【本を求めて】

「船でゲートから町まで運んでもらえるとは、至れり尽くせり」
[外客を受け入れる姿勢は我が国でも参考にできることでしょう]
ゲート運行フェリーから異種族の中でも異様を放つ一団が降りてきた。
大ゲート祭により今まで見た事も無い種族がやってくる最中においても周囲の目を引いた。
「では目的の店へと参りましょう、守護卿」

とてとてとて  ひょこひょこひょこ  のっしのっしのっし
大型種族用のタクシーやバスが出払っており、仕方なく徒歩での移動となった一行。
先頭をペンギン、次いで真紅の鎧身にまとう骸骨、その後ろに巨大な毛むくじゃらでいて河馬のような、
しかしシックな黒の学者風ローブを羽織るトロール。
「ククラ氏。貴君がたまに招待され芸を披露するスマスイゾクカンというのはここより離れているのであろうか?
この祭りの機に行ってみようと思うのだが」
カタカタと顎骨が揺れる問いかけに、ペンギンは無言で東の海を指す。
[どうやら解放特区の外にあるようですね]

やがて一行は大きな横断歩道のある片側三車線の幹線道路に到着する。
のんびりした、それでいてどことなく懐かしいメロディが流れる中で三者はじっと立っている。
[【交通の安全規則】という書には、光る板が緑色にならなければこの白縞の道を渡ってはいけないとありました]
やがて信号は歩行者緑に変わり、鳥の鳴き声のような音が断続的に響き渡る。
 プァーーン! ヴォォオオーーー!!
信号は確かに歩行者側が緑であった。
横断歩道にいち早く飛び出し母親に手を振りながら走って渡る女の子へ向かって大型トレーラーが猪突猛進してきたのだ。
けたたましいクラクションとエンジン音は女の子の腰を砕き動きを止めた。
既に両者の間は50mもなかった。
「とうっ!」
紅飛び出す。女の子を抱えて放り投げる。
トレーラーと衝突。骸骨バラバラ。トレーラーそのまま走り去る。
放物線を描く女の子はふくよかなお腹の上に受け止められた。
[ケガなどありませんか?]
仰向けに寝転びクッションとなった守護卿が、その姿勢のままホワイトボードで尋ねた。
女の子は笑顔で頷くと母親に抱き抱えられ、二人して頭をさげる。
「がいこつさんがばらばらになっちゃった…」
女の子が足元に転がってきた胸骨を手に取り涙を滲ませた。
「心配には及びません。すぐに集めて元通りですので」
ペンギンの頭上に乗るしゃれこうべが優しい声で促す。
既に組みあがった足が起用にそこら中の骨を蹴っては上に上に積んでいくと、みるみるうちに骨の体が元に戻っていく。
「うーむ、鎖骨が見当たらぬ」
「これ、貴方のものですか?」
少々凹んでしまった真紅の鎧へと鎖骨を差し出したのは、セーラー服を着る骸骨だった。
「これは忝い。ありがとう」
「どういたしまして。 身を挺しての救助、感動しました」
鎖骨を受け取りカチリとはめ込み元の形に戻った骸骨が深くお辞儀する。
その足元でペンギンが手羽をクイっと立てて骸骨を見上げた。

「卿、【車】というものはそれだけで走るものなのでしょうか?」
[いえ、あくまでそれを運転する者が乗ってこそ走るものであると【教習所の本】に書いてありますね]
「成る程そうなのですか (では先ほどの誰の姿も生気も感じなかった大きな車はどのようにして走っていたのだろう?)」
そんな話をしているうちにペンギンが足を止めた。
高々と上を指す先には【COMIC ZIN ポートアイランド店】という看板が。
[レシエ侯女の話では、ここでモルテ様の求める【薄異本】が買えるとのこと]
「守護卿、何やら興奮されているようですが」
[地球の書物を直に選び買うのは初めてなので興奮を禁じえません]
ペンギンが先を行き自動扉を開くと骸骨がその間を通り、次いで巨大なトロールが
入り口の扉枠に頭をぶつけた。


  • メタ展開なのだわ! -- (名無しさん) 2014-07-09 17:37:52
  • 色々おかしくて吹いた。骸骨女生徒とイケメン骸骨兵が絵になりすぎる -- (名無しさん) 2014-07-10 22:18:44
  • スラヴィアンは地球ではトンデモチートだな。モルテのアンテナに薄異本がひっかかった? -- (名無しさん) 2014-07-11 23:48:55
  • 面白い組み合わせの三人で楽しい。なかなかイケメン魂の骸骨イイ -- (名無しさん) 2015-10-20 22:37:54
  • 地球の町中にて人の姿と離れた異種族が歩いているというのは異世界よりもファンタジー色がありますね。スラヴィアンの不死性は最も注目されそうです -- (名無しさん) 2017-11-26 17:17:47
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最終更新:2014年07月09日 03:46