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【赤い少女3C Cross-cultural communication】

 ヤマダがロッカー沢村 太助と出会えたのはまったくの偶然であった。
 腹ペコイスティが普段と違うキャラと成り果て、街並を撮影するヤマダの裾を引き
「もうすぐお昼です。延のお昼は混みます。今のうちに席を確保しましょう。おっと丁度目の前に串焼きの屋台が」
 などと丁寧口調しつつモーションの少なめで屋台の一角を指差した。
 しかし、なぜ大延国の人は串焼きが好きなのだろうか?
 羊肉やイカのようなモノまでは理解できるが、蠍のようなものやら豆腐にさなぎと自由な発想で食材が集められて一律串刺しとなっている。
 バックパッカー経験豊富で食に比較的寛容なヤマダでも、少々キツいものがある。
 イスティも流石に臭う豆腐やらさなぎには手を出さないが、蠍やバッタなどは平然と食べる。
 流石のヤマダも口元からバッタの足が出ている美少女はファール――いやアウトである。
 今日のイスティは地球のサンザシ似たなどの果物の串に手を出した。様々な大きめ果実を串に刺し、ぎらつくほど白蜜をかけててらてらした甘いデザートだ。
 べたつく手にもたつきながら、ペロペロと舐める仕草は大変撮影したく光景であった。しかしヤマダは彼女の向こうに地球人の姿を見つけ、思わず撮影機器を向ける事すら忘れた。

 イナゴ似の何かのイナゴっぽいのを食べる沢村の姿がそこにあった。

 ヤマダは悩んだ。
 偶然の出会いというシーンにモザイクが入っていいのもなのかと。放送された時(彼は何を食べていたんですか? 和歌山県18歳)とか質問が寄せられたとき、どう対応したらよいのか。
 そもそもあれはイナゴですというのは無理がある。明らかに異世界のゲテモノである。
 バラエティ番組なら美味しい映像かもしれないが、音楽番組でこれはいけない。

 などと思いつつ、つい安心して撮影できるイスティへとカメラを向けた。

 今度はサナギを食べていた。

「何故キミは……そんなに異世界への順応が高いんだ」
 バックパッカー経験のあるヤマダでも、すんなり異国の食べ物を口にできるほどではない。むしろ、食べて良いかを精査する目を磨いてきた面の方が大きい。
「ん~。もぐもぐ……ほれは私が元々こりらの世界……」
「サナギを食べながら話すな!」
 流石のヤマダもカメラと共に顔を背け、イスティの口元映像を脳裏から消去した。
 いや映像を消去するのは映像関係者らしからぬ行為である。と、ヤマダは思い直して脳内の映像を復帰させるとイスティのモザイクをかけた。
 するとどうだろう。
 なにか卑猥なイメージになってきた。
 モザイクの向こうで彼女が口に含む白い完全変体へ再構築中のドロドロの何かを、ヤマダは別の白いドロドロであると脳内変換する事に成功した。
 ヤマダは新しい人類の可能性を見出したかもしれないが、余り他の人類は追随したくない方向性である。
 彼は完全変体昆虫食を性欲に変換させる事が出来た完全変態だ。
 そっとしておこう。
 やおら興奮し始めたヤマダを無視してサナギを食べ終えたイスティは、反論とばかりに食文化について語り出す。
「だいたい、日本人だって悪食さ。母体が衰弱死してミイラ化するまで野ざらしにしたあげく、裂けた母体から脱水症状の子を取り出して茹でて蒸して殺し、わざわざ枯草菌を加えて腐敗させてベタベタのまま食べるなんて残虐さ」
 よく分からない表現だったが、完全変態ヤマダは柔軟な頭で工程を逆回転させながら枯草菌という単語をヒントからイスティの言う一つの食材が思い当たる。
「もしかして納豆のこと?」
「そうともいう」
 そんな表現を使ったらご飯もパンも残虐である。

「やあ、キミ達。キミたち日本人でしょ?」
 サナギと納豆の騒動が吉と出たのか、ヤマダたちに気が付いた沢村から声を掛けてきた。取材側としては失敗シチュエーションではあるが。
「あ、え? あ、はい。まあ日系シンガポール人ですが」
 思わず普通の人なリアクションを取ってしまい、業界人としてヤマダは恥じ入った。
 すぐに沢村本人を取材に来たことをヤマダは正直に話して、改め取材を申し込む。
「ああ、いいよ」
 と、すんなり取材を受けいれるが沢村の顔は浮かない。
「まさか天才扱いとはね……」
 驚くというよりどこか残念そうな表情で沢村は頭をかいた。
「いやはや実際そうでしょう。全日本学生音楽コンクールでの優勝に始まり、2004年のピアノコンクールでは第三位。その他多く名だたるコンクールで成績を収め、ロックに転向したと思ったら異世界への一人旅。またもやそこでの成功。これを天才と呼ばないとしたら、努力と研鑽をする人たちに気が楽にならない」
「ああ、そういう考え方もあるんだ。まあロックはこっちの世界で早々挫折したから、どんなやり方でも形振りかまわず音楽振り回してるだけなんだけど」
「それこそロックでしょう! ソウルのために楽器も音楽手法も拘らない様!」
 相変らず調子がいいな……と、サナギを平らげたイスティは言葉の上手いヤマダを横目で見た。
 そしてすっくと席から立ち上がると、二人の男を見上げて問いかける。
「で? いったん地球に帰るの?」
「まだだ」
「いったんディレクターに報告が……いいのかな?」
 沢村ははっきりといい。そしてヤマダは社会人らしい常識的だが、はっきりとしない。
 自己紹介がまだだったことに気が付いたヤマダは、まずイスティの長いフルネームを間違わずに紹介すると、どうしたものかと首を傾げた。
「あれ? ところでイスティってどこの出身?」
「地球ではない」
 これにはヤマダも驚いた。
「ま、まさか実は1000歳とか合法ロリ?」
 完全変態ヤマダの本領発揮だが、沢村もイスティも無視する。
「沢村。キミが帰るという時まで同行しても構わないかな?」
「ん? ああ、いいよ。キミにはゲートでの恩もあるからね。どうせそこのADさんも来るんでしょ?」
 沢村は顔認識に障害を持っているが、イスティの声は覚えていた。
 ヤマダは話を振られながら、一応社会人らしく悩んだ。
 実際ならば本社とすぐさま連絡を取りたい。ゲートを潜ってちょっと衛星電話で連絡を取ればすむ。
 しかし、大延国から未だ出ていないとはいえ、ゲートのあると帝都までは一日では行けない。これに沢村が同行してくれればいいが、そうでないとなると……。

 イスティと沢村が二人きりになる。

「よし、本社との連絡はその場の成り行き任せにしよう」
 ヤマダはまるでたった一つの冴えたやり方のように爽やかな笑顔で言うが、社会に疎いイスティや沢村でも聊か眉をひそめる判断である。
「ま、まあADさんがそれでいいならいいけどさ」
「で、どこのいくのさ」
ラ・ムールにまだ行ってないだよね……」
「猫耳! ネコミミだね! 行こう! すぐ行こう」
 盛り上がり方が検討違いなので沢村は困惑したが、それより気になることがあった。
「ところでイスティちゃん? キミは何故、俺と同行するつもりなんだ? 俺のケツ叩いて異世界に送り込むのも不思議だが、何故今になって一緒にくると?」
 これはヤマダも不思議に感じていた事だ。沢村のいうことももっともだと頷きながらイスティに問いかける。
「沢村さんの異世界行きに関わったって話しも気になるけど、なんでまた同行するんだい? パパとママは何も言わないのかい? お姉さんいる? 妹いる?」
「……姉も妹もいない。パパとママの事はどうでもいいさ。それに同行の質問のことだけど、それにはゲートの意味について説明しないといけない」
 後半の質問が激しく不可解ではあるが、イスティは丁寧に答える。
「ゲートの意味?」
 沢村は訝しげに険のある顔を歪めた。どことなくガラの悪さが見えるが、ロックスターらしく様になっている。
「ヤマダも前にいったね? なぜゲートを開ける意味がこちらの世界にあったのか?」
「ああ……。え? あったっけ?」
 盗撮の目くらましで注意を引くためでっち上げた話しなので、ヤマダははっきりと覚えていない。
「うん、あった、あったね。思い出した」
 話の腰を折っても不味いと、ヤマダはすぐに訂正して内容を合わせた。
「ヤマダはいい着眼点を持ってる。地球側。事情をまったく知らないガイア人にしては慧眼さ」
 一旦、イスティは桃ジュースで喉を潤した。
「簡単にいえば、ゲートはサイフォンさ」
「サイフォンって、醤油きゅぽきゅぽみたいなものか?」
 沢村の例えにイスティは頷いた。彼女は醤油きゅぽきゅぽを理解できるらしい。
「もしかして、地球側から何か吸い出してるっていうのか!?」
 ヤマダの驚きにイスティは手を翳して制した。
「安心して。そんなに危険な話じゃない。地球側では殆んど利用されてないものだからさ」

 その後、彼女の語った話しを纏めると。
 どうやら異世界では霊威やら魔力と呼ばれる力が薄れてきているらしい。そしてそれらを地球側から吸い出して平均化を狙っているという。
 例えるなら、異世界の魔力が30残っていて、地球側が90あるとする。
 サイフォンのように高いところから低いところに流れる魔力などは、やがてお互い釣り合いの取れたところで安定する。
 30と90の半分ずつ。
 両方とも60だ。
 地球側ではほぼ使われる事のない見えない力であるため実害はない。異世界にとっては5千年分の補給になるという。
 やり方はゲートを潜る人間たちから吸い上げているらしく、これはまったく問題がない。なんでも霊力も魔力も利用してる人間はいないし、たとえほとんど吸い上げられても地球に帰れば自然と元に戻るという。

「でも困る者も地球側にいる。地球在来の弱い神様たちさ」

 イスティはそういった弱い神様のために、無碍に吸い取られた霊力の一部を取り戻しに来ていると説明した。
「それが俺との関係は?」
「沢村はこちらの世界で多くの霊威を集めた。歌という媒介を利用してるので変換率は悪く具現する力は微々たる物だが、それは地球側の弱い神様に取っては精錬された鉱石。美味しく消化にも良く加工された食事ってわけさ」
 ヤマダは何の話かいまいち分からなくなってきたので、デジカメをテーブル下に仕掛け始めた。
 話に夢中のイスティも沢村も気が付かない。
「だからせめて地球の神々の延命のために私が一肌脱いでるのさ」
「……キミは何者なんだ?」
 沢村の問いに答えるため、意を決意した様子でイスティは立ち上がる。
 そしてワンピースの裾を持って、胸元まで引き上げた。
 下半身はテーブルに隠れているので見えないが……。
「うぉ! マジで! たくし上げキターッ!」
 ヤマダは超反応でテーブル下に潜ったが、これまた超反応で飛び出したイスティの蹴りを受けて仰向けに引っ繰り返った。
 そんな痙攣するヤマダなど無視して、沢村はイスティの腹部を注視した。決して性的な目ではない。
 イスティの腹部にはゲートが開いていた。

「異世界から地球への一方通行。しかも通れるのは沢村みたいな霊威を集めた人間だけ。いずれ帰りたくなったら私の中に入れてあげるよ。地球のお望みの場所に出られる特典付き」

「ナニソレ! 入れるとかマジっすかー!」
 復活したヤマダに地獄突きを食らわせ、赤面しながらイスティはワンピースの裾を元に戻した。
「異世界の混沌とした霊力と魔力。地球側の精錬されているけど使用者の決まった力。それらの整流器の執行者。それが私さ」
「ああ、じゃあ俺は別に気にしなくていいって話ね」
 イスティは世界の大きな事実を話したつもりだったが、沢村は意に介した様子がない。これはイスティに取っても望外である。
 人間でないことも受け入れ、なおかつ事の大きさにも臆することなく、そして自らの霊威が抜き取られる事に対して恐怖どころか不安すら感じていない。
「ああ、やっぱりイスティは人外なんだ。合法ロリ……ハァハァ」
 足元でも人間でないことを性的に受け入れている奴がいるが、イスティは面倒なのでスルーした。
「時間はいくらでもある。好きな時に戻ればいいさ。でも、沢村。キミはちょっとあちこち行き過ぎだから探すのに苦労したよ」
「そういうことね。じゃあ、俺の歌でも聴きながら楽しく旅行ってわけで構わないね」
「構わないさ」

 完全変態しながら、ふと冷静なヤマダは思う。
 イスティの行為を快く思わない異世界の存在はいないのだろうか? と……。
 なにしろせっかく沢村が精錬した魔力である。それを欲するものだっているだろう。地球側に戻ることを良しとしない者もいるだろう。
 しかし、ヤマダにはなすべき事がある。
 盗撮のため設置したカメラが無事なのだ。
 たくし上げパンツの撮影はばっちしなのには違いないから、ローアングルからイスティの胸が撮影できたかどうかを確認しなくてはいけない。
 きたる障害より、それが一大事なのだ。
 だめだこいつはやくなんとかしないと!


  • ゲートの解釈が興味深かったですね。無頓着にワイルドな食べっぷりと自然体で子供らしい食べっぷりが沢村とイスティにとてもあっていました -- (名無しさん) 2013-04-20 19:32:31
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最終更新:2011年10月17日 12:13