その昔、彼らは神ほど偉大な至尊の存在であった。
自分たちの力に絶対の自信を持っていたドラゴンたちは、自分たちが神すらも優越する存在だと傲慢に僭称した。
40億頭と言われたドラゴンの軍勢は、今の既知世界の2倍の領域に勢力圏を広げ、
そのままでは数百年以内にほとんど生物が暮らしていけなくなるまで、手当たり次第に食料を食らい尽くすほど膨れ上がった。
純白、三つ首のドラゴン、ピョートル大帝はこれを率い、神々と最後の決戦に挑んで敗れ去った。
それから8万年以上が過ぎた。
最後の決戦以後、異世界の各所にドラゴンたちは分散し、既知世界に残るものは数千頭を数えるまでになっていた。
中には未踏破地帯に侵入する者もいたが、当然、帰って来たものは誰もいない。
この危険極まりない未開の領域に侵入し、軍勢を率いて戦い続けること半世紀。
そんな比類なき戦歴を残す、伝説的な勇将がかつて存在した。
やや大きな翼、祖父に似た黒く長い角、漆黒の鱗に、鋭い顔つき、幅広く気品を備えた逆鱗。
中でも見たものを驚かせるのは、その目で、眼球の白い部分が黒く、瞳は血のように赤黒く濁っている。
暗い目のジョージ、あるいはブラインド・ジョージ。
シャーンイイ伯家、3代当主、盲目公ゲオルグことジョージ3世である。
「ぷわ~ん、ぷわん。ぷわ~ん(大河ドラマ○平記のイントロ)」
今から600年ほど前、盲目公は五つ首のジョージ、ジョージ2世の何十頭かの子供のひとりとして生まれた。
かつてはドラゴンが成年に達することが許されたのは20頭に1頭といわれ、残りは親や家族の手で殺された。
だが既に当時、そのような風潮は弱まり、むしろ数が少なすぎるドラゴンの子供は大切に育てられた。
「遅れた奴は捨てていけ!行け、行け、行けぇっ!!」
五つ首のジョージの5つある頭が号令を発する。
眼下に広がるのは
ラ・ムールの、各地の農村から集められた穀物庫である。
遥かな昔は神にも等しいと豪語したドラゴンの末裔だが、すっかり盗人の集団にまで落ちぶれていた。
すぐ彼処から兵士たちが飛び出してくる。だが戦いとは言えないほどに襲撃は呆気なかった。
数千の歩兵の団列だろうと、陣形を整えた重装騎兵隊だろうが、彼らにとっては問題にならなかった。
これは彼らにとっては戦いではない。日常の一幕、昼餉の食事に他ならない。
飛びかう弩弓砲も涼しげにかわし、逃げ惑う兵士たちも人夫も生きたまま飲みこんでいく。
何もおかしなことはない。いうまでもなくドラゴンたちも亜人の声は理解できる。
理解できるが、そのことには何の感傷も湧き起っては来ない。
例えるならばオウムが意味のある鳴き声をしゃべっていても、それがただの鳴き声としか認知できないことに近い。
ドラゴンたちは暴力だけを法律に、太古のまま、野生の動物のように生きて来た。
盲目公も次々と穀物庫の中身を暴いては腹の中に納めていった。
本来、肉食を好む彼らだが、慢性的に食糧不足であり、この際、腹におさめられるならば川の水でもさして問題ない。
「暗い目よ。」
不意に近くの誰かが声をかける。
声のする方へ振り向こうとすると、弩弓砲が盲目公の近くをかすめた。
かわし続けているうちは問題ない弩弓砲だが、流石に若いドラゴンは当たればただでは済まない。
それ見た事か。仲間の一人が弩弓砲の矢弾を受けて地面に崩れ落ちた。
すかさず周囲のドラゴンたちが彼に襲い掛かった。ほんの一瞬前までは仲間だったドラゴンを情け容赦なく共食いする。
周囲で戦う亜人たちの方が恐怖に身震いするような残虐な光景。
「やめろぉ!やめてくれぇ!!」
八つ裂きにされながら命乞いをする仲間。その間にも形がグズグズに崩れて、見る間に骨さえ残さず食い殺された。
地獄を垣間見たように、半狂乱になってラ・ムールの兵士たちは武器を捨てて、すっかり逃げ出し始めている。
敵が同士討ちしているのだから、通常であれば攻撃の絶好の機会となるはずだ。
だがしかし、そんなことをどうこう論じていられるような空気ではない。
今すぐにこんな狂った所からは逃げ出さなくては。自分が取り殺されてしまう前に。
その常軌を逸した渦の中、盲目公は考えた。
自分たちは本当に、神にも等しい存在だったのだろうか?
情けを求める仲間を食らい、他の生き物たちの言葉に耳も貸さず、ただの鳴き声と吐き捨てる自分たちが。
これではただの獣にさえ劣る。
「そうさの。」
力ない声でつぶやいたのは一族を率いる祖父、黒い長角のゲオルグ。
のちのシャーンイイ伯爵領を作った建国の祖、黒い長角公ジョージ1世であり、外交に長けた梟雄である。
彼は今年で400歳になる。
ドラゴンとして、太古のドラゴンたちに比べれば若年だが、かなりの高齢である。
本来、ドラゴンは野生動物と同じく、体力が衰えれば死ぬ。というよりも機会を待って殺されてしまう。
老いてなお、彼が部族の中で生かされているのは、彼の優れた知略は、
いまや知性を全く失って分別を持たないクソする肉食獣に成り下がった一族の、最大の武器だからである。
「あと20の穀物集積所を攻め、ラ・ムールを弱める。」
「はい、族長。」
目もくらむような山の頂に集まった一族の有力者たちが、老いた族長の声に肯首する。
続けて長角公は枯れ木をこすり合わせた様な声色で話しを続けた。
「その後、大きな地方の駐屯軍を攻撃しよう。これにてラ・ムールは数年は我らの食料庫となるのだ。」
一斉に喜びの声が沸き上がる。
「奴らを、暗く冷たい絶望の川の底へ沈めるのだ。」
その昔、父を殺して食ったという。
戦争をばらまき、破壊と殺戮の背後で文字通り生き血をすすって来た醜く巨大な怪物。
怪しく光る瞳からは未だに強欲の光がギラギラと底光りしていた。
「族長。」
盲目公は、他のドラゴンたちがそうするように、祖父に声をかけた。
両者の体格は猫と虎ほども違っていて、一方がその気になれば、いつでも首をねじ切ることができる。
肉親であっても気の短いドラゴン同士であれば、不用意に近づくべきではない。
「小さな我が孫、ジョージ。悩みを抱えておるようだな?」
「はい。なぜ、こうまでラ・ムールを攻め続けるのでしょう?」
老いたドラゴンは、若干優しい声色で若く小さな孫に答えた。
「今のラ・ムールは王が居らぬ。何より脆弱な奴らは御しやすい。他の国と違って軍が弱い。
神の試練だか知らぬが、愚かな奴らだ。国というものは民の命を守るものでなければならぬ。
そのためには正しい王より、ただ強い王を立てれば良い物を。」
「敵の弱みに付け込む。…そこまで卑劣にならなければなりませんか?」
「勝つことが戦う目的だ。」
普通のドラゴンならばカッとなって襲い掛かるところだが、老いた族長はそこまで覇気が残っていなかった。
ただ、たんたんと無感情に質問に答えていた。
対する盲目公は鋭く反論した。
「我々はもっと強い獲物を選ぶことも出来ます。弱い獲物は弱い動物に譲るべきです。
ラ・ムールは我々が狙うには弱すぎます。」
「弱い者いじめは気が引けるか?」
「私は嫌いです。」
盲目公の答えに、また老いた族長は報いる。
「勇敢なことだ。だが、愚かだ。
勝ち続けることが全てだ、ジョージ。それだけが生き残るための綱となる。」
ゆっくりと体を起こすと、長角公は自慢の角を夕暮れの空に突き立てる様に首を持ち上げた。
薄明かりの中、一種の神聖さすら感じられる胸を打つ光景だが、それを打ち消す冷たい眼光があった。
「ラ・ムール王が全軍を鬨(とき)起こせば、我々など一溜りもない。
奴らには神々が着いている。憎らしや。良いか、我らは勝者の情けに甘んじて生きているに過ぎぬッ!」
鋭い憤怒の声があたりに響き渡った。
「それはどういうことでしょう…?」
空気を震わす怒号に、身じろぎもせず、堂々と盲目公は言葉を返す。
長角公も語勢を再びやわらげて、首をもたげた。
「分からぬか?亜人どもの国々が本気で我らを探し、殺し尽くすことなど造作もない。
今は我らが小ネズミのように這いまわっておる故に、どこも見逃しておるだけなのだ。
我らはもはや、図体がデカいだけの情けない獣に過ぎぬのよ…!」
ドロドロと噴出した溶岩のように、老いた族長から信じられない熱気が感じられた。
時折、悪魔の舌のような赤い炎が鼻の穴や口の端から手を伸ばし、夜風をなめる様に輝いている。
「その歳になればわかるだろう。亜人どもは我らを見て恐れる。逃げ出す。
隙あれば刃を携えて我らを刺し、つぶてをもって追い立てる。
それから身を守るには、全てをねじ伏せる武力が必要なのだ。…圧倒的な力だ…。
何者にも屈さぬ、森羅万象すらもかしずかせ。
亜人王どもを平伏させる権力だッ!」
突如、老いた族長の口から吐き出された劫火が、遥か彼方まで伸び迫って大砂漠を穿つ。
するとそこかしこから亜人たちが怯えて逃げ出す声がかすかに届いて来た。
夜襲を仕掛けようと、後を追ってきていたのだ。
「馬鹿どもが、追手にも気付かぬのか。
これではワシがいなくなれば、残るお前たちなど獣のように狩られるだろう。」
短く息を吐くと老いた族長は、その巨体で信じられないまでに静かに空に舞い上がった。
「―――――――!」
地平線まで届く様な雄叫びに答えて、あちこちからドラゴンたちが集まってくる。
もはや太陽の沈みかかった紫色の空に、小城に翼が生えた様な異形の魔物たちが流れる様に飛んでいく。
今から480年ごろ前。
幼少の盲目公は、祖父と共にラ・ムールにいた。
黒い長角公は王位空座を狙ってラ・ムールを攻め続け、おびただしい被害を与えた。
「この調子でいけば、我らが敵軍を攻めずとも亜人どもは多少の食料と金品を差し出すかもしれんな。」
「金は良い。小さいが、どこでも好きなものと替えられる。」
「全くだ。…おい!」
ひとところに集まった部族の宿老たちが話し合っている。
そのうちの一人が声をかけると亜人たちが這い出して来る。
奴隷である。
余りに巨大すぎる彼らにとって、不便がある時のために亜人の奴隷は必需品となっている。
もっともたださらってきただけなので、最悪の場合は非常食にもなる、並みの奴隷より酷い扱いを受ける。
「この亜人は物覚えが悪いでな。」
「羽が生えておるぞ?」
「こいつらは飛べんらしい。」
「なんだそれは。」
「知らぬ。亜人は亜人よ。」
若い鳥人の少年だ。
真っ青になって震えている。
「背の傷が膿んでおる。痛くてたまらぬ。」
「は、はいっ!」
「…登って膿みを掻き出せ。」
ドラゴンの命令を受け、少年が後ろで震えている、おそらく彼の兄弟だろう、奴隷たちに振り返って合図する。
すると一斉に奴隷たちはドラゴンの背中によじ登って傷痕を目指して進む。
傲岸な態度のドラゴンだが、さすがに動かずに待つ。
しばらくすると幾人かが辿り着いて傷に群がる蛆を蹴り、膿を手ですくって放った。
「い…がぁ…。」
さしものドラゴンも、痛みに体を揺する。
それも仕方ないとはいえ、背中で作業する奴隷たちにとっては、悪い冗談どころではない。
「余計に膿むのではないか?」
「…どうせ、長くない。」
「…そうだな。」
どれだけ力を誇示しても、誰からも尊敬されないのがドラゴンだ。
あまりの巨大さは見る者に恐怖を与え、常識外れの大食漢で、厄介者。
こそこそと餌を探してあちこちに出てくる地上最大最強のドブネズミ。
何も生み出さず、奪いながら生きて来た。
今日まで来たことに意味があるとすれば、なにで、どこに?
相対するラ・ムール側もそろそろ本気にならねばならぬ。
例え相手が規格外の敵とは言え、これまで全くお目にかかったことのない相手でもない。
問題は王位空座である。
「敵は黒い長角のゲオルグか。」
「記録によれば、…20年ぶりか?」
「おう、3度目だ。甲斐甲斐しくも必ず王が不在の時期にやってきよる。」
「先代が仕留め損なったんが悪いんじゃ。」
「敵の総数は400を超えている。ラ・ムール中の兵をかき集めたとて抗せぬ。」
「とにかく今は隣国の抑えが肝心。
クルスベルグが背後から襲ってきたら、大陸間戦争もあり得る。
…それを見越してわざわざクルスベルグとの国境沿いを荒らし回っておるのだから、腹が立つ!」
「もしや、もうクルスベルグと結んでおるのでは?」
「長角ゲオルグならば十分あり得る話だが、それでは解せぬ動きもある。」
「やつの首をねじ切ってやりたいわ!」
「いっそ神官どもを根絶やしにして貰えませんかね?」
「止さぬか。」
「奴らが幅を利かせる位なら、ワシは逆鱗の下で膝を折った方がマシじゃ。」
「止めよと言っている!」
見るからに戦争しかできませんという武張った将軍たちが討論している。
しかし彼らの意見は一致している。ドラゴンたちをいち早く掃討して、国情を安定させるということだ。
対立の原因、神官団はドラゴンを野盗団のように考えていて、軍の総力を集結することに疑問があった。
そもそも敵が隣国との謀(はかりごと)を巡らせているのであれば、軽々に動くのは罠に嵌ることだ。
ここは慎重に、敵の挑発に乗るべきではないという論調である。
その上で、どうしてもというのであれば、軍団のひとつを差し向けるべきという。
しかしドラゴンの戦闘能力を考えれば相手は1頭でラ・ムール軍3000名からなる歩兵軍団ひとつに相当する。
それが400頭。しかもこれは一族のごく一部で1000頭以上がゲオルグの元に集まっていると考えて間違いない。
「国王代理を説得するしかあるまい。」
将軍たちの首座となるパウ・タンポーンが席を立って宣言した。
一同もパウ将軍に同調する。
「うむ。俺も同感だ。神官どもから国王代理を引き離すのだ。」
「エルモプライも心は私たちと同じはずです。」
エルモプライ・トゥトゥンシャンツァ。現国王代理である。
彼は元はといえば将軍であり、先代カー・ムヘアクの娘婿である。
「では、皆で閣下を説得しましょう!」
「どぉこへ行くのかな?」
突然、その場に新たな男が姿を見せた。
気取った髪型に、ファンタンゴのような足取り、全身を飾る宝飾品に派手な化粧。
虎の猫人でラ・ムールの将軍のひとり、カウ・ヴォングである。
「カウ!」
将軍たちが一斉にカウに向き直った。
カウは将軍ではあるが、前線で戦うタイプではなく軍部書記長を任されている。
ようするに参謀であり、普段は軍政を取り仕切り、兵の給料や昇進、物資や武器の管理を統括する。
「あ~、俺様を除け者にするなんて酷い奴らだぁ。」
そういって仰々しく気取った動作でサングラス外すと、あらわになったカウの左目が塞がっている。
「俺たち、心が通じ合ってるんだろぉ~?」
「軽口を叩くなッ!」
玄武岩のような将軍が叱りつけると、なおふざけた態度でカウが走り寄ってくる。
そして、怒鳴りつける将軍の胸元まで顔を近づけて、静かに言い放った。
「俺様がいなきゃ、お前らとっくに砂漠の中でおっちんでる連中ばかりじゃねえか。
いいか、俺様はな…。」
「では、カー・カウになれたのか?」
女将軍がカウに話しかける。
カウは返事代わりに両肩をあげて首をかしげて、またワザとらしくポーズを決める。
「貴公が国王になどなったら、海の水が全て砂に代わっても驚かぬわ。」
「…期待はしていなかったが。」
将軍たちの反応は悲喜こもごもだ。
いっそカウが王でも構わないという将軍もいれば、冗談ではないという顔もちらほら。
「で、審査が終わってようやく席に加わろうとしていたようだが、国王代理を説得するしかないと決まったぞ。」
パウがそういうと一同は彼に連れ立って、国王代理エルモプライのいる執務室に向かおうとする。
「お前らさ、ばーかじゃねえの?」
それを阻むカウ。
流石の将軍たちだ。顔には出しこそすれ、手は出ないと見える。
「神官団とエルモプライが心を一つにしているはずがない。」
「はずがない。はずがない。って数字でいえよ。数字でさ。」
カウは適当に近くにいた将軍の肩に腕を乗せてもたれかかりながら、パウと問答を始める。
パウも向き直って答える。
「数字だと?」
「そうさ。数字と数学は神の言葉であり思考だ。それを理解できない連中は動物みたいなもんさ。」
「では、神の言葉を解する貴様の意見を聞かせて貰おうか、カウ。
言っておくが、国王代理を味方に着けるしか手はないのだ。」
「国王代理が1、俺たち軍部が1、神官団が1とする。今は向こうが2でこっちが1だ。
そこで国王代理をこっちに持って来るだろ、つまり?」
カウの言葉に将軍たちは眼を白黒する。
「それがどうした。」
「利口ぶってくだらぬ戯言を思いついたようだが、それがなんだ?」
将軍たちの反論にカウは静かに応える。
「もし国王代理をこっちに引き入れて解決するならとっくに向こうが勝ってるだろうが。
あんなお飾りをどうこうして神官団の勢いを止められるもんか。」
「おのれ、国王代理の権威をなんとする!?」
「今のところは数式の上に影も形もない0だな。へへへ。」
カウの嘲笑に一同は不快感を見せたが、得心はいった。
国王代理をこちらの意見に同調させたとして、向こうがまた国王代理を引き込もうとするだけのこと。
要するにエルモプライの決定に誰も従おうとしていない。
こんな状況で一時しのぎに国王代理に兵力の大動員を認めさせても、いつ覆されるか気が気でない。
「そこまで言うからには考えがあるのだろうな?」
「ないねぇ。」
「なんて奴だ!」
もう将軍たちは怒り心頭となって、毛を逆立ててカウに迫る。
しかし対するカウは平然と、むしろニヤニヤしているだけだ。
「なあ?今は非常時だぜ。何をやっても神だって歴史だって許してくれる。
こんな時に縮こまって、辛気臭い顔してちゃダメダメダメ。」
「ふざけるな!」
「それでもラ・ムールの将軍か!?」
カウの態度にいらつきを増す将軍たちだが、パウだけは静かに応じる。
「非常の手段を取るというのか?」
「流石はとっつぁん。話が分かる。だが、分かり過ぎて怖い。」
カウの表情が若干、ひきつる。
「先王は酸いも甘いも知る、清濁を併せて呑む、なかなかに強かな王様だった。
俺様みたいな将軍に、よくもまあ色々とやらせてくれたよ。」
そういって頭をひと掻き。また一息。
そしてカウは話し始める。それは一端の将軍らしい堂々とした態度であった。
それは何千という命を背負わなければ身にまとえない気迫であり、誇り高さであった。
「逆にいえば俺様みたいな汚物や清廉潔白な連中が、今は一緒になってる。
それじゃ、お互いにお互いが悪く見えるよな。
でも心は一つさ。皆、カー・ムヘアク陛下への御恩があるし、国の事を思ってると俺様は信じるよ。
それが今みたいに自分だけが国の事を一番考えてるっていう思い込みは危険じゃないかな?」
「うむ。」
「確かに神官団の意見にも一理ある。」
「…ドラゴン襲撃だけが国の問題ではない。」
「我々だけが気負い過ぎていたか。」
意気消沈となる将軍たち。
しかし、そこへカウの次の言葉が繋がれた。
「つまりぃ、相手もこっちをぶっ潰す算段を始めてる訳でぇ、
良識ぶってないでこっちが先にやっちまえばいいんだって。げへへへ!」
「なぜそうなる!?」
将軍のひとりが真っ青になってがなる。
その後に残る将軍たちも続く。
「さっきまで暴走はやめろといったじゃないか!」
「貴様、何を考えている!?」
それをひとしきりしゃべらせておいて、カウは静かになるのを待った。
不思議なことに全員がカウを非難するのをいったん止め、彼の言葉を待った。
「…そこで俺様が国王代理になって、各地の兵力を…。」
「またふざけたことを!」
「そんな方法があるというのか!?」
「血迷ったな!」
「待て待て!」
「そうだ、こいつの話を聞く!」
再び騒ぎ出す将軍たち。
そして、機を見計らうようにまた言葉を続けるカウ。
「確かに迂闊には出来ないことだ。ドラゴンだけが今、解決すべき問題じゃない。
神官団や文官官僚たちがクーデター後も機能しなきゃ、ラ・ムールの政治機能は完全に停止する。
だが、そうやって決定権を振るえないことを敵は見透かしてるんじゃないか?
神官団はともかく文官官僚たちは俺様と書記官たちが説得するし、協力しない連中は…
そうだな。ムスルチ将軍の、無駄にデカい屋敷にでも拘束しよう。」
「何だと!」
目を向いて怒鳴るムスルチ将軍。
思わず一同、将軍を軽く抑えた。
「いいだろ?嫁さんも死んじまったし、あのドラ息子も独り立ちしてるし、場所がいい。監視がし易い。
足りない分は可能な限り書記官団が働いて、政治機能を維持させよう。
…で、この中にその手の書類の管理ができる奴は、俺様以外におらんよな?」
完全に口を堅く結んで、無口になる将軍たち。
王位空座中にクーデターを起こすという行為がどれだけ危険なことか、油をまとって火の中に飛び込むようなものだ。
しかし誰もが感じ取っていた。
それを決断できないからこそ、なかば理解しながら効果のない手段を択ぼうとしていた。
「カウ将軍。貴様の勇気は、誇りに思う。
だが王位空座に乗じてのクーデターは、過去に例が多い。そのことごとく、良くない終わり方を残した。」
「政治に不慣れな軍人が、その後の政権運営が上手くいくとは思えぬ。」
「貴様の作った軍部書記官団の仕事の良さは認めるが、所詮は軍部という一部署だけのこと。
いきなり全ての国政職務を統制するほどの機能があるのか?」
「止さぬか!」
パウが口々に否定的な意見を示す将軍たちを一喝した。
「毒か薬になるか分からぬが、今は飲むしかなさそうだ。」
「パウ将軍。」
老いた猫将軍の言葉に、将軍たちは意を決さなければならなくなった。
そして、やにわに一人の将軍が口を開いた。
「か、閣下がそこまでおっしゃるなら…。」
「ふふ。全くだ。パウ将軍が仰るならば、クーデターも止む無しだな。」
「おう。カウに言われては気乗りせぬが、将軍が言うのであれば、ワシらも着き合おうではないか。」
「よし。」
「兵を整え、神官どもを押し込めてやる用意だ。」
なんというか、やはり戦争しか頭にない連中である。
敵が見えていないときはアプアプいっていたが、はっきりとした敵が目の前に現れれば、頭がすっきりするらしい。
だが、その方が将軍たちらしい。
「兵を整える?なぁに言ってんだ。」
そこでカウが、また小馬鹿にしたように水を差した。
「これだけ武勇で名の知れた剛の者が揃っていながら、神官や警備の兵ぐらい、どうにかできるでしょ?」
「…。」
「…お?」
「貴様、面白いこと言うな。」
「んー…。」
半刻もしないうちに、完全武装の将軍たちが王都の主要な施設に突入してきた。
当然のように逃げ惑う文官や下級の神官、神職たち。
階段を上り、廊下を滑る様に進み、奥へ奥へと歩を進める。
そして数人の高位神官たちと、それを取り囲む兵士たちを見つけると、将軍たちは足早に駆け寄っていく。
「な、何を!」
「ウレカーン将軍!?」
「止まってください!」
「邪魔じゃッ!!」
警護の兵たちを突き飛ばすと将軍たちはその後にいる、枯れ木のような高位神官たちを、文字通り猫のように首を掴んで連れ去った。
「しょ、将軍たちが狂った!」
「これは狂気だ!」
「者共ー!出会え出会えー!!」
「出会わんでも良いッ!!」
今度は別の数名の高位神官たちが将軍たちと入れ替わりで姿を見せた。
彼らは慌てる兵士たちをなだめると、彼らにも将軍たちに従うように説得する。
「将軍たちは辺境を荒らすドラゴンたちの掃討を決断なされた。」
「皆も同胞たちが毎日、殺されていることは知っていよう!」
しかし兵士たちも反論する。
「ですが、ドラゴン退治に兵を動かせば、国境が危ないじゃないか!」
「ドラゴンごときに軍を動かすなんて!」
「将軍たちは国を亡ぼすぞ!」
それを受け、高位神官と残った将軍たちが説き伏せにかかる。
「それは違うぞ!ドラゴンたちは高度に組織化されている。数もこれまでの発表よりもずっと多い。
被害の大きさも意図的に少なく見せられていたのだ。将軍たちの判断が正しいのだ。」
「王都より遠い農村は、生き地獄になっている。誰も見た者はおらんだろう。
知れば皆の心は乱れた。それ故に軍部も神官団も隠し通して来たのだ。
しかし、もう隠し通せるような事態にない。これは止む無い決起と考えて貰いたい!」
別の場所では将軍たちがクーデターの成り行きを見守っていた。
軍人というものが、どれだけ血に飢えた呪われた人種であることか。
自国の王都を攻め落とす戦略を、日々立てていたのである。
勿論、クーデターを考えていた訳ではない。
ただ普段生活していて、なんとなく自分が敵軍の将ならば、この王都をどうやって制圧するか考えずにはいられない。
場合によっては同僚の将軍たちと戦うことになったらどうしようかと考えてみたりする。
そんな連中が王都でことを起こしたわけだ。
スムーズにいかないハズがない。
地図を広げ、駒を並べ、各地の制圧状況、拘束した反対派の移送などを話し合う。
そこへ一人の将軍が舞い戻ってくる。
「ママレー将軍!?」
「書記官どもを下がらせよ。人手が足らぬとはいえ、邪魔で仕方ないわ。」
「カウには悪いが、やはり不慣れな事を任せるわけにはいかんな。」
「それにしてもパウ将軍はやはり、名将ぞ。なんと早い。」
「見事としか言えぬ。」
「バカにしてきたがムスルチもやるな。」
「あれは市街戦では戦上手ぞ。広い所は苦手の様だが。」
「高い所もな。」
若く、まだ下級の将校だった頃のように自分で駒を動かし、談笑する将軍たち。
これから始まる難題も、今の忙しさの中で忘れてしまう。
いや、それを思うと頭を抱えるだけで、今の判断を見誤ることに繋がる。
だから今は目の前の王都制圧に集中する。
「クワイエが見つからんようだな。」
クワイエは神官団の首座であり、王の側近中の側近であった。
思えばエルモプライと国王代理を争って、それに彼は敗れて以来、軍部に非協力的になった。
それは単なる嫉妬とはいえ仕方ないもの。
それに神官団にも優先した当たりたい事案はある。そこで意見が別れることは仕方ない。
今はこっちが武力を握っていたから、こうなっただけで正しいのは向こうかも知れない。
「まさか王都を離れていたのでは?」
「馬鹿な。この重大な時期に神官団のトップが王都を離れる等…。」
「いや、あり得るぞ。」
それが真実であった。
大神官クワイエは、近頃の軍部からやってくる交渉人に嫌気がさし、王都を離れていた。
政務は補佐官たちが取り仕切り、本人は部下たちを連れて近くのアルバまで移動した。
アルバに出来た大神官の仮設の執務室には、事前に知らされていた文官たちが通い詰め、
そこから王都の神官団に指令を出して、国政を取り仕切る予定だった。
将軍たちはうろたえたが、これはカウの策略である。
彼は予めクワイエが王都から離れたことを察知していた。
クーデターが鮮やかに進まないことを予期し、混乱の中で大神官が死ぬなどという事故は、あってはならない。
事実、既に市民や一部の高位神官が負傷、悪くすれば数日後に死んでしまっている。
敵に悟られずに素早く決起するためとはいえ、あまりに杜撰(ずさん)なクーデターだった。
さて、日没までには全てが落着。
エルモプライは訳が分からぬまま拘束され、将軍たちは彼に事態を収拾する能力なしと発表した。
代わってカウ・ヴォング将軍、軍部書記官長が国王代理に就任。
クーデターに同調した神官たちを残し、後は彼の部下たちが政務を任されることになった。
これにより、軍部独裁体制に移行したラ・ムールは国王不在でありながら各地の軍を動員し、
事実上の戦争状態を宣言する運びとなった。
しかし、逃亡したクワイエは軍事政権を非難。
また民衆も国王の命令なしに戦争状態に入るという事実に不信感を覚えていた。
王の命令で死ぬのならばともかく、王でもない国王代理の命令では死ねないということだ。
つまり脳ミソは入れ替わったものの、体は言うことを聞かないというクーデター以前に危惧していた
最悪の事態が発生してしまった。
「クワイエも分からぬ男よ!」
「なぜ政権交代を承知せぬ。奴が頷けば拘束中の神官どもも納得するというのに!」
「カウもカウよ!予めクワイエの遁走を知りつつ、それを明かさず事を起こすとは。」
「大神官が偶発的に死亡せぬための配慮であったのだぞ!?」
「知りつつ隠しておったことが気に食わぬ!!」
将軍たちは、面と向かってドラゴンたちと戦えるという期待を挫かれて、荒れていた。
民衆は戦争反対を掲げ、国王の判断を待つべきという論調に終始した。
「国王が即位すれば、長角ゲオルグはラ・ムールから立ち去るであろうな。」
「ああ。だが、それが容易ではないと知っている。奴は300年近く、俺たちの歴史を見ている。」
「敵の方が俺たちに詳しいのか。」
「生まれ落ちた瞬間から、既知世界のどんな生物よりも強靭な体を持ち、おまけに知恵まである。
これが最悪の敵でなくて、なんだというのだ。」
「神代の大英雄王、カー・ハグレッキが居られればな。」
「勝てませんよ。」
将軍たちの中に入って来たのは、あの気障な虎将軍、カウである。
「長角のゲオルグは武人ではなく、王でもなく将軍です。
彼には守るべき国土も王としての威信もない。勝ち続けられるからドラゴンたちは彼をリーダーと認める。
恐らくカー・ハグレッキとも対決を避け、逃げ続けることでしょうね。」
あのお調子者が、すっかり国王代理の衣装に着替え、何やら憑き物が落ちたよう。
ワザとらしいポーズや仰々しい言葉遣いも改めている。
「なんだ、普通にしゃべるのか?」
「毎日、部下たちがやってきますからね。…お調子者をやってたら体がもちません。」
見るからに将軍たちより仕事に追われている様子だ。
片手には食いかけの食べ物が握られている。
「何より邪龍王は、猫ごときに本気になれなかったという伝承もあります。
ドラゴンは誇り高く、傲慢な生き物。劣等生物と考える亜人、劣れる者と対等に戦うなんて耐えられない。」
”亜”とは劣るという意味である。
ドラゴンは好んで自分たち以外の生物を劣等種として”亜人”と呼ぶ。
「本気になれぬ?」
「ドラゴンの持つ能力で我々と隔絶たるものは魔法を使わず、自力で大陸すら移動する信じがたい飛行能力です。
あれをフルで使われれば、いかに歴代カー・ラ・ムールが勢ぞろいしても大苦戦するでしょう。
次にドラゴンブレス。太古の昔、地上に太陽を写し取ったと伝えられる彼らが先天的に備えた超能力。
あれは極めて限定的で小規模ではありますが、太陽神の能力とほぼ同じ。
全くの無の空間に熱と光を発生させ、それに指向性を与えて攻撃に用いるという神の技、その断片とさえ言える奇跡。
口の中に油を仕込んでいるとか、火種があるとか、魔法だ、とかでもない。
物理法則や自然現象を捻じ曲げ、自分の意思のもとに服従させている。全く、ゾッとする。
あの恐るべき能力は、彼らがかつて純粋な生物として、神のレベルに到達しようとした残り香。
神の力を手にした亜人と限りなく同列の存在が数千頭もいるんです。」
「奇跡を起こすと言うことは、奴らは精霊や亜神の仲間なのか?」
「区別なんて我々が似た者同士を勝手にカテゴライズしているに過ぎませんよ。
ドラゴンはドラゴンであって、もう亜神や精霊、生物などと一緒に考えられる存在を通り過ぎています。
かつて神になろうとして、なり損なった生物。それが彼らしかいないからドラゴンというのでは?」
将軍たちはカウの自論に、しばらくそれぞれ思いを巡らせた。
「神でもなく、人間でもなく、精霊でもなく、…ドラゴン。」
「他とは違う、規格外の存在ということか。」
「だが太陽神と同等などと、不敬だぞ。」
不敬といわれて、カウが答える。
「いやいや。本気にしてくださいよ。我々は神の軍勢と戦うに等しいぐらい、難しいことに挑むんです。
同時に、これが終わったら我々は全員が武王カー・ハグレッキと同じぐらい偉大な英雄になります。
直接戦う兵士や将軍だけじゃなく、ラ・ムールの民、全てが英雄です。」
冷たい夜風に吹かれながら、将軍たちは血が濃くなっていくような感覚に胸が躍った。
神代の以来の大偉業。ドラゴンの一部族との戦争。武人のとしての本懐が目の前に待っている。
結果がどうあれ、誰もが子孫に胸を張って言えることだろう。
『付録』
「ラ・ムール(約480年前)」
先王カー・ムヘアクが崩御し、王位空座の状態が始まっている。
国政の混乱とドラゴンの部族、ジョージ一族の侵入を危険視した将軍カウ・ヴォングはクーデターを起こし、
将軍たちと軍隊を率いて政治機能を掌握すると軍部独裁体制に移行して政治首班に就いた。
ギェルラップ、国王代理になったカウは国内争乱の元凶、ジョージ一族の掃討に乗り出し、
長槍を突きつけられた神官たちが見守る中、カルカン・グー、副王に昇格した。
これ以降、カルカン・グー・カウと文献では記録され、陛下の呼び掛けをもって遇されることになる。
スステパ・モアイの戦いで激突したラ・ムール軍とジョージ一族。
ラ・ムール側の兵力は3万で、指揮官は副王カウが直接取り、隣国への備えを限界まで切り詰めた軍容である。
対したジョージ軍は100頭、指揮は族長である黒い長角のゲオルグであり、王と副王の直接対決であった。
決戦の概要こそ劇的であり、美麗だが、実情はほぼ絶望的な戦力差であった。
「カウ・ヴォング」
イヘラー・シン・ガフの後代、カー・カウ。長寿王カウ、あるいは毒殺王カウ。
ムヘアク・クァイバクことカー・ムヘアクの死後に発生した王位空座にあたり、軍事独裁を起こし、
将軍たちを率いて首班としてラ・ムールの政権の掌握に当たった。
次代の王、カー・シン・ガフが登場すると政権を返上し、将軍、あるいは丞相として仕えた。
歴史上、恐らく次はない事件であるが、カー・シン・ガフの死後、彼が王位に即位した。
これは正当なる段取りを踏んでおり、クーデターなどではないが、仔細は不明。
統治期間中、7人を毒殺した、あるいはそのように噂され、毒殺王カウの異名を取る。
先王の政策を受け継ぎつつ、より洗練された方法で国内を整備した。
信じられないが統治期間は60年近くにおよび、崩御した時の推定年齢は140歳である。
「イヘラー・シン・ガフ」
ムヘアク・クァイバクの後代、カー・シン・ガフ。イェラハ・シン・ガフとも発音する。漆黒王シン・ガフ。
名前の説明をすると「イヘラー」と「シン」が名前で男女どちらでも使えるもの、「ガフ」が苗字。
元は「シン・ガフ」だったが、当時「シン」は人気の名前で、不都合が多いという理由から「イヘラー」を後から付け足した。
しかし「イヘラー」は凄くダサい名前だった。
このため本人は「シン」で呼んで欲しかったが、やはり「シン」は多過ぎるため、苗字を含めて王名としている。
なお彼女の即位により、「シン」がまた増えたため、「カー・イヘラー」と名乗る場面もあった。
黒豹の猫人で、恐らく亜人レベルでは極限まで武術を極めた。
ドラゴン部族の一派、ジョージ一族を率いる黒い長角のゲオルグと戦ったが、全く勝負にならず、個の力の限界を知る。
王というより軍人であり、生涯はドラゴンたちの侵入で混乱した国内の収拾に費やされた。
移動する王宮と呼ばれた近衛軍団は、のちに盲目公の未踏破地帯遠征のヒントとなった。
「ムヘアク・クァイバク」
今から約500年から480年前に即位していたラ・ムール王。カー・ムヘアク。聖審王ムヘアク。
別名「コーファンガ・クァイバク」で「クァイバク」が「弁護士」という意味で職業を由来とする苗字であり、
「コーファンガ」は後に続く言葉を打ち消す、あるいは意味を逆転させるスラング。
両者を合わせてラ・ムールでは「嘘つき神官」という感じの意味になる。
呼吸する法典の異名を取る王で、法学者すら真っ青になるほど他国の法律にも詳しかった。
極めて優れた統治能力を持ち、時に苛烈に、時に柔軟に内政を取り仕切った。
実際、聖審王と呼ばれているが買収や脅迫などの汚い駆け引きも平気で使う曲者であり、これは皮肉を込めた異名。
しかし本人が優れた王であったが故に、死後の混乱は大きく、国政は大きく揺らいだ。
それと合わせてドラゴンの一部族が国内に侵入し、一大内乱期に突入する。
余談だが、趣味は靴下作りで実際に市場に出して販売し、小遣い稼ぎにしていた。
「ガンファーコ」
”逆さまに”あるいは”打ち消し(英語の「Not」に近い感覚)”のラ・ムールの言葉。
時折、これ自体を逆さまに読み直して「コーファンガ」というスラングに使う。
なお流行ったのは500年前の話で、今では古典に詳しい学者ぐらいしかピンとこない。
「クァイバク」
ラ・ムールの法服官職。つまり金で資格を買える役人の肩書の一つ。
裁判において被告人を弁護する神官の一種で、おおよそ弁護士と言い直しても語弊はない。
普通の年収では考えられない金額で売り買いされていたため、富裕層しかなれなかった。
クァイバクの資格は国家から個人に販売されており、保持し続ける場合にも料金が発生した。
そのため資格を手放したがるクァイバクは、定価より安い金額で資格を転売することが許可された。
「国王代理と副王」
ギェルラップはラ・ムールの国王代理を指し、王位空座の間、任命される官職である。
ただし、王が生前に指名でもしない限りは発生しない。
カルカン・グー、副王は、王が生きていながら政務を果たせない場合に国政を遂行する官職だが、
摂政と違い、王の家族や近親者以外でも任命可能な役職である。
ただし最大の違いは外交上の取り扱いが完全に国王として扱われる点であり、開戦を認める交戦権や
重要な外交上の取決めにも決定権が認められ、法律の停止、処刑の取り消しなど極めて強力な権能を保持する。
なお儀典的な問題だが、摂政の場合のように「閣下」ではなく「陛下」の呼び掛けをもって扱われ、
使者は必ず王に対する時と同じように先にひざまづいて許しを得るまで頭をあげてはならない。
また文書などでも国王に対する言葉遣い、文書で構成することを要求でき、はねつけることも許される。
さらに外交の場では他国の臣下より格上の応対を求めることができ、他国の王と接見する場合、
相手の玉座と同じ高さまで床を高くした上でこちらも玉座を用意し、それに腰掛けることが認められる。
言うまでもなくラ・ムールの法律上に存在しながら現実には存在し得ない有名無実の官職であり、
記録上ではカルカン・グー・カウが唯一のラ・ムールの副王である。
- 世界の脅威からすっかり落ちぶれたドラゴンの悲しいやら情けないやらがインパクトあるわー。体の大きさと力の強さ=生物としてのカースト上位ってシンプルな構図と横暴さ -- (名無しさん) 2015-07-12 20:43:19
- 強者が自身と世界を理解し時代に流されていく様が盛者必衰か自業自得かと。人と同じような心があったことでいい方にも悪い方にも転がったのが複雑 -- (名無しさん) 2015-07-14 21:49:39
- 名前が不思議なセンス。年数にしても頭数にしても壮大だった。しかしあそこまで我が物顔で暴れまわってたら世界から敵視され滅ぼされようとしても普通じゃなかったわな -- (名無しさん) 2015-07-22 02:53:41
- 一作目からガチンコ闘争だったこれ。でかい小さいが伝わってくる配置と表現上手いな -- (名無しさん) 2015-08-28 23:28:30
最終更新:2015年07月12日 20:38