【ねぶりし者】

「帝国臣民諸君! 遂に“刻”が来たのである!
我ら“在らざる帝国(ヌル・ヒラサカ)”が千年を越えて地上へ帰る、いや攻め上るのである!」
異世界のあらゆる場所にあらゆる種族が住んでいる。
陸、森、海、空…そして地下。
地下の深く、また深くに複雑かつ巧妙に掘られた洞穴に集結する、蛞蝓人。
植物を見れば食い枯らす本能のままにエリスタリアを蹂躙した彼らは、エルフと樹人の軍勢と真正面から衝突、
その身体能力の特異性により渡り合うが、水と闇精霊を従えるエルフ、“氷の女王”の生み出した氷結嵐によって退けられた。
以来千年を地上から逃げ延びた地下にて、虎視眈々と地上侵攻を計画していたのだ。
「地下に逃れてからも執拗な追撃が続いたが、我らは的確かつ巧妙に移動を繰り返し落ち延びた。
奴らに捕らえられた者達はその身の“毒”を抜かれ労働力として生かされたのである」
 なめ… なめ…
「しかし我らは違う! 長き時の中で己の力を研究し、磨き、高めてきた!
千年目にして再度侵攻を開始するのは確固たる種の自信あってのこそなのである!」
 なめー! なめー!
「では臣民諸君らを率いて戦う帝国の誇りある戦士達を紹介しよう!」
「我の体は全ての攻撃を跳ね返す最上の軟体! かつて我々を苦しめた精霊の力も克服し吸収する不倒の体!
我こそは倒れぬ帝国の“壁(コンニャーク)”!」
「私は全てのモノを穿ち食い破る最高の破壊力。 美と力を兼ね備える私に食い倒されたモノは全て穴だらけの芸術品へと変わるのだ!
私は美しき帝国の“牙(カシナント)”!」
「僕を早く潰して欲しい…それで全ては終わるから。 僕の躯に満ち充ちる滅びの毒が緑の大地を枯れ果てさせるのが待ち遠しい…
僕が抑えきれずに漏れ出す毒は帝国の“血(カドミューム)”!」
「俺に前には道はなくとも俺の後ろにゃ道がある! どんな土でも岩でも掘り進む究極の穿角は地上まで一直線だ!
俺の後からついて来な!地上二番のりはくれてやる!帝国の“路(ドラブリュ)”!」
 ナーメ! なーめ! ナーメ! なーめ!
凄まじい高揚! 凄まじい熱気! 時は来た!
「さ ぁ 復 讐 と い こ う か !
地上の全ての緑…いや、世界樹すらも枯れさせに!」


「乙姫様、五百年前の事案を整理していましたところ、この様な記録書が出てまいりました。
ついては私共で解決策を協議しましたので、その確認をお願いしたく…」
「これは大臣、どうも丁寧にすみません。
あれは急を要す大事でしたので私自らがエリスタリアに赴き解決交渉を行ったのです」
若き鯰の大臣は予想外の返答に驚き額の汗を拭う。
「交渉後に書を解決済みに回さなかった私の落ち度ですね。 気を使わせてしまいましたね。申し訳ございません」
「いえ!解決しているのであれば私共は一向に!
まさか龍神様が寝惚けて寝返りをうち沈めたエリスタリアの南半島の一部の復旧、乙姫様のお力添えで解決していましたとは」
「恥ずかしながら私は特に何もしていないのですよ。 沈み海の底になった土地にも何か植物は育たないものなのでしょうか?と尋ねただけで…
その後、その海底には海でも育つ樹が植えられ、樹の土地が生まれたのです」
「成る程」
「あぁ、でもその樹は特に濃い海水であれば育ちがよくなると言われましたので、その土地沈みし海域の塩分をおもいっきり濃くする助けはしましたよ」


 ドゴァ! ガンバーン! ドガガガガ! ドボボボボボボボボボ!!
「何だァ!?一体こりゃどういうこった! まだ俺はそんなに掘っちゃいねぇぞ!?」
「おかしいですね。地上まではまだまだ距離があったはずなのに!」
「…これって海水だよ…」
「皆、我の後ろに避難するのだ! …っ!?なんだこの海水は!とんでもない濃さである!」
勢いよく地上への侵攻を開始して小一時間、突如割れ開いた岩盤から無限とも言える勢いで海水が流れ込んできたのだ。
「何故だぁー! 千年前、落ち延びる寸前に我々が再起を知らしめる為にと目星をつけておいた森林の真下の筈であるのに!何故海水が!?
おおぉ!“壁”がみるみるうちに溶けていくではないか!」
一度開いた穴は押し寄せる海水流が瞬く間に砕き広げ、地上への道や洞穴の隅々までも恐るべし濃海水で満たしたのだった。
「何ということだ…! この様な事で我々の、千年の宿願が果てるとは…!
もう誰でもよい!誰か!我々の代わりに緑の世界を蹂躙し ───


─── ?何か言ったか?」
「何スか滑川さん。 俺達何も言ってないスよ?」
「しっかし滑川さんはパネぇや! 呼び出しておいて一人でやってきた馬鹿を全員でボコっちまうなんて!」
「フン。私はああいう目が嫌いなんだよ。 武道の心得とやらが如何に下らないものなのかを教えてやったまでさ」
「俺は後からきてあいつを庇った蛇女もまとめてヤってしまうのかと思いましたがね」
「フン…。あんな醜い鱗など近づくだけでおぞましい。 臭いのが移る前に離れたのさ」
「ヒューゥ。 滑川さんの亜人を睨む目つきはマジヤバっスよ!」
同じ人間である筈なのに、澱んだ者達なのに、その男の目だけは一層深い暗がりを呈していた。
整然とした佇まいと小奇麗な服装には似つかわしくない汚い言葉。
滑川と呼ばれた男子生徒が路傍に吐いた唾がかかった蒲公英が

  ──── 枯れた



スレネタと相関図があるとのことでそれを見て想像だけで書きました
確認なしのキャラお借りですのでサクっと読み流して頂ければ幸い

  • 遺伝子の先祖がえりみたいなのあるん -- (名無しさん) 2014-07-11 21:24:07
  • そこまで紹介しておいて一気に流すとか鬼か!平和に生きてるナメクジ人もいてほっとした -- (名無しさん) 2014-07-11 23:50:57
  • テンがボッコボコにされてるようでワロタ -- (名無しさん) 2014-07-12 03:07:48
  • 滑川は地球に落ち延びたナメクジ達の末裔なんだろうか? これから彼がどう立ち回るのか期待 -- (名無しさん) 2014-07-12 03:39:54
  • 大昔とかに小ゲートで飛ばされてきた異種族が人間と交わって血が混じった? -- (名無しさん) 2014-07-12 20:56:53
  • かっこいいあだ名を持ってても見た目がナメクジだったらと思うと笑ってしまう -- (名無しさん) 2014-07-15 01:10:47
  • 世界制服って異世界でも目指したりしてるとこあるのかな? -- (名無しさん) 2015-05-19 23:55:33
  • 数いるイレヴンズゲートのキャラの中でも徹底して悪の位置に立つ滑川の行動は世界が邂逅した次の世代の物語に思えます -- (名無しさん) 2017-11-26 17:28:50
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最終更新:2014年07月11日 01:57