【図書館事情 オルニト】

 オルニトで単に図書館といえば、それは大図書館を指す。
強大な軍事大国であったオルニトが世界中から集めた広範な書物が、皇帝の所有する島一つを丸ごとくりぬいて作られた書庫に収められている。
空を飛ぶ岩塊には採光や通気のための穴があけられ、どこからでも入ることができる。

 入り口をくぐると、巨大な空洞が自然光と浮遊光精群によって余すところなく照らし出されている。
あちこちから建物ほどもある球状棚が吊り下げられ、内部は何重にも入れ子になった同心球が本を詰め込んでゆっくりと回転している。
壁に口を開いた収蔵室は大掛かりな蜂の巣を思わせ、時折蜂ならぬ司書や研究者が出入りしては、足で本をつかみ、あるいは首にかけた袋に収蔵品を納めて飛び出してくる。

 地球と違い、この図書館には歌が満ち溢れている。
広大な図書館の全域を書物の保存に適した状態に保つため、あるいは利用者の飛行を助けるため、館内には常に風精たちが巡回している。
整然と、時には気まぐれに館内を行進する風たちをうまく操ることができるのは、空と大気に親しんで生きるオルニトの民ならではのこと。
もちろん、静けさを要する利用者のために防音の閲覧室も用意されている。

 利用者の多くは開けた場所に配された机や止まり木を好む。
本に付属する環に固定用の紐を括り付け、自身はその上にまっさかさまに浮かび上がって字を追う姿は珍しくない。
ここには重力というものが存在しないのだ。
浮遊島それ自体と同じく、この空間は落下から解き放たれている。
この島そのものが、道理を超越した神の遺物、『ハピカトルの落し物』だという向きもある。
この島に大図書館が設立されたのも、重力に縛られない収納能力を生かしてのこと。
鳥人たちは自由落下にも適応している。
彼らにとっては、単に羽ばたかずに済むというだけのことである。

 蔵書は主に歴史書、風土記、神学書や技術書が目立つ。
一方で戯曲や楽譜はバリエーション豊富で、これらはかつて空を舞っていた巨大劇場の名残である。
多くの『落し物』もまた、収蔵品の目玉である。

 大図書館はそれ自体が一つの街でもある。
重力の存在する表面上部には、司書や神官のための住居や宿坊、市場や農地などが、採光穴の間に広がっている。
常在人口は千人ほど。
年々減少気味で、施設の老朽化も目立つ。
だがそれでも、ここが世界一の図書館であることは疑いようもない。

 翼を持たぬ利用者は、しかるべき紹介状が必要となる。




 但し書き
 文中における誤り等は全て筆者に責任があります。
 千文字。

  • 至れり尽くせりの異世界大図書館!落し物と施設の保全が気になった -- (名無しさん) 2014-08-23 15:19:16
  • 異世界の中の異世界と言った雰囲気。ここを舞台に短編連作読みたい -- (名無しさん) 2014-08-23 18:33:33
  • サクっと読めるがオルニトがぎゅっと詰まっている。オルニトならではな要素いっぱい -- (名無しさん) 2014-08-24 16:46:50
  • 風と不思議の国だなー -- (名無しさん) 2014-08-29 22:20:17
  • 異世界で図書館というと大延国よりもオルニトをあげてしまう。本とかじゃなくて知識でもなくて物事の埋蔵 -- (名無しさん) 2014-09-19 22:44:11
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最終更新:2014年09月17日 23:27