【ネビオラvsラニ 給仕の戦い】

「この組み合わせ、この試合…私としてはモルテ様の加護がしっかりと働いてくれるのを願うばかりです」
審議侯キエムの静かなアナウンスで観客は歓声をあげることなく舞台に注目する。
同じくらいの背丈のノームの子供、鬼人の子供は二人とも給仕服。
その向かいに立つ白衣の蜘蛛人は大人大で憮然としている。
 二回戦 第三試合 ネビオラ vs ラニ(&シィ)

 ── 試合前
「ラニ!本気なのか?! ボクと二人だけで戦うって!」
「うん」
「何考えてんだよぉ!相手は一回戦でとんでもない蟲とかをぶしゃーとかばしゃーとか出していた蜘蛛女なんだぞ?!
マスターかブレンダさんを呼んだ方が良いに決まっているじゃないか!」
舞台へ向かう選手通路(南)でノームの少女給仕に詰め寄るのは鬼人少女給仕シィ。
 二回戦はシィちゃんと二人で乗り切る
そう言って試合前に天印奥義“呼び鈴(ロイヤルホスト)”を使いシィを呼び出したラニであったが、相手が相手なだけにシィは顔を真っ赤にする。
「私は優勝するつもり。そのためにはここでマスターとブレンダさんを呼ぶわけにはいかないの」
「~ッ?!優勝? じゃあ尚更ここは勝たないと…!」
「この大会で私が神の加護により使える唯一の奥義“呼び鈴”はフタバ亭の皆を呼び出して一緒に戦うもの。
でも一回戦が終わって気が付いたの。この奥義は一度呼んだ人を再度呼ぶのに間を空けなくちゃダメだってことに」
「え?じゃあ今はマスターもブレンダさんも…」
「呼べるよ」
「じゃあ呼んだらいいじゃん!」
ラニの予想外の即答にぷんぷんと短い頭髪を逆立てて憤慨するシィ。
「呼べるようになったのはついさっきなの。 …二回戦からは試合数も減ってすぐに準決勝、決勝とやってくるかも知れないし。
この試合で二人のどちらかを呼んだとしたら、あとの試合ではもう呼べない可能性が高いの」
ごくり。シィはつばを飲む。
「だから二人でやるってこと?」
「うん、そう。でも安心して、何も他の試合みたいに戦闘するつもりはないから。
シィちゃんにできることを精一杯してもらうように流れを…作るよ!」
前を進むラニが振り返りシィの手を握る。
試合を待ち侘びる歓声が聞こえてくる舞台への一直線を力強く進むラニ。
“優勝する”という本気の言葉に迷いを振り切られたシィがラニの後に続き進む。
「いっちょのせられてみますか!」


「うぇえぇ、やっぱり無理なんじゃない?すごく怖いよ蜘蛛の人」
「“藪医者”ネビオラって呼ばれて想像もできないようなことをやってあっちこっちに敵を作ったり恨みを買ったり、だってさ」
ラニが大会パンフレットを読んで説明する。
「おやおやァ?今度の相手は二人だけどちっこいじゃないか。
一回戦で蟲を使い切ってどうしようかと思ってたけど…これなら楽に勝てそうだねィ」
「…本当にそうでしょうか?」
「何ィ?」
「私は確かにちんちくりんで戦闘もからっきしですけど、シィちゃんはまだ子供ですが誇り高き戦闘種族鬼人。
私の勤めるフタバ亭でただの可愛い給仕として雇っているとでも思いますか? …シィちゃん!」
(おいラニ!いきなり無茶振りぃ!)
 しゅばばっ! しゅたたんっ!
シィはトレイを両手にありったけのスピードでそれっぽい動きと構えを取って見せた。いや、とってつけた。
「…」
「私の見たところでは貴女にはもう武器となる蟲は残っていないでしょう。 そして貴女自身は大して強くない!」
ビシィ!と小さな胸をそれるだけ反らし指先を突きつけたラニに対してやや苦い表情を見せるネビオラ。
「確かにそうかも知れないねィ。 でも私の武器が蟲だけだと思ったら大間違いだねィ。
直接打ち込まなきゃいけないけど、こういうのもあるんだねィ」
ネビオラがゆっくり水平に向けた甲殻の指先から一滴二滴と液体が零れ落ちると、床で数秒泡立った後に煙となり霧散する。
「私の中で作る毒は強力。神の加護があるとは言え、体内に直接作用した毒がどんな影響を与えるかは…楽しみじゃないかねィ?」
蟲人特有の複眼を歪ませ顔を切り裂く口を尖らせおぞましい笑みを浮かべる。
「そうですね!その“毒”を使いましょう! シィちゃん、テーブルメイキングを!」
そう言われたシィが両手を広げると何もない空間から一瞬で現れる円テーブルと白いクロス。
シィが慌ててクロスを伸ばすと次いで出てきたのは茶瓶とカップが三つ。
「この試合、“運勝負(ルーレット)”を提案します! 私達が用意する三杯のティーに毒を一杯にだけ入れます。
その三杯の中からネビオラさんに一杯を選んで飲んでもらい、もし毒の入ったものでなければネビオラさんの勝利、
もし毒が入っているものを選んだ場合は私達の勝利という一発勝負というのはどうでしょうか?!」
テーブルを左手で指し、右手でネビオラを力強く指し促すラニの表情は力強く、思わずシィも拳を握りこんでしまう。
「それでいいのかい?私の毒だから私に有利なんじゃないかねィ?」
「御心配なく。用意するのはフタバ亭メニュー“黒糖泡茶”。毒に色や匂いがあったとしても見事に掻き消してしまうでしょう」
シィが茶瓶に黒い粉と幾許かの茶葉を入れ、湯を注ぐと激しい気泡が湧き出す。
「面白い、やってやろうじゃないか!」

「どうやらお互いに試合方式が決まったようですね。 非戦闘での目利き勝負、一度の選杯により決します!」
ラニが出す小皿にネビオラが指先を下ろすと、無味無臭無色透明の液体が落ちる。
「では」
毒を受け取りテーブルに向かうラニを眺めるネビオラの笑みは更に悪魔的なものになっていた…



ラニが仕掛けたロシアンルーレッ茶。 果たして勝負の行方は? 後半に続く

  • ネビオラが何で先制攻撃しないのか疑問だったがまだ試合開始がコールされてなかったのかね -- (名無しさん) 2015-06-28 20:08:31
  • ルーレットを承諾したのが意外だけどネビオラは勝算アリっぽいか -- (名無しさん) 2015-06-28 21:18:51
  • ネビオラが素直なのと弱弱しいのが気になるな。最後まで笑ってそうなだけに -- (名無しさん) 2015-07-07 23:51:02
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最終更新:2015年08月23日 22:05