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【約束のゴング】

 地球と異世界が繋がり時は進んで西暦も2000年を跨ぎ過ぎた頃からやっとこさ人間も異種族を理解し始めた。
 隣人?友人?商売相手?いやいや異種族亜人はカネになるカネを呼び込む客引き大黒白かアイドルか、兎にも角にも異世界が絡むと何でも売れる。
 「あくまで交流」を前面に進んだ日本と違い、「人種のるつぼ」のアメリカは「種族のるつぼ」となったアメリカは何だどうってことないお前もブラザーと「ビジネスライク」で付き合いが進んでいった。
 そんなアメリカでHOTな異種族産業の一つである【異種族総合格闘技(パワーリングアルティメット)】は日夜激しい闘いと新たなスターを輩出している。


「レディス&ジェントルメン!新年を間近に控える今宵も、パワーリングアルティメットにようこそ!
横浜アリーナ特設会場からお伝えするのは毎度お馴染み、“青い山脈(ブルーマウンテン)”こと鶏人アナウンサーのクライ=マックスがお送りします!」
スピーカーを震わせて口上があがると照らし出される砂地。 周囲に堆く聳える観客席から歓声が降り注ぐ。
「会場は既に暖気を終えている! そーれぇーでぇーわぁー!本日のメインイベントぉっ!!」
ドシャンッ! 天井から降ってきた八角形の網壁は凡そ面積70、80平方メトルを囲む完全決着のための陣幕。高さは5メトル。
「日本から共にアルティメット入りした二人。しかし、その道は直ぐに分かたれた!
一人は現ポイント一位にまで一気に上り詰めた暫定チャンピオン!研ぎ澄まされた彼の力は“速さ”!正にリングに走る閃光!
迂闊に手を出せば全てがカウンターで返される!手を拱いていれば咽を千切られる!“迅雷(ライトニング)”!“十字砲火(クロスブレッド)”!
185cm 90kg 狼人… スターク=ルセイドぉーーっ! 只今ハリウッドにて俳優もこなすハンサムマンだ!」
青コーナの向こう、入場口が眩いばかりに照らされると七色のレーザーが幾重にも交錯する。
やがてタオルを被り顔を隠した狼人が現れる。
突き出す口は閉じていても興奮の息が何度も漏れる。 銀と青に輝く獣毛、薄い場所ははっきりと締まった強健なる筋肉が流動する。
規定により丸く研がれた手足の爪。しかしその一歩一歩は力強く決して獣性が失われていないと感じさせる。
「続いてもう一人。デビューから勝ち無し負けのみ挙句に失踪!しかし彼は戻ってきた!フロム異世界修行!
再びリングに登った彼はまるで別人。戦闘本能剥き出しのスタイルは一体何を学んできたというのか!
“戦う賢人(ボリノック)”の足を砕き、“変幻の技師(アメル・ゲコル)”の腕を捻じ切ってリベンジを果たしてからは怒涛の快進撃!
フィールド全てを駆使し躊躇いのない全力の攻撃を叩き込む!“縦横無尽(アップサイドダウン)”!“悪童(バッドボウイ)”!
175cm 75kg 人間… 武力一(たけのりき はじめ)ぇーーっ! 今日も背中のタトゥーが羽ばたくぞ!」
赤コーナーがスモークで包まれる。それを突き破り男が走る。走る。
相手の狼人は既に金網の中で待ち構えていた。

「今日は解説席に二人の出身校である十津那学園より教師の火乃竜也さんと菊池一文字さんをお迎えしています。
菊池さんは多種族を受け持つ体育教師、火乃さんは選手二人が所属していた異種族格闘同好会の顧問ですね」
「紹介に預かりました火乃です。 学園から正式に認められていないところがポイントですね。
そもそもの始まりは問題を起こした素行不良生徒の更生を目的とした補習授業として始まったもので…
その内、補習参加したいがために故意に不良行為を起こす生徒が出始めましてね。とりあえず自由参加枠を設け“異種族格闘同好会”としたのです」
「火乃先生は補習が始まって以来未だに無敗、無敵の強さでして…生徒の間では同好会は別名“懲罰房”とも呼ばれてますな」

一切の武器使用を禁ずるため、入念なボディチェックを受けるリング上の二人。
「アルティメット参加後、紆余曲折はありましたものの二人は注目の新星二つ!
まだ気の合うセコンドが見つからない二人は互いにセコンドに立つ程の間柄。
その二人が遂に戦うことになったのですが…教師という立場から見て二人はどういう生徒だったのでしょうか?」
「目を合わせれば言葉よりも先に拳を出し合う… 補習でも同好会でもしょっちゅう組み手をしていましたね」
「体育の授業でも常に張り合ってしましたな! 授業無視で暴走することも多くて大変でしたなぁ」
「二人はライバル同士だったと?」
「そうですね。お互いちょっと複雑な家庭環境ということもあって意識し合っていたところから意地の張り合いになったといいましょうか。
卒業までずっとその関係は続いていましたが、二人とも楽しそうに見えてましたね」
「どちらも家から離れての寮住まいだったので学園に遅くまで残ってましたなぁ。
一見すると血気盛んな武力君が動で物静かなスターク君が静と対極に思えるのですが、一度拳を付き合わせればどちらも激しい気性が出ていましたな」

「さぁ!チェックが終わりコーナーに戻った二人。気力は十分!熱い視線をぶつけ合います!」
「あの刺青…」
「火乃さん、武力選手のタトゥーに何か?」
「背中から急所の位置を示す刺青、海で作業させる奴隷に対し上方から何時でも命を奪えるのだぞという。
ミズハミシマ近海で暴れていた海賊“魚狼灯篭”が使う奴隷紋に酷似していまして」
「えぇと、資料によると武力選手が新天地にて師事していた人物の背中にあったものをリデザインしたタトゥーということですが。
本人曰く「まだ半端者なのでドラゴンも片翼くらいが背負うのに丁度良い」とのこと」
「これまでの試合を掻い摘んで見せてもらいましたが、二人とも己の才をよく理解しよく伸ばしていますな。
この試合で決着がつくのかと思うと感慨深いものがありますなぁ」

「スター、待たせたな」
「ハジメ、戻ってくるのは確信していた。それまでの修練と充実した日々だった」
リング中央へと歩み寄る二人の表情には笑顔。これから戦う者同士というのに。
「そうだ、新天地の修行の途中でニシューネン市に寄った時に星教会に行ったんだが…あそこで育てば逞しくなるわな」
「ネア大星堂、星の園、懐かしいな。大シスター様には会ったのか?」
「あぁ、あの鉄腕狗人の婆さんか。スターの写真を見せたら大層喜んでたぜ。 今度一度帰ってみろよ」
「フ、そう言えば地球に留学してから一度も帰っていなかった。 考えておく」
上半身から湯気が立つ。 激しく交錯する照明が飛び散る汗を煌かせる。
「両者、準備良いか?レディ?レディ?」
「「よし」」
人間と獣の拳が突き合わされた。
「さぁ!いよいよゴングです!」
「見せてもらいましょう、二人の成果を」
「これからも続くでしょう人生の大一幕。ですな」

  カァァアアアァァンンッッ

突き合わされた拳が互いの送る圧力で弾け合うと間合いが三歩広がる。
武力は、右に揺らめかせた上体から一気に左への反復横跳びでロープに足をかけ金網へと。
体が落下する重力に抗いそのまま足指の力で駿足駆ける。
「出ましたァ!セオリーの通じない野獣の如き三次元闘法!上下左右から攻めてくるぞォ!」
空を突き腕を三度振り抜き構えを取るスタークが体を少し沈めひと呼吸。
「おや?どうしたというのか?いつもは閃光の如き跳躍で相手をかわし一撃を繰り出すのが真っ向勝負の構えだ!?
真っ向勝負の構えだァーーーッ!!」
金網の頂上から速度と回転を乗せた踵が直下してくるのに対し、半歩の歩みで慣性を生み出した正拳が突き上げられる。
肉を突き抜け骨を打つ衝撃が炸裂音。 弾ける汗が二人の笑顔を通り過ぎた。


 夕暮れの土手、ぼろぼろになりながらも倒れることなく背中を合わせ立つ、それまで何の面識も無かった二人
 両親に捨てられ縁者に見放され学園に送られた少年は、世の何もかもに苛立ち壊してやりたいと荒れていた
 争いで家族を失い教会に拾われ育てられた少年は、住む世界が変わろうともどんな相手でも己の正義を貫いた
 どこか通じるものを感じた二人は指し示したように約束する
  いつか最高の舞台で最高の戦いを、お前と 


  • 解説笑った。ちゃんと最後まで勝負する話も読みたい -- (名無しさん) 2015-04-07 00:49:09
  • 肉体だけで人間が異種族と渡り合えるのか?とか思ったけどスポーツ上なら可能かも知れない -- (名無しさん) 2015-04-07 06:00:46
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最終更新:2015年04月05日 20:44