異世界は
スラヴィアの片田舎に不思議な領地がありました。
その領地に住む領民は、今だかつて誰一人として食べられた事もスラヴィアン化された事も無いと言うのです。
領地に有る小高い丘に屋敷が一軒。
そこに住むと言う領主が変わり者で、領民達にキチ○イ博士と言われておりまして、博士には一人娘がおりました。
娘の名はバンビーナ。
死体を切り貼りして作られたゾンビタイプのスラヴィアン。
まるで地球の物語にあるフランケンシュタインの怪物じみた彼女ですが、その心はとても優しく容姿は可愛らしい
ノームの少女。
体中の縫合痕が玉に傷の少女型スラヴィアン「人造人間バンビーナ」は、今日も明るく元気に暮らすのです。
【続・人造人間バンビーナ】
「ひぃーーーお助け下さーーーい」
「へっへっへ、諦めろよぉ。このあたいに食われる事を光栄に思うんだなぁ」
そこは町外れの森の中。山菜を摘みに来ていた猫人のオバさんがはぐれスラヴィアン(野良貴族とも言う)に襲われていました。
領地を失ったけど命は助かった落ちぶれスラヴィアンの中には、たまにこうして山賊まがいの行為に走る輩も居るのです。
「止めなさーーーい!」
そうこうしている所にこの領地のスラヴィアン、人造人間バンビーナが駆けつけました。
はぐれスラヴィアンが活動する夜は即ち、領地持ちのスラヴィアンも活動する時、バンビーナが活動する時間でもあったのです。
「良い子ちゃんのバンビーナ! またあたいの邪魔かい?」
はぐれスラヴィアンに落ちたスラヴィアンは力を失っています。ですからこうして下級貴族の領地に侵入して勝手に領民を襲ったり饗宴を申し込んだりするのですが……。
「どうすれば解ってくれるんですか!? 領民の皆さんは大切な仲間で、領主は領民を守るものだって!」
「全然解らないねぇ。生者なんか死人の餌、領民は領主に飼われる家畜だろうが!」
大抵の場合はぐれスラヴィアンは負けて消滅します。ですがこの領地のスラヴィアンであるバンビーナは優しかった為、こうして倒されず悪事を働き続けているのでした。
「もうこんな事止めて下さい! せめて真面目に饗宴をして下さい!」
「やなこった! さっさとあたいにやられて神力よこせー!」
この野良貴族ローザはダークエルフのスラヴィアンですが、生前は有名なならず者でした。
それが三つ子の魂百まで、こうしてスラヴィアンになった今も変わらずならず者を続けているのです。
軽快なダークエルフには珍しくバスターソードの使い手で、その巨剣を今!バンビーナの胴体に突き刺したのです。そしてそのまま巨剣を振り上げ肩口までバッサリと……。
「キャーーーーー!!」
「バンビーナちゃん!」
草むらにドサリと倒れるバンビーナ。これだけの損傷を受けてはいかに不死身のスラヴィアンと言えど立ち上がれません。ローザは勝ち誇りました。
「どうだい! これだけやれば今日こそ――」
「あーーーん、博士に貰った大切な服がぁ~」
しかし何と!バンビーナは斬られてぶら下がる右半身を、右手で左肩を掴むと言う無茶苦茶な方法で固定しながら立ち上がったのです!
「げぇ!? お前不死身かぁ~!?」
一度死んでいるからこれ以上死なないスラヴィアンなんだから当たり前だろ。などとツッコまれてしまうような台詞を言いながら、ローザはもう一度攻撃すべく巨剣を振り上げます。しかし――。
「許せません! リミッター解除――
アンデッド~~~サイクローーーン!!」
「うわぁーーーーーーーー!」
その巨剣が振り下ろされるより早く、バンビーナ必殺の拳が決まったのでした。
哀れ野良貴族のローザはまた遠く森の彼方に吹っ飛ばされてしまったのでした。
「正義は勝つ! です」
バンビーナは血まみれで決めポーズをとり屋敷へと帰ってゆくのでした。
「や~っと帰ったかバンビーナ。お使いにいつまでかかっとる」
「ごめんなさい博士」
「むむっ!? お前その傷。これはいかんっ、緊急修復(オペ)じゃ!」
バンビーナが屋敷に帰るなり、博士はその傷の修復作業に取り掛かりました。
時刻は夜の7時過ぎ。修復を始めれば軽く夜が明けてしまうでしょう。
(博士、すごくお腹空いてる筈なのに……ありがとう……お父さん……)
初老を迎えた博士の優しさに、バンビーナは流れない涙を堪えるのでした。
「これで良し……っと。ふぅ、老体には堪えるわい」
朝陽が昇る頃、修理作業はようやく終わりました。バンビーナの体はすっかり元通りになり、今は安らかに眠って居ます。
(とは言え、この間の饗宴でバンビーナのランクがアップしてからわしらを狙い者が増えてしもうた。このままではいかん……)
そうです。前に
オーガのスラヴィアンモロゾフを倒しランクが上がってからと言うもの、片田舎で無名だったヴィクター博士の所にも饗宴の申し込みが来るようになってしまったのです。
加えてバンビーナが優しい事からローザのような野良貴族にまでカモられる始末。だからバンビーナは大忙しです。
「何とかしてやらねばな」
博士は徹夜で疲れた眼を擦りつつ、一人数週間ぶりに町へと出かけました。
「お早う御座いますお嬢様」
「え? お、お早う……御座います?」
その日の夕方バンビーナが目を覚ますと、自分と同じノームの女の子が屋敷に居ました。
「今日も良い夕暮れですね。お買い物は私が済ませておきましたのでご安心下さい。お夕飯も私がお作り致しますね」
「あ、ありがとう……?」
メイド服を着たその小さな女の子の言う事にバンビーナは?を浮かべるばかりです。そこに博士が戻って来てこう言いました。
「わっはっは。起きたかバンビーナよ!」
「あの、博士……あの子はいったい」
「おぉ、あの幼女(ロリ)は最近越してきたノームのピクシィじゃ。孤児だったでな、この屋敷で雇ったんじゃよ」
雇い人と言われバンビーナはようやく少し納得できました。
あぁ良かった、博士がとうとう禁断の果実に手を出したとかじゃなくて。そんな不敬な事まで考えてしまいます。
「はぁ……でもなんで。全部私がやってる事なのに」
「なぁに、お前は饗宴で疲れているだろうと思っての」
博士のその言葉にバンビーナはハッとなります。夕食もとらずに徹夜で自分を直してくれた博士。そして今度は自分の為に……バンビーナは再び目頭の熱くなるのを感じました。
「博士……」
「それにロリっ娘のメイドとか最高じゃからな! 夢が広がるわい。ワッハッハッハ」
「博士……」
バンビーナは熱くなった目頭が急速に冷えたのを感じたのでした。
「いつもありがとね、ピクシィ」
「そんな、勿体無いお言葉です」
ピクシィがバンビーナの屋敷に来てから2週間。二人はすっかり打ち解けていました。
「何だか妹が出来たみたいだなぁ」
「私も、お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいです」
同じノーム種族と言う事もあって二人は急速に仲良くなっていきました。ピクシィはとても人懐こい性格で、バンビーナに良く懐いたからです。
「その……失礼だったらごめんなさい。ここは変わった領地ですね」
「え? そうかなぁ」
洗濯物を干しながらピクシィが話しかけます。
「お嬢様はアンデッドでらっしゃるのにお食事を取られないし、ここの領民の皆さんもそれが当たり前みたいに言うんです」
いきなり仕事が無くなるのもむず痒かったので、バンビーナは遠慮するピクシィと一緒に買い物に行ったり仕事を手伝ったり教えたりしていました。
時には一緒にお風呂に入ったり、逆に一人で買い物に行ったり、そんな中ピクシィはここの事を聞いたのでしょう。
「私の居た……いいえ、普通の領地では領民は定期的に領主様に供される事が当然で、それが光栄で誉れ高い事でした。私の両親も……」
「あっ……」
バンビーナは博士がピクシィが来た時に言った事を思い出しました。
孤児――ピクシィはみなしごだったのです。そしてそれはここスラヴィアでは珍しくない事でした。何故なら領民は全て領主たるアンデッド貴族の家畜なのですから。
「悲しくなんてありませんよ? だって私の家から二人も捧げられるなんてすごい事ですから。みんなからもいっぱい褒められて、私とても嬉しかったんです。でも……」
しかしまだピクシィは子供です。この国ではそれが当たり前の事でも、悲しい思いをしてしまうのは無理からぬ事でしょう。
一人誰も居ない家に帰ると両親との思い出が甦って堪らなくなる……それでもしかしたらわざわざ遠い他の領地の孤児院へと来たのかもしれません。
「でもちょっと……寂しくて……寂しくて……」
「ピクシィ」
バンビーナはピクシィを抱きしめました。ピクシィの鼻腔に防腐剤の臭いが入ってきます。体は冷たく心臓の音も聞こえません。
「大丈夫だよ。ここに居ればもう誰も居なくなったりしないから。大丈夫だよ」
けれど温かさが伝わるのです。バンビーナの心の温かさが。
「お嬢……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁあん」
ピクシィはヴィクター領に来て初めて涙を見せたのでした。
「ふんふんふ~ん♪ 今日もまっちにお買い物~♪」
ある日、ピクシィが一人で町へ買い物に出かけていました。すると……。
「お嬢ちゃん領主様のメイドかい?」
フードを目深に被ったお婆さんがピクシィに話しかけてきました。お婆さんは杖をつきながらこう言うのです。
「はいっ、そうですよー」
「あぁ、それは良かった。実は領主様に献上したい品があるんだけど、量が多くてねぇ。ちょっと手伝ってもらえないかい?」
「う~んと……」
ピクシィは考えます。お婆さんの頼みなら聞いてあげたいし博士へのプレゼントなら持って帰ればみんな喜ぶかもしれません。
博士に貰った懐中時計を見ると時刻は夜の6時。少し寄り道をしてもいつもの時間には間に合います。
「はいっ、良いですよー。どんな物なんですかぁ?」
「ありがとうお嬢ちゃん。私の庭で取れたブドウなんだけどね――」
そう言ってピクシィはお婆さんの後を付いて街の外へと歩いて行ってしまいました。果たしてこの後どうなるのでしょうか……。
「ピクシィ遅いなぁ」
「うむ遅い。どこぞで野シ○ンか野オ○ニーでもしとるのかの」
「そんな訳ないでしょ!」
珍しく怒るバンビーナですが、ピクシィの事が心配でなりません。
「私ちょっと見てきます。博士は待ってて下さい。お腹が空いたらパンがテーブルにありますから」
「まてっ! バンビーナ!」
居ても立ってもいられないバンビーナが席を立つと博士がいつに無くシリアスな顔で止めるのです。どうした事でしょう、何か大切な事でしょうか……。
「オカズがない。オカズを置いて行け、性的な意味で――」
ゴ ス ッ !
「冗談じゃのに……」
屋敷を出てかけて行くバンビーナの背を見送りつつ、博士はたんこぶの出来た頭を擦るのでした。
「よく来たねバンビーナ! こないだの借り、返しに来たよ!」
「ローザさん! また貴女ですか!?」
所変わってまたまた場所は森の中。ローザが残しておいた手がかりを伝ってバンビーナはピクシィを助けに来ていました。
そうです。先程のピクシィを森へと誘ったお婆さんは野良貴族ローザの変装だったのです。
「またって何だい! こいつが目に入らないのかねぇ?」
「ピクシィ!」
「ヒ~~~ンすいませんお嬢様ぁ~」
そこには両手を縛られ転がされているピクシィの姿がありました。彼女は人質と言うわけです。
「卑怯ですよ! ピクシィを放して下さい!」
「良い子ちゃんのお前には一番効く手だろう? こいつを放して欲しくば……言いたい事はわかるね?」
「くっ……」
人質作戦。古典的ですが心優しいバンビーナには有効だったようです。こうなっては手が出せないバンビーナ。どうするバンビーナ。負けるなバンビーナ。
「そうそう、大人しくしてるんだよぉ……そぉ~~~らっ!」
ザ シ ュ !
「くあぁ!」
「お嬢様ーーー!」
しかし現実は非情です。ローザはこれまでのバンビーナとの戦いで彼女が生半可な攻撃では止められない事を知っています。
ローザは自慢のバスターソードでまずバンビーナの右腕を切り落としました。少女の右肘から先がボトリと地面に落ちます。
「アハハハッ! バカな娘だねぇ」
それを見てローザは喜びます。正攻法じゃ敵わないバンビーナを今、一方的にいたぶれるチャンスなのですから。彼女のサディスティックな一面がくすぐられます。
「止めて下さい! お嬢様を傷つけないで下さい!」
「嫌なこった! これまでやられた恨み、こんなもんじゃないよ!!」
「お嬢様ぁあああああ!!」
ピクシィの懇願も虚しくバンビーナは続けて右足、左足と切断されてしまいました。これでもう自由に動き回る事も出来ません。
(私のせいだ。私のせいでお嬢様が……お嬢様が……)
それを見てピクシィが両親の連れて行かれた日の事を思い出します。このままではまた居なくなってしまう。また一人になってしまう。
想いが止められなくなった時、ピクシィの足は自然と動いていたのです。
「もう止めてぇー!」
ザ ク ッ !
次の瞬間、バンビーナの左手を切り落とそうと振り下ろされたローザの刃がピクシィの背中を切り裂きました。
「ピ……ピクシィィィィイ!」
バンビーナの横に倒れ伏すピクシィ。血はピクシィの小さい体を包む小さい服をみるみる赤く染めて行きます。
「お、お嬢様……私に構わず……戦って下さい……」
「そんな、私はあなたを守りたかったのに……そんな」
かろうじて息のあるピクシィですが背中の傷が致命傷なのは誰の目にも明らかです。このまま死を待つしかない少女に、バンビーナは何もしてやれません。
「生者の私なんかの為に……ありが……と」
ピクシィが息を引きとりました。生命が失われた事がバンビーナにもハッキリと感じ取れます。今、ピクシィは死んだのです。
「ピクシィ? ピクシィ! 目を開けてピクシィ! ピクシィっ!! ピクシィーーーー!!!!」
叫ぶバンビーナを見下ろしながら、ローザがピクシィの死体にツバを吐きかけました。
「ちっ、邪魔しやがって。けどまぁ、道具としては充分役に立ったかねぇ」
「あなた最低だわ……」
バンビーナの残った左手から皮を破り金属製のシャフトが生えます。それこそが彼女の唯一の武器。ヴィクター博士の作った精霊兵器なのです。
「その体で一体何ができるー!」
ローザが最後のとどめとばかりバスターソードを振り下ろそうとしたその刹那、バンビーナは拳を天に向けバスターソードを迎え撃ったのです。
「絶対に許さない! リミッター解除――アンデット~~~エンドーーー!!!!」
「バカな!? バスターソードより――ギャーーーーーーー!」
バンビーナの左手から放たれた雷を纏った竜巻がローザの体を飲み込みます。風に裂かれと雷に焼かれ、はぐれスラヴィアンローザは今度こそ、肉体と魂を消滅させたのでした。
「博士……」
「なんじゃ」
博士の屋敷でバンビーナは修復を受けていました。
冷たい台の上に横たわり、手足を動かせない状態で顔だけ博士の方を向き言うのです。
「ピクシイが可哀想です……私、大丈夫だよなんて言って、あの娘を守ってあげられなかった」
「……」
僅かな間だったがピクシィを妹のように思い、その境遇に感情移入していたバンビーナは己の無力さを呪います。
自分がもっと早くローザを倒していれば、自分が一緒に買い物に行ってあげていれば、自分がもっと強ければピクシィは……そんな考えが止まりません。
「泣いていいんじゃよ。心が痛い時は泣いても」
「う……わぁぁぁぁぁぁぁぁ うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
両親を失い寂しがっていた少女の笑顔が脳裏に浮かびます。彼女は幸せだったのでしょうか?救われたのでしょうか?今となっては誰にも分かりません。
「悲しいな……バンビーナよ」
「ぁあああああああああん わぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
子供のように泣くバンビーナの声は朝まで屋敷の外に響いていたそうです。
― 終わり ―
- 語り口調から絵本風で話が進む。最初にローザがスラヴィアンになり記憶を失っていることとピクシイがスラヴィアンとして再生しなかったことがつながるようでスラヴィアの業の深さを感じました -- (名無しさん) 2015-01-05 21:53:42
- バンビーナはノームなんだな。ロックマンみたいに装備を換装とかするんだろうか。野良貴族笑った落ちぶれすぎ -- (名無しさん) 2015-01-05 23:07:27
- ヴィクター領はスラヴィアンの中で良くも悪くも目立っているんだなと思った。純真なバンビーナはこの悲しみを乗り越えることができるんだろうか -- (名無しさん) 2015-01-06 22:54:41
- 前の話でもそうだったけどヴィクターとバンビーナたちとその他のスラヴィアンの考え方がガラリと違うのが目立つね。それもスラヴィアというプレイの一つって思える -- (名無しさん) 2015-01-13 18:09:44
最終更新:2015年01月07日 22:08