【図書館事情 ラ・ムール】

 ラ・ムールの図書館は、神のもたらす試練と深く結びついたものである。

 ラ・ムールの民は、神霊のもたらす試練に日々直面している。
試練の中でも特に、知的能力を試されるものが存在する。
「神霊の問い」と呼ばれる難問の提示である。

 多くの場合、それは不意の霊感や啓示と言った形をとる。
優れた頭脳や豊かな感受性の持ち主は、たちまち神霊のもたらした問題の虜となり、寝食を忘れて没頭する。
問題の持つ魅力そのものが、試練を受けるものを何よりも強く縛る。
やがてひと段落を迎えると、試練を受けたものは得られた成果を作品としてまとめ、神への感謝を込めて神殿に奉納する。
特に優れたものの中には、新たな「問い」が続けて授けられることもある。
ラ・ムールの偉大な学者や芸術家の多くは、こうした「問い」に答え続けた者たちである。

 ラ・ムールにおける図書館は、こうした「問い」の成果物をおさめる施設であり、したがって美術館をも兼ねている。
どんな街にも、その地方の修練者たちが生み出した成果の山がうなっている。
膨大な収蔵品を分類し、目録を作り、管理するのは大変な作業であって、これはまた一種の試練であるとみなされている。

 特に有名な図書館として、王都マカダキ・ラ・ムールの「砂の館」がある。
「神霊の問いかけ」の中でも、抽象数学に関するものは特別な地位を占めており、未解決のまま後世に託された問題もかなりの数に上る。
「砂の館」はそうした「問い」を集積し、知恵を結集して解決を図るとともに、得られた洞察を体系化して教育を施している。
もともと商業には計算が必要不可欠ということもあって、ラ・ムールは古来より数学がたいへん盛んであった。
一部の分野では二十世紀の地球に迫る発達を遂げている。
「砂の館」の名は、もっとも有名な問いの一つである「証明を待つ定理と砂漠の砂ではどちらが多いか?」という、通称「砂の問い」に由来する。
ゲート開通後、地球から輸入された数学書から読み取られたゲーデルの不完全性定理によって、この問いには一応の解答が示されたことになったが、「砂の館」の学者たちは自分たちの体系で証明を得るべく、現在でも日々研鑽を積んでいる。

 ラ・ムールの図書館は「砂の館」も含め、誰もが出入り自由である。
収蔵品の盗難や剽窃については、次のような文章が多くの図書館の門に掲げられている。
すなわち『試練の成果の持ち出しは、神の新たな試練を呼び寄せる可能性がある』。



 但し書き
 文中における誤り等は全て筆者に責任があります。
 千文字。

  • 試練や疑問問いかけに対するラムールの民の熱意を感じる。その熱意は目まぐるしい早さで図書を広げていくのだろうか。本当にあったように錯覚させるくらい説得力のある「砂の問い」すごいです -- (名無しさん) 2014-09-02 23:47:52
  • 試練の攻略に役立ちそうなと熟読しても降りかかる試練はちゃっかりその上をいきそうで怖いラムールライフスタイル -- (名無しさん) 2014-09-11 23:30:54
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最終更新:2014年08月29日 00:04