どことは知れぬドニードニーのある島の里。
今年は格段と暖かな風が吹く。
東で火山島が爆発したから火精霊が大騒ぎしたから?風精霊もそれに混ざったから?
理由はどうあれ、何十年に一度あるかないかの寒さのカーテンを開いた温もりは
季節を飛び越えて雪の毛布の下から草花を芽吹かせていた。
「うわぁ!染井吉野!…っぽい? まさか異世界のさっむいドニーで満開の桜を見れるなんて思わんかったわー」
落ち着いた簡素な里の風景に一つ映える太く高い花満開の樹。
その下で陽気にあてられ上着を一枚脱ぐ、今は身分あやふやな元女学生の山戸森。その隣には眼鏡をかけた小人ほどの少年、風精霊の風坊が浮いている。
「お待たせしたのぅ。そちらから出向いてくるとは珍しいが、何用じゃ?」
寡黙で大柄も大柄な、両の角折れし黒鬼人の肩にちょこんと乗る。見た目には幼い少女だが、その額からは形の違う二対の立派な角が聳え立つ、ハクテン。
「いやーほんまはもっと早うにお礼に来るつもりやったんですけども、あの宝島ツアーとか山登りツアーとかで便宜はこうてもろたんで。
地元に連絡つけるまで一月で、その返信待ちにもう一月、おまけにこちらの承諾届けるのに一月。んでブツが届くまでに二月もかかってまいまして」
「それは大変じゃのう」
「じゃじゃ~ん!そしてこれがお礼の品です! 灘酒造の名酒“鬼泣かせ”!!」
何重にも包装された見事な桐箱から取り出した大型種族サイズの三升瓶。 箱の封を解いたと同時に噴出した芳醇な香り。
「のんべぇのハクテン様のために地元の知り合いに頼んでめっちゃ出来のええのを送ってもろたんですわ!」
「お、おぉぉ…」
闇の中で光を求める亡者の如く虚ろな目で涎を垂らしながら誘われるように酒瓶へと手を伸ばすハクテン。
「傍から見ると完全なアル中のガキんちょやな。どないなっとんねんって」
「ハクテン様!御気を確かに!」
「いやーそれにしても見事な桜ですやん? これってもう“花見”するしかありませんやん?」
「ん?何じゃ?この樹が咲いたら宴をするのかや? ずっと長い間、蕾まではいくが咲くことはなかったんじゃが…桜というのかえ」
「え?里の木なのに知らへんかったんです?」
「う~む。この樹はかな~り昔に鬼供養の旅で世界を回っている坊主が植えていったものでのぅ。
北界の寒さに合わなんだか、咲いたことはなかったんじゃ。 大きくはなったんじゃがの」
「えぇー?昔に桜を持って来たって何処の誰さんなんです?」
「うぅむ。確か“もたろう”とか変な名前じゃったか… 思えばぬしら人間によぅ似ておったわ」
「ハクテン様、失礼ながら“モータル=サン”ではないかと」
「おぉうそうじゃったそう名乗っておったかのぅ」
「何やえらい物騒な名前の坊主もおったもんやな。主題歌で延々キャラ名を叫ぶみたいな」
「何だ?急に風の報せがやってきて飛んできてみれば… 酒盛りの準備とはな」
「ボス、帰りますか?」「ネモチー、ここあったかい」
里の入り口まで急行大鷲便でやってきた海賊
ゴブリンのネモチーとその部下であるナイフ使いの女ダークエルフとグラップラーの白虎人筋肉女性。
「今年も地球からやってくる商社の相手に忙しい時期だが…一流は忙しい中でこそ余暇を作り明日への英気を養うものだ。
今日はゆっくりと楽しませてもらうとするか」
ネモチーが片手を揚げるのを合図に、次々と道具だ素材だ何だとが運び込まれていく。
「ネモチーさん、運んで下さりありがとうございます。 フタバ亭二号店、宴の準備に取り掛からせてもらいます」
「フ、気にするな“新星(キャプテン)”。 他でもない白鬼婆からの誘いだ、払いは多目に済ませてある。
人員でも素材でも道具でも好きなだけ使うといい」
キャプテンと呼ばれた
ノームが深々と二度頭を下げる。 ドニーのデジマに居を構える有名酒場“フタバ亭二号店”のスーパーアドバイザー、ラニその人である。
「ほぉ~、見事なモンだ。 まさか異世界で桜が拝めるたぁね」
ついさっき人でも刺して来たかのような刃物の如き空気を纏う、フタバ亭の従業員でも珍しい部類の人間男性。ヤクザではない。
「ではでは早速調理の準備に取り掛かるにゃ」
吹く風にマフラーをたなびかせる猫人メモがヤクザの太股を押して桜の樹の横に設立されつつある厨房へと向かう。
「ラニさん。材料も運べばいいですか?」
両肩両脇にありったけの荷物を持った
オーガウエイトレスのホンカウがどしんどしんとラニと一緒に厨房へと歩いていく。
「ボスは甘いっすよ。何でウチから人まで出してやるんですか」「ネモチー、オレも手伝ってくる」
「おう、働け働け。 いいか?恩ってのは心ってのは買える時に買う。時価も何もないそれにはいくらでも金を使う。
後から利があるのは分かっているからな」
「遅れまして申し訳御座いません。本日は御呼びいただき誠にありがとうございます」
流れるような所作で見目麗しい礼をネモチーにおくるのは、ドニー港で人気の居酒屋“姫琴”の人間女将、千羽鶴である。
「おう、わざわざ済まないな。 今日は女将の腕を存分に揮って欲しい上客でね、まぁ一つ頼む」
後に調理器具などを持った数名の海賊
オークとその先頭で長い包丁を大事そうに抱える海賊帽を深々とかぶるダンディなオーク、バルバンクールがやってくる。
「伊達男よぉ…すっかり尻に敷かれてるじゃないか? ラウダフルの懐刀も船を降りれば可愛いもんだな」
「参ったな…あまり茶化さんで下さいよネモチーさん」
次々と宴の準備が整っていく。
陽は頂上へと昇り、北国であることを忘れさせるような陽気が降り注ぐ。
「さぁさぁ皆さん!杯は手に持ちましたやろかー?宴の始まりやでー! それでは…かんぱぁ~~いっ!」
風精霊の力で拡声された音頭が合図に杯が打ち合う音が響き渡る。
「どんどん作りますのでどんどん運んじゃって下さい!」
足踏み台に乗りながら料理を盛り付けるラニが声をあげる。
厨房ではめまぐるしく位置を変えてヤクザと猫人と何故かいつの間にかいる狗侍が料理をこさえていく。
「荒野の蜥蜴鶏の丸焼き、ヒル肉の野菜炒め、
オルニト豆パンの甘辛焼きです」
見事なバランスと配置で一度に大量の料理を運び、次々とテーブルへと運んでいくオーガ。
里の者や訪れていた者、呼ばれてきた者など皆一様に酒と料理を満喫してその時、
どしーん どしーん どしーん
ほろ酔いになりかけていたのを覚ます風景。木々を越える巨大な水玉がぼよんだぷんと迫ってきたのだ。
「あの、すみません。ここって白鬼様の隠れ里でしょうか?」
水玉から駆け下りてきた六脚の水馬に跨る人間の少女、姫代が見上げる山戸森に尋ねる。 声なくうんうんと頷く山戸森。
「あの、これ我が校の理事長からハクテン様へ春先の贈答品ということでお持ちしたんですが」
水馬から下りた姫代が鞍に提げていたクーラーボックスを差し出す。 中には銀色眩しい生ビールがぎっしり詰っている。
「お、おぉぉ…」
「ハクテン様、御気を確かに。 口の周りが泡だらけで御座います」
珍しい苦味酒に思わず光悦を浮かべるハクテン。
「ところで…このでっかい水玉はなんなん?」
「あぁこれですか?
ミズハミシマからドニーに向かう海上で変な獣人に出会いまして。ドニーに向かっていると行ったら一緒に行くと言って…
道中、水から水へ転移したり陸地も水玉で乾かず進んだりととても助かったんですけど…」
その時、水玉の頂上が光ったかと思えば目の前から水膜を破って一人の着物を羽織る犬人女性が現れた。
「うむ。珍しい里に行くというからついて来たが綺麗な花がさいている!良きかな!」
「何でも大延国の灰河伯の次代で蒼露公主という方なんですけど。 …何だかよく分かりません」
「見聞を広めるために世界を旅せよと父上に言われたのである。 苦しゅうない、土産も持って来てる!受け取るがよいぞ!」
背伸びした語り口調でえっへんと豊満な胸を張ると、水玉から珍魚幻魚が飛び出し跳ねて厨房へと踊り落ちる。
「まぁ!これは活きのとっても良い。住んでる水ごと運んできたかのよう。 さばき甲斐がありますわ」
魚群から一際大きな魚を取り出すと、腕より長い柳葉包丁が一閃。音もなく腹が割かれ内臓が取り出される。
次に寄生虫取りの香染葉で魚肉を二度三度撫でると、持ち替えた出刃包丁であっという間に切り分ける。
「では最後に…」
「ほう、“貴腐壷”か。 骨董市場でも滅多に見かけねぇもんだが、どうするんだ?」
皆が注目する前で、壷にそっと手を差し入れた千羽鶴がゆっくりと桃色の塊を持ち上げ抜く。
「即席の桜花漬けで御座います」
新鮮な魚肉の上に程よく塩漬けされた桜の花びらが舞い散ると、なんとも清々しい桜とはまた趣きの違う香りが漂い渡る。
「「お、おぉぉ…」」
「ハクテン様!御気を確かに」「こら虎女!がっつくんじゃないよ!」
黒鬼とダークエルフの喝に、はっと我にかえるハクテンと白虎人。
夜を迎えて尚続く宴。 騒ぎで集まった火精霊が
ケンタウロスの踊り子と一緒に舞えば辺り一面に明かりを広げる。
酔いながらも艶美で激しいケンタウロスの踊りは、どんどん火勢を強めていく。
そして「やりすぎよ!姉さん!」と怒られ、火精霊共々しゅんとする。
少し桜から離れた席。皆の喧騒を眺めながら贈答の酒をちびりちびりと飲むハクテン。
その隣にはただならぬ気配を発する姿の似た三人の娘が一緒に酒を飲んでいる。
「酔っていればまともになるとは、難儀じゃのぅ。 酔いが覚める前に空へと帰ってくれれば良いが」
顔を赤らめた三姉妹は三者同じく口を押さえて微笑する。 何とも言えぬ魔性を放つ。
長い長い人生は、怠惰が染み出し感情を塗り潰していく。
一人では抗うことは難しい。 だから誰かを求めるのだろうか。
楽しければそれでよいというわけでもなかろうが、楽しいことは何より。
あと何度、この様な心交わすことができようか。
見上げた空は何処までも高く、今を見下ろしている。
「それにしてもこの“あさひ”とクラーケンのゲソ焼きは合うのぅ」
一人酒と肴をつつくハクテンを見つけたのか、酔った人人が歩み寄っていく。
スレに貼られた花見絵から思わず想像
色々な作品からシェアさせてもらいました
気になる名前がありましたら是非wiki検索を
- まって!サラッとヤバいのが紛れ込んでるよ!? -- (名無しさん) 2015-04-08 09:43:24
- うーん楽しそうな花見の宴会。全然隠れてない里や我を忘れるハクテン様にわむ -- (名無しさん) 2015-04-08 21:19:41
- セリフと語感のテンポがいいのと細かい笑いを流れの中にさらっと入れてくるのが面白かった -- (名無しさん) 2015-04-09 20:46:17
最終更新:2015年04月08日 05:26