【精霊の小話 2】

異世界の、そんな大袈裟ではない日常の中での精霊のお話


 【雨乞いのコツ】
周囲を山に囲まれた町がある。
そこは山に住む風精霊が雲を散らすので雨雲が中々大きくならず渇水に悩んでいた。
その年は始まりから特に渇水が酷く、さらに水瓶であった山から流れる川とその先にある湖も干上がってしまったのだ。
町長はたまらず精霊士組合に救援の文を送ると、一人の交渉士がやってきた。
交渉士は微かに水の残る湖の中、少し下った所に供物を置く祭壇を作るように促した。
次に交渉士は水精霊を活性化させる旺水気の詰った珠を弾けさせ湖の底で眠っている水精霊を起こし交渉を始めた。
町が渇水で困っているので助けて欲しいという願いに人助け好きの水精霊は更に地の底にいたのも合わせて飛びついてきた。
また町が困った時は祭壇に供物を置くので、それでまた助けて欲しいと契約を取り付けた。
やがて雨雲が生まれ喜びの声があがる中で町長は、何故に行くに難い湖の中に祭壇を作ったのかと尋ねた。
交渉士は言う、もし湖の畔に祭壇があれば何時でも供物を置き水精霊に助けを求めることができてしまう。
人助け好きな水精霊は喜んで応じるだろうが、水がまだ多くある時に水精霊が動けば大量の雨が降り水が湧き出し、それを受け止めきれなくなった湖と川は氾濫してしまう。
水は少し足りないくらいが丁度良いだろう、と。
そして湖を指差して告げる。 水精霊の加護に甘えた末路が、あの水の底にある町なのだと。


 【ひんやりする暗がり】
照りつける日差しが服の上から肌を焼く。流れる汗も落ちる前に乾ききる。
焼けた砂浜を行くしかない道程の中、板が立てかけているのを見つけた。
棒きれ二本に斜めに板が乗り影を作っている。中は人が二人ほど入れるこじんまりしたものだが、今の暑さにはそれでもありがたい。
中に入ると体に篭っていた熱がすぅっと引いていくのが分かる。心地よい。
ふと誰もいないはずの隣に気配を感じたので視線を向けると黒い小さなもやがすぐ隣でもぞもぞしていた。
あるのかどうか定かでない薄暗い光がこちらを見上げている。
気持ちが良いのは良いが、このままここにずっといるわけにはいかない。
ましてや眠ってしまうと闇精霊の奪う力によって体温が全てなくなってしまうかも知れない。
ひとしきり休んだ後、何か置いていけるものはないかと荷物を開いてみる。文鎮として使っている灰石が良さそうと思いそっともやの前に供えた。
出発して遠くなった暗がりを見てみると、石の上でもぞもぞするもやが見えた。


 【光の遊び場】
クルスベルグの山脈の中には色々なものが広がっている。町や工房から畑まで。
山中は当然のように何もなければ真っ暗である。昼も夜も。
山中に住む者は昔より苔や灯篭から発光する鉱石など多様に使ってきた。
しかし山中では必須とも言える明かり材料はどれも足元を見られてか高いものが多く、安価なものはそんなに明るくないのが相場であった。
とある山中工房街に研究熱心なドワーフがいた。寝る間も惜しんで鍛冶だルーンだと没頭するも、工房に小型の歯車を設置してシャフト使用権を得た時点で財政が底を打ちかける。
何とか安価な灯りで研究を続けるが自分の手元がぎりぎり見える程度の状況に四苦八苦する日々。
そんなある日、気分転換にと久しぶりに山の外に出ると降り注ぐ眩いばかりの陽の光。ラーの威光は洞暮らしには少々きつい。
ふとドワーフは思う。「この光を山の中に引っ張ってはこれないものか?」と。
思いついた仕組みは簡単なものだった。 姿を映すほどに輝く水面石を細かく用意し、外から反射を利用して山の中まで光を届けるというものだった。
研究熱心なドワーフはここにひと工夫をして山の端と端に採光窓を開け反射の方向を一つに絞り、山中を光が駆け巡るように水面石を取り付けたのだ。
更に研究成果である光の加速・拡散・螺旋のルーンを石に刻み、ついには山一つ丸ごと光精霊の遊び場にしたのだった。
定期的に石の配置などを変化させることで山中を通る光の道を精霊が飽きないようにも工夫した。
やがて研究熱心なドワーフは山中に光をもたらす技師として名を馳せることになる。
山中に光を引くと同時にドワーフは光精霊からの忠告を伝える。
「月夜は採光窓を閉じるべし」
その忠告を聞かず夜も月光を得ようとした山中街が月夜の一晩で住人全てが煙のように失踪した事件が起こっている。


異世界での精霊との日常の触れ合いはどんなもの?
そんな短い話を一時

  • 精霊を集めてお助けセンターみたいなものを経営できたら儲かりそう -- (名無しさん) 2015-03-11 20:26:07
  • 便利だからと精霊に頼りすぎるのもいけないということなのか -- (名無しさん) 2015-03-31 02:10:00
  • 過ぎたるは及ばざるが如しはどっちの世界でも同じか。言葉のない精霊との付き合いっていいな。クルスベルグは芸術と工芸が合わさったのが魅力だ -- (名無しさん) 2015-09-26 17:49:10
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最終更新:2015年09月26日 01:07