【ミズハミシマに河童はいた?】

 『ミズハミシマの奥地でカッパを見た!』
一流から少し離れたトンデモ異世界雑誌の記事に思わず惹きつけられてそのまま渡界フェリーに飛び乗った。
某御大先生の妖怪漫画が大好きな私は実物の妖怪を見れると期待に胸を弾かれそうになりながらミズハミシマに到着。
そのまま記事にあった皿森山島へと鱗舟に運んでもらうともう動悸が危険領域に踏み込んでいた。
御免下さいと件の藁葺き屋根の一軒家の戸を叩くと出てきたのは、
「何か用なんです?」
頭の上に大きな平皿を乗せ紐で縛った涼しそうな短手の着物を着こなす川獺のような見た目の獣人だったのだ。河童ではなかった。
いや確かに頭の上に皿ではあるが。
戸の前で立ち尽くしている私を哀れんだのかは分からないが、カッパの人がどうぞと中へ入れてくれた。
土間の屋根や壁に所狭しとぶら下げられている胡瓜のような緑の野菜…カッパだ…。
茶と酒のどちらが良いかと聞かれた私は、実は下戸。 迷わず茶を頼むと澄んだ緑色の茶が差し出された。胡瓜のような味だった。
「何故このような辺鄙な山の上まで来られたんです?」
尋ねてきた顔そこはかとなく哀愁漂う。 優しげな黒目は少し垂れている。
私はスケッチ用にと持って来たノートにこれでもかというくらいテンプレな河童を描き見せた。 これに会いに来たのだと。
「その様な姿の人なら知っているんです?」
瓢箪からなんとやら、まさかここに来て茶を飲むだけで終わるはずだった旅に光が!
すぐさま私はその人に会いたいと願い出ると、彼はつるりしっとりとした短い毛並みをぺちぺちと叩き立ち上がる。
ぬるんと幅広の尾が左右に振られたかと思うとおもむろに、
「川を下って海まで行くんです?」
家の裏手に案内されるとそこはさらさらと小川。 小さい赤と黒で塗られたお椀の様な盥のような。
「これに乗るんです?」
乗ると言われたので何の躊躇いもなく乗ってはみたが、成るほどこれは一寸法師の気分だ。
でもこれはどう見ても一人乗りなのですが?
「では下るんです?」
私が乗るお椀をぐいと押せば川の流れに乗ったのかゆらゆらと下り始める。
まだ岸に立つカッパの人を見ていると突然の逆立ちに続きちょちょちょと横に移動するとそのまま川にどぶん。
なんと!と思うも束の間で彼は沈みもせず逆さに直立したまま、頭の皿に乗って川を下り始めたではないか。
逆立ちでどう見てもすぐにこけてしまいそうなのに、まるで茶柱が踊るように絶妙な揺れ加減にて川を進む。
随所でちょいちょいと振られる尾でバランスを取っているのであろうか。

不思議な川下りも河口の浅瀬、砂地の底にお椀が引っかかると終了である。
「あそこを見るんです?」
カッパの人が指差す先には何やら人だかりが。 寄ってみるとどうやらお祝いの最中。
人だかりの中でおごそかなる神事司るような白装束に身を包む亀の様だが甲羅は背負っていない長い髭が立派な翁を見つける。
これは何かと尋ねてみると、
「海のお宿、緋蛸屋の建て上げ祝いですわい。 私はこれから行われる神事の行司のために呼ばれましての」
そう言った翁が向かう先の浜には土俵が。 その先の海から二階であろうか三階であろうか、宿の上が顔を出していた。
むむ!?何と!あの土俵にて対峙するのはまさかまさか…河童ではなかろうか!
土俵を囲む色も顔も様々な人の輪に入り土俵へ顔を伸ばすとそこには紛れもなく見事なまでの河童が二人。
「どうなんです?」
素晴らしいと涙を流す私にカッパの人が説明してくれた。

 彼ら頭の上に皿持つ水と陸とに住む鱗人は、代々物作部(ものつくりべ)と呼ばれる建築大工の職人一族であり
 古くは龍神がまだ荒ぶりし頃に家を壊されて泣く人を助け、ミズハミシマに乙姫が舞い降りるとその腕前から竜宮城建造にも携わったという。
 頭の皿には常に『力水』が満たされており、それにより彼らは陸は元より水の中でも大きな腕力を使うことが出来ると言う。
 むしろその力水の作用と水精霊に深く通じる彼らの技で、水の中の方が強い腕力を発揮出来るとも。
 そんな彼らが何か建物を完成させた折には、その建物が末永く在り続けるようにと歌い踊り精霊や自然に、この建物ここにありと知らしめるのだと。
 そんな祝いの中で執り行われるのが『供え相撲』と呼ばれるもので、建造に携わった者達の中から力自慢を三と七と八人選び(計十八人)
 建物の前に作った土俵で相撲をとるのだと言う。

どちらも筋骨隆々というよりは細く引き締まった体つき、お互いに甲羅を背負うものの立会いからの激しい差し合いには全く支障なし。
突き合いから喉輪を取ったかと思えば一発逆転の脇掴みからの横払いで土。お見事である。
次に対峙したのは大きな黒鬼と、それの背丈の半分あるかないかの小さな河童。 見れば甲羅も背負っておらずあどけない顔つき。
捻り褌の他にさらしを巻いていることから河童の少女と思われるが、如何せんこの体格差はなんともはや。
しかしよく見ると、汗を流し緊張の面持ちなのは鬼、嬉々とし尖った口先からにゅっと口端を吊り上げ笑むは河童。
亀の翁のはっけよい!のこった!の後にこれでもかと言わんばかりのぶちかまし。
みぞおちに皿頭のめり込んだ黒鬼は思わず悶絶するも河童の腰を鷲掴む。 しかしここから驚いた。
何と浮かび上がったのは鬼の方。少女はお構いなしに鬼の腹をぎゅぎゅっと握り持ち上げたのだ。
ひょいと土俵の外に放り出された鬼を背に恭しく手捌き一礼。 何とも豪快な一本。
次はどうした何が出てくると、いつしか私は陽が沈むのも忘れて声を張り上げ相撲に魅入っていた。
とっぷり夜が降りてくると、宿の者たちだろうか浴衣衣装の蛸人が皆に酒だ何だと振舞い始める。
思わずそれを受け取った私は一同と朝までお祝いを堪能したのだった。

「満足してもらえたんです?」
勿論ですと、私が乗ってきたお椀を背に担いだカッパの人が山へ帰る前に今度は日本の胡瓜をお持ちしますと感謝の約束をとりつける。
彼はふわんふわんと尾を振りながら、頂への山道へと消えていった。
ミズハミシマには間違いなく河童はいた。 そしてカッパもいたのだ。


スレのカッパネタから相撲を思い浮かべて

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【月光の落ちる窓辺で】 スレネタ・手書き【河童のような人】

  • 妖怪って異世界だと普通に一つの種族としていそう -- (名無しさん) 2014-08-07 22:55:05
  • ミズハミシマって人の数は多くないけど変わった種族が沢山いそうだ -- (名無しさん) 2015-01-20 23:30:00
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最終更新:2014年08月06日 03:08