「ヤツが戻ってきたそうだ」
兜をかぶったトロールが報告する。
暗い部屋の中で聞いていた十人の異形が、一様に同じ被っていたいる兜を揺らして首肯いた。
「来たか」
兜を被る兎人が立ち上がる。
「さて、不在でモンローを討つ手はなかなかだったが」
兜を被る
オーガが頬を撫でて呟く。
「結果ばかり追う若い者だが、我々の意を汲む事ができようか?」
兜を被る
エルフが首を振る。
「では、私が調べて来よう」
兜を被る
ゴブリンが揚々と部屋を後にした。
「おう、任せたぞ」
九人が同時に手を振ってゴブリンを送りだした。
* * *
* * *
「死兵を生贄に、変異の貴族カードをドロー! カードの効果によりデッキから生贄が引かれる限りずっと俺のターンッ!」
スラヴィアは向かう船の一室。
カーターがスパンッ! とカードをテーブルに叩きつけてドヤァ! という表情を自分の白い白紙に描いた。
「だめだ! これじゃルールをパクリ過ぎて向こう側で問題視されるなぁ……」
負けの決まったセイジョーが、ルールの問題点を上げて自分のカードをばら蒔いた。
「ずっと俺のターンッ! 俺の……ターンッ!」
「うるせーよ! 俺の負けだよ!」
デッキからカードを引き続けるカーターに、カードを叩きつけた。紙で出来ているカーターは紙と親和性が高いのか、カードは中空で止まってぶつからない。
「しかし、ゼプトさんも地球を『向こう側』っていっちゃうとかとか毒されてますね」
「あー、そうだな」
カードを片付けながら、セイジョーは力無く首肯いた。もはやすっかりスラヴィアの住人である。
休学届けのついでに、印刷して貰ったカードセット。トレーディングカードと呼ばれるものだ。
しかし、それは地球のアイデアで出来た者ではない。
スラヴィアの住人と環境と能力を数値化したカード。
屍人や貴族たちをデータ化し、饗宴のルールを模して作られたカードゲームだ。
無論、実在の人物をデータ化してはいろいろ問題になる。今はモデルとして貴族のデータを活用し、架空の人物データでゲームとしている。
そうだ京都へ行こう。的な感覚で作られたカードゲームだが、実は大したモノで貴族の持つを神力を注ぎ込むとカードが力を持つ効果がある。盤上でカードが実際に戦い出すのだ。
カーターの力が少し関わっているので量産は無理だが、貴族同士ならば神力を使い独自に対戦ができる。
その気になれば、貴族が自分のコピーであるカードを創り、代理対戦も出来る可能性があった。
もしかしたら饗宴の代わりになるのでは? とセイジョーは考えている。
「売り物にもなるし、饗宴が多様化する可能性もある。いや……主流にすることも不可能じゃない」
カードが武器ならば、カードを作る側は武器輸出にも等しい。ティータ所領で量産が可能になれば、カードという武器輸出で財を成せるのだ。
「ゼプトさんの考案したランプシェード売れ行き悪いですもんね」
「うっせーよ。それでも赤字じゃねーんだよ!」
悪態を付き合いながら、船はスラヴィアの港へと付いた。
あたりはすっかり夜だ。
もっともスラヴィアは夜が活動の時間なので、当然の到着時間だ。
セイジョーは地球からの荷物を持ち、カーターは自分の着替え? というか別素材で出来た別身体の入った製図用筒箱を持って船を後にした。
船を降り、馬車を雇う為に裏路地を進むセイジョーたちの前に、数人の異世界人が立ちはだかった。
前からゴブリン、
オーク、オーガ、トロールだ。背後にも数人の男たちがいる。
「……物取りか?」
セイジョーは努めて静かに訊ねた。
「ああ……珍しい地球のモンを……持ってるンだろ?」
ゴブリンが卑しい手つきで右手を出してきた。セイジョーの荷物はさほど大切な物ではない。だがこれを渡しで必ず無事とは限らない。
セイジョーは無言で背負っていた荷物を、一番奥にいるトロールへ向かって投げた。
当然、男たちは荷物に気を取られた。
その隙を付いて、セイジョーは軽いカーターを掴んで前へかけた。
投げた荷物を追うように飛び上がり、振り返って荷物を見上げるゴブリンの頭、オークの肩、オーガの背を踏み台にして駆け上った。
まるで階段の段飛ばしのように、軽やかに――。
だが、前を見ていたトロールだけは反応できた。眼前に飛びつくセイジョーに向けて手を伸ばす。
しかしセイジョーはオーガを乗り越えたときに飛ばす、重力に任せて下へガクンと落ちた――いや降りた。
トロールの手を空を掻き、荷物は彼の顔に当たってセイジョーの手に落ちる。
そのまま股下を潜り抜け、セイジョーは一目散に逃げ出す。
「お、追いかけろ!」
ゴブリンが命令すると、トロールが慌てて振り返って足を踏み出そうと……して迷った。
セイジョーが投げた苦無(クナイ)が、トロールの足元に突き刺さったのだ。
――忍法影縫い。である。
影縫いとは、影に苦無を刺したから動かなくなるという妖術めいたものではない。
一歩足を出そうとしたその場に、手裏剣やナイフが突き刺さったら? 足元へ急に子供や犬が飛び出してもバランスを失うのが二足歩行の難点だ。
浮いた足をどこに下ろすか一瞬考えるだけでも足止め。そのまま蹈鞴(たたら)を踏んでしまえば大きな隙。思わず違うところに足を伸ばし、不自然なガニ股で動きが止まれば金縛りだ。
大きなトロールが道を塞いで動けなくなれば、後ろに続くオーガたちは動けない。その後ろにいるゴブリンは小柄でも、三人も巨体が邪魔すれば何もできない。
まんまの逃げおおせたセイジョーたちは、十分に走ってから一息付いた。
カーターは引っ張られていただけだが。
「おっと……逃げ道を正確に測ったか……それとも誘導されたのか」
セイジョーは暗がりに潜むゴブリンを見つけ、呆れたように言った。
「……」
兜をかぶったゴブリンは無言でナイフを取り出し、セイジョーに剣呑な気配は向けた。
間髪入れず、セイジョーは懐から出した発火装置でカーターに火をつけた。
「ギル! ヒート!! ボディッ!」
突如、燃え上がり、悲鳴だかネタだか分からない声をあげるカーター。
「忍法火遁の術!」
セイジョーは叫びながら、カーターの背にクナイを投げた。クナイが刺さり、押される形で燃えるカーターの身体がゴブリンに迫った。
「ファ! イヤー! マン!」
カーターはゴブリンに纏わりつき、怯んだ隙にセイジョーはその場から消え失せた。
ゴブリンは舌打ちをして、周囲を探るが既に気配はない。カーターの燃えカスに屍人の気配は感じられない。
悔しがるゴブリンは、そのまま闇の中へと消えていった。
逃げおおせたセイジョーは、製図用筒箱からカーターの予備の身体を取り出した。
火を放つ前に、カーターは全ての力を予備の身体の紙に送っていたのだ。
無事、逃げおおせたセイジョーに、新しい身体のカーターが問いかける。
「さっき、忍法――って言いましたよね」
「言って無……い、言った、言ったぁ……かもしれないけど、それは雰囲気でけむに巻くためです!」
「忍者だねよ?」
「違います!」
* * *
* * *
暗い部屋の中、兜を被る男たちが一同に会していた。
出かけていたゴブリンが戻り、兜を脱いだ。
兜の下に髪は無い。頭皮も無い。頭蓋骨も硬膜も無い。
柔らかい脳髄が露出していた。
一体のオーガが立ち上がり、兜を脱いだ。彼の頭も脳がむき出しである。
オーガはムンずとゴブリンの脳を掴み、引き剥がし、自分の脳へと貼り付けた。
受け取った脳から情報を吸い出し、オーガは低く唸った。
「ふぅむ。ゴブリンの身体に猫人の脳はフィットすると思ったのだがなぁ……」
脳を入れ替え、脳を統率し、脳の能力を他の肉体に付与する。
それがブレインブロッコリーブロブ。BBB(スリービー)だ。
- 清浄君スペック高くね?高くね?ブッコロリー! -- (名無しさん) 2014-05-18 02:46:41
- カーターさん便利キャラ。 新しいレギュラーライバルになりそうなBBBに期待 -- (名無しさん) 2014-05-18 12:54:00
- 異世界の玩具遊興発信基地か工場になりそうなスラヴィアだ -- (名無しさん) 2014-05-23 01:34:39
- 家内工場みたいだ。脳がブロッコリーみたいに見えるくらい集まっているのか -- (名無しさん) 2014-05-23 10:57:02
- セイジョーもうスラヴィア定住と言ってもいいんじゃない?逆にティータの方が故郷に帰る確率高いんじゃない -- (名無しさん) 2014-05-27 17:42:34
最終更新:2014年05月17日 23:53