異世界の、そんな大袈裟ではない日常の中での精霊のお話
【土精霊の誇り】
その性質は質実剛健。目立って動かぬ彼らを見つけることは難しいと言われる土精霊。
大人しく不動にて自己主張も何もないと思われがちではあるが、意外や意外、譲れないものは譲れない性分でもある。
大延国は広い国土と多くの民を有する国家であり、その管理と運営には特に力を注いでいる。
神と国を支える豊かな食糧の生産にも流通にも必要不可欠なのは土地の把握であり、
国の役人は精霊や躍の力を駆使して各地を調査し正確な地図の作成に務めている。
ここは国内でも高峰が並ぶ金卓山地。今日も今日とて空と風景を使っての測量が行われている。
「済みましたかな?」
「えぇ、左山と右山ですが少しばかり左山の方が高いようですね」
「成る程。言われてみれば左山の方が少し荘厳に見えなくもないですなぁ」
並び立つ両山を見据える大きな平岩の上で狐、狸、鹿の土地役人が調査を報告しあう。
「今日はもう遅いので出発は明日の朝ということで」
「そうですな。では幕を張って休みましょうか」
朝、夜が明け幕から出た役人達が目を丸くする。
「何やら右山の様子が変わっていないだろうか?」
「…確実に左山より高くなっていますな」
「土精霊が一晩で頑張ったのでしょうか…、迂闊なことは喋れませんなぁ。精霊の耳はどこにでもあるようなものですし」
山は土精霊そのものであり、多くがその中に集まるということは国であるともとれる。
無口で落ち着きがあると言えども自らの力には自信も誇りも持っている。
もし彼らが際限なく意地の張り合いを始めたらどうなるのか?
神に仲裁を願うほかないかも知れない。
【風の便り】
異世界での主な通信手段は手紙である。人、精霊、動物など多種多様な運搬手段により異世界を駆け巡る。
それとは別に精霊使いが風精霊に便りを伝える手法がある。
風精霊は遊興が好きであり、特に歌や舞踊に引き寄せられる習性みたいなものがある。
そして風精霊は聞いた奏でを他の風精霊に伝えようと空へ舞い上がる。
最初は伝言を歌にすることで風精霊に覚えさせ遠方まで運ぼうとしたが、
それは途中段階で他の風精霊を介すことで内容に大小からの変化が生じることが判明。
単一精霊の使役は精霊使いや精霊自身の力の強さに拠る所が大きく実用的ではなかった。
ではどのようにして手法を完成させたのか?それは言葉から音への変換であった。
暗号のように音楽の節を語句に当てはめる。そして一つの文章は音楽へと変わる。
歌と違い音楽はその内容をほぼ変化させずに遠方まで、風精霊伝いに届けることができた。
途中で音楽が幾らか変化したとしても、節毎に語句を設定しているので文章全体が破綻することもない。
そして言葉を音楽に、音楽を言葉に変換する伝言師は文章内容に違和感を見つけた場合にも音楽全体の繋がりを想定して修正することもできる。
東西
イストモスはその民族音楽を巧みに扱い言葉を各地に伝えるのである。
草原を行く中で過ぎる風の中に音楽が聞こえたのなら、それは誰かのメッセージなのかも知れない。
- 山を盛り上げれるのなら逆に平らにすることもできる?音楽が暗号という使い方は面白い -- (名無しさん) 2015-09-26 17:46:19
- 相手もものを考える精霊だってのを第一に協力を求めないと残念なことになりそう -- (名無しさん) 2015-10-04 19:40:54
- 精霊に100%間違わず言葉を運んでもらうのはかなり難しそう -- (名無しさん) 2015-10-07 05:15:22
- ほっこりするのだけじゃなくて本当はこわい精霊の話みたいなのも異世界にはあったりする? -- (名無しさん) 2016-02-24 06:12:02
最終更新:2015年09月26日 01:06