからず着の身着のまま燃え上がる家々から飛び出したが、そこにこの女が現れ、彼らはそれこそ追い立てられる家畜のように成すすべなく捕らえられた。

「そんなに怯えなくてもいいですよ? なぁに簡単なことです。それさえできればこれ以上あなた達に私が何かすることはありませんよ」

 女は手にした銃を両手で弄びながら、気楽な調子でかつてのアルハブス村の住人だった生き残り達に問いかける。

「私の名前を言ってみなさい」



「知ってるか? 最近村や小さな町が次々に焼かれてるって話」
「知ってるさ、村の人間もほとんどその場で殺されてるらしいな」

 昼間は簡素な食事を提供する酒場、昼日中だというのにその場で話されているのは実に陰気な話だった。

「凶悪な強盗団でも村を焼き払って、村人をほとんどその場で殺すようなことはしねぇ、金にならねぇからな」
「だな。そんなことをするのはよほどイカレた連中か、別の目的があるかだ」
「オルニトのイカレ神官どもが神への生贄の儀式をしてるって話もある」
「だけどよ、この前焼かれた村はハピカトルの聖堂があったらしいぞ?」
「オルニトの連中は地べたを這いずってる連中のことなんざ虫けら以下に見てる連中も多いからな、ハピカトルを信奉してても関係なしでもおかしい話じゃないさ」
「俺は都市の連中が怪しいと見てるがね」
「他の都市が羽振り良くするのが気に食わない別の都市の連中の差し金だって話か?」
「あぁ、具体的にどこがやったって話にはなってないがな」

 丸テーブルを何人かで囲んで座った客達はそれぞれに自分が見聞きした話を披露している。そしてそれらの多くはここ最近新天地を騒がしている事件のことだ。  

「ジュレスのほうじゃ傭兵団を新しく雇い入れたらしいじゃないか、あの辺りの街道の通行料がまた高くなるだろうな」
「それで犯人を捕まえられればまだいいがな」
「東部のほうは街道を一時閉鎖するって話も出てるらしい、東部のほうに用があるなら今のうちに抜けておかないとどれだけ足止めくらうかわからんぞ」

 そんな会話を適当に耳に入れつつ、一人カウンター席に座り、具はほとんど豆だけのスープを木の匙で掬って黙々と口に運び、時折硬く独特の苦味のあるパンを齧る人影。
 やや草臥れたカウボーイハット、やや薄汚れた感じのあるマント、西部劇に出てきそうなガンマンスタイル、良く見れば腰にはホルスターがぶら下げられている。

「……まずいですね」

 その人物は黙々と木匙で豆のスープを口に運ぶ動作を止め、目を細め中々に整った色白の顔を少し歪めて小さく呟く。

「不味くて悪かったね! 安くて腹に溜まる飯をこちとら苦労して提供してんだ! 口に合わないならとっとと金を払って出て行っておくれ!」

 運の悪いことに、その小さな呟きは店の主人である恰幅の良い鳥人女性の耳に入ってしまったらしい。女主人は頭頂部の飾り羽を逆立たせて目の前の無礼な客に詰め寄る。

「え? あ、いえ、まずいというのはそういうまずいとは違ってですね……」

 そこでようやくカウンター席に座ったガンマンは、目の前に迫った鳥人の顔に気圧されながら自分の呟きが誤解されたことを理解する。

「何が違うってんだい!?」
「いえ、僕もこれから東部の方に行こうと思ってたんですよ。だから、この騒ぎで東部への街道が閉鎖なんてされたらまずいなって思ってですね……」

 女主人の嘴の先とガンマンの鼻先が今にも触れようかというほど接近する。そんな両者の間をどうにか空けようと上半身を仰け反らせ両手の顔の前に出しながら彼女は弁解する。

「……なんだい、そういうことかい、紛らわしいねぇまったく」

 それに納得したのか、逆立った飾り羽をパタリと寝かせた女主人は顔を引っ込める。

「東に行くなら急いだほうがいいね、今日の午後に出る乗り合い便を乗り逃すと次はいつになるかわからないよ」
「ご忠告ありがとうございます」

 どうにか女主人の誤解が解けたことに安堵し、ガンマンは木の椀を少し傾け、木匙で椀の底に滞った豆を掬って口に運ぶ作業を再開する。
 ガンマンが二掬いほど口に入れたところで店の外から騒がしい声が聞こえ、次に入り口が勢い良く開け放たれ、その音に会話を中断して幾人もの客の視線が店の入り口へと向けられる。
 その闖入者を一言で言い表すなら真っ黒だった。
 黒いキャトルマンに同じく黒いマントを身に纏い、東洋人らしく髪も目も黒く肌は日焼けで浅黒い、そして体格はガッシリと逞しくかなりの上背の青年。

「可愛い弟子を見知らぬ路上に放置して自分はさっさと食事なんて、ちょっとひどくないですか?」

 彼はその体躯に見合った声量で言いながら、ズカズカと、自らに集まる客の視線もを気にする様子もなく店内に入ってくると、ドカリとカウンター席で豆のスープを口に運ぶガンマンの隣に腰を下ろす。

「おかしなことを言わないでください、私はあなたを弟子にしたつもりは……」
「おばちゃん! 俺にもそのなんかあんま美味しくなさそうな豆のスープと、それと同じくらい美味しくなさそうなパンちょうだい!」

 顔をしかめ、隣からのガンマンの不満のこもった声を覆い隠すようにして、傍から聞いても失礼きわまりない注文の声を、カウンターの中の女主人に向かって飛ばす。

「……臨悟君、前々から思っていたことですが、君は礼儀というものをまずは理解すべきだと思いますね」
「礼儀作法なら子供の頃に嫌ってほど教わりしましたよ? でも、世の中そういうのだけじゃダメだってことも教わりました!」
「そうですか……」

 隣に座った相手にはもはや何を言っても無駄と判断したのか、ガンマンは既にぬるくなった豆のスープの残りを口に運ぶ作業を再開する。

「はい、おまち」

 ぬるくなった豆のスープを一匙口に運び、相変わらず硬く苦いパンを一口齧ったところで隣に先ほど注文した物がドンと音を立てて置かれる。

「あ、てっきり無視されたかと思ったら来ましたね」

 さっそく目の前に置かれたスープを木匙で掬って啜り、黒パンを齧る臨悟と呼ばれた青年を横目に見ながら、ガンマンはふと思い出したように問いかける。

「ところで臨悟君」
「なんですか師匠?」

 スープを木匙で掬うのが億劫になったのか、椀の縁にそのまま口をつけてスープを啜りつつパンを齧っていた手を停め、青年は問い返す。

「あなた、たしかお金がないって言ってませんでしたか?」
「えぇ、今も絶賛無一文ですけど?」
「じゃあ、ここの払いはどうするんですか?」
「そりゃあもちろん師「お断りします」」

 青年が言い終わる前に、それを察したガンマンが強引に拒絶の言葉をねじ込む。

「そんな! 弟子の面倒を見るのは師の務めですよね!?」
「知りませんよ、 何度も言ってますけど私は貴方の師匠になった覚えは欠片もありませんし」
「じゃあ! せめて、せめてここの払いだけでも!」
「往生際が悪いですね、皿洗いでも床磨きでもして体で払えばいいじゃないですか、体力だけはバカみたいに有り余ってるんですから」

 カウンター席に並んで座った見慣れぬ客二人、それが妙に騒がしいやり取りをしているなと店内の客の視線がそちらに集まり始めたタイミングで、先ほど盛大に開け放たれた店の扉が再び盛大に開け放たれる。

「やっと見つけたぜ!」

 今度は何だとカウンターのほうへと向かおうとしていた視線がそのまま横滑りに店の入り口へと向けられる。
 先ほど入ってきた青年が黒なら、次に現れた人物は赤だった。
 赤いショート丈のライダースジャケット、膝上まである赤いハイブーツ、何より腰まである癖の強い赤毛とアーモンド色の肌のコントラストが目を引く野生的な印象の女性。

「なんだなんだ? ネェちゃん客にヤリ逃げされたか?」
「なんだったらこれから俺とどうだ?」

 少しの間店内の男達の品定めするような視線が入り口に立つ女性へと向けられ、次に店内の客からは下卑た笑い声やピーピーと囃すように口笛が鳴らされる。
 店内の客達は入って来た彼女を一目見て娼婦か、それに準じた商売をしているのだろうと推測したのだ。それほどこの場に現れた闖入者は場違いな姿をしていた。
 豊満な胸をギュウギュウに押し込んだ括れた腰とヘソが丸見えのショート丈のライダースジャケット、デニムのダメージ加工のショートパンツと、随分と肌の露出が多い。

「うっせぇ!関係ねぇ連中は黙ってろッ!」

 彼女に向かって好き勝手囃したてる店内の客達が癪に障ったのか、彼女はそちらに一瞥くれることもなく厚い唇の口を大きく開けて一喝。
 ただそれだけ、それだけで店の中の荒くれ者も多いだろう客達は一斉に静まりかえる。
 皆一様にキョトンとした顔をしていた。なぜ自分がたかが小娘一人にと、しかし、もう一度同じことをするなと彼らの中の何かが警鐘を鳴らしていた。

「オレをここまで手こずらせるたぁいい度胸だ! その分の覚悟は出来てるだろうな?」

 誰に向かってかは皆目見当がつかないが、彼女はやたら威丈高かつ乱暴な物言いを続ける。

「へぇ……あくまでも無視かい、いい度胸してるじゃねぇか。まぁ、それならそれでもいいさ、アンタがどう思おうがオレがやることは変わりねぇしな……」

 そう言って彼女はおもむろに左手を店内のある方向へ向けて突き出す。その先には……

「え? 僕?」

 そこに居たのはようやく豆のスープを平らげ、疑わしげに店の入り口に立つ者に目を向けたカウンター席に座るガンマン。
 その次の刹那、彼女がガンマンへと向けた左手が爆ぜる。いや、まるで爆発したように何かが溢れ出すと表現すべきか、そしてそれは瞬く間に一つの形を作り出す。

「ミニガン!?」

 赤い妖しい光を纏わせたそれは、よくハリウッド映画でムキムキマッチョのアクションスターが扱うイメージで定着したM134ミニガンのそれだった。

「滅びなッ!シャーリー・ベルッ!」

 獰猛な笑みを浮かべて彼女が標的の名を叫んだ次の瞬間、その銃口が火を噴き、毎分6000発の濃密な殺意の込められた弾丸が吐き出され、店内に轟音と破壊が溢れた。


スレでちょっと盛り上がったシャーリー以外のレギオンの亜神ネタで脳内に浮かんだシーンを書き散らしてみる。
ほかに思いついたら書き加えるかも。

ほかの人も書いてもいいのよ!


  • 過激な異世界交流なのだわ -- (名無しさん) 2014-03-01 10:02:11
  • 絵に描いたような荒野でアウトローな世界だ。これからジェノサイダーを探す旅になりそう -- (名無しさん) 2014-03-02 19:39:18
  • 地球産の道具やらをどこまで出すかは悩みの種だけど新天地はそこんとこゆるいよね -- (名無しさん) 2014-03-07 01:09:18
  • 続きは続きはあるんですかね?!落として上げてがないともやっとしたままでー。 リンゴ君とシャーリーの関係もなんだか上手くいってるようで何より -- (名無しさん) 2014-03-28 22:54:00
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最終更新:2014年03月01日 04:26