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【ドニー、冬の朝】

「姐さん!今日の分持ってきやした!」
「女将さん!在庫の酒樽運んでおきましたよ!」
「大奥様、今朝一番の便で良い野菜がおりてきましたので確保しておきました」
まだ外は暗く陽もわずかに水平を白ませるだけの早朝。 ドニー・ドニーの朝は早い。
ドニー・ドニーの都島、その港に構える料亭酒場“姫琴”の料理のためにオーク達は運ぶ、食材の数々。
「お前なんだよ大奥様って」
「大兄貴の奥様だから大奥様だろう」
野菜箱を積み置いた眼鏡オークが得意気に返すがそれはそれで何かがおかしい。
「朝早くからご苦労様です。寒くはなかったですか?」
店のカウンターと厨房は一つになっており、その中から和服に腕まくりの日本人女性、この店の女将である凪御浜 千羽鶴(なみはま ちはる)。
盆から振舞われた熱酒は寒帯のドニーで育つ数少ない作物であるヤマカブと魚骨から抽出される腐菌から作られた根酒。とてもあったまる。
暗さも相まってか吹く風はとても冷たい。
ドニーのある北海の風精霊は気性が荒く乱暴に北果てより冷気を運ぶと言われたり、もしくは芸術家肌で他の精霊にも雪結晶を見せようと運んでいるとも言われているが
その実、確かなことは分かってはいない。
只、ドニーの朝に粉雪を散らして飛ぶ白い海鳥を見かけると決まって寒い朝になるという。 今の空、海の向こうへ飛んでいく姿があった。

「今日の分はこれで最後だ。 お前達、厨房まで運んだら二人は船に戻って見回りの準備をしておくように。一人は残って私と一緒に仕込みを手伝ってくれ」
最後にやってきた恰幅の良いオーク。羽根付きの海賊帽が一目で彼がバルバンクールだと分からせる。
粗暴粗野の者が多いと言われるドニーのオークの中でも紳士の鏡であり町の治安を守る男。 ドニーの長、ラウダフルの海賊団の中でも一二と言われる剣技の持ち主。
「貴方もご苦労様。 ドニーも日本と同じでこの時季は寒くなるのは相変わらずね」
「住める者を選ぶ土地だが住んでみれば悪くはない。 寒いと精霊に言っても空に願いを飛ばすようなものだ。変わろうはずもない」
「私、雪は好きよ。 今日も降りそう」
差し出された酒を飲むバルバンクールを見ながら言った千羽鶴の一言に、帽子より覗く頬が少し赤く染まった。
「そう言えばこれを預かってきた」
何かを取り繕うようにいそいそと背に担いだ包みを下ろし千羽鶴に渡す。 それは三尺はあろう長いもの。
「わぁ、とても綺麗になって。やっぱりドワーフさん達はものつくりが上手ね」

ドニー海域で獲れる魚は大型のものが多く、必然的にそれを捌くために調理器具も大型のものが多い。
しかし凡そ平均的な日本人女性の体躯である千羽鶴にはオーガやオーク、鬼人の扱う調理器具は大きすぎて重過ぎるのである。
料亭酒場を始めた頃は他の背丈の近い種族から買った器具でやりくりしてはいたが、こと店が流行りだしてからは捌く食材の量も増えたためにまかない切れなくなっていた。
仕方ないとオークが使う斬魚包丁を買ったものの、大きさは舞踊で扱う道具の延長として収まるものの
重さが扱えるものではなかった。
そんな折に、思案しているところを店の客が一人名乗り出た。
「少し、その包丁を立ててみてはもらえぬだろうか」
何を?と思いつつもオークが二人で包丁の柄を持ち、直立させたその瞬 ───
無音で抜かれ振り切られた刀一閃が、何と見事に包丁を縦に裂いたのである。
「半分であればどうだろうか?」
「これならもう少し研いでみれば何とかなりそうです。ありがとうございます。 しかし鮮やかな刀捌き、名の通った剣士さまでしょうか?」
千羽鶴の問いに着流しの首の長い竜人は、咥えていた串を摘まんで一呼吸おく。
「只の流れ人でさぁ。 名は…フーさんとでも呼んでくだせぇ」
フーと名乗った竜人はその後、お礼にと出された根酒の徳利を肩に提げ、鬼人海賊団に用があると言って店を後にした。
半になった包丁はドワーフ造船技師団の手で研がれ調整された後、今でも千羽鶴が振るう大柳刃包丁に生まれ変わったのであった。

まだ開店前ではあるが、刃がしなり舞う厨房は活気付く。
海の向こうで鯨の鳴き声が響けばいよいよ陽の出。島々の山陰や森の中から一斉に鳥が羽ばたいていく。
肌を刺す寒さの中にも陽の温もりを運ぶ風精霊もおり、たまに吹く温風を受けた者は頬を緩ませる。
季節柄、寒さの下り坂にあるドニー近海は場所によっては凍結し船など動かせないこともあるのだが、
ドニー都島の港は過去に水精霊の願いを受けて海賊団達が一致団結し、精霊も海獣も船すらも食らい飲み込む大船喰を退治したことから
この港だけはどんなに寒くなっても水精霊達の加護により、凍らず船が行き交うことができるのである。
今日も朝から多くやってくるのは青果を運ぶ船。
ドニーで多く作るのが困難である青果は食卓の上に乗ることは少なかったのだが、大ゲート解放から後に起こったバランスの良い食事ブームにより
その需要が高まったのである。

「そろそろ看板を出す頃かしら」
港にずらり並ぶ海賊の船から時を告げる金鶏の鳴き声が響く。
ゴブリン海賊団“栄光の杯”は時に重きをおくことから、彼らの船には時を報せる動物が多く乗っており
陽の出の後、人々の営みが活発になる時の合図として重宝されているのである。
「よし、仕込みはこんなものか。 私は団に出るが…昼には戻る」
「忙しいのでしたら無理に帰ってこなくてもいいんですよ?」
「う、む」
「ふふっ、冗談ですよ」
帽子を一段と深く被るバルバンクールが戸を開けると、入れ替わりでオークが慌てて入ってきた。
「すいやせん!店中交替でやんす! って兄貴、今から団ですかい? んん?顔が赤いでやすが風邪ですかい?」
無言で出て行くバルバンクール。
開いた戸の向こうでは、輝く朝日に照らされた白帆と波が眩しく揺らめいていた。



ドニーの一日の風景を…朝だけで終わっちゃいましたすいませんすいません

  • 過去に船喰らいって退治されたことがあったんだな、でも今もラウダフルの仇敵として存在してるし、複数いるのか、一体倒すと別の奴がリスポーンするのか -- (名無しさん) 2015-01-11 09:20:54
  • 船食いも種類がいるんじゃない?それこそ強力な白鯨みたいなのとか。寒いドニーだけど温かい話だオークイイヤツオトモダチ -- (名無しさん) 2015-01-11 09:45:43
  • 北陸の港町にあるカタギになったヤクザの店みたいなほっこりする -- (名無しさん) 2015-01-13 17:58:47
  • 寒いけどあったかい。気のいいオークは和む -- (名無しさん) 2015-01-23 20:41:55
  • 考えたら異世界での人間って多くの種族の一つであっていろんな種族の中で結婚してたり生活したりしててもおかしくないんだよな -- (名無しさん) 2015-11-06 22:28:28
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最終更新:2015年01月11日 02:42