【精霊の小話 1】

 異世界の、そんな大袈裟ではない日常の中での精霊のお話

 【我が家の種火】
竃の中には火精霊が住んでいる。先祖代々家族と共に住んでいる。
ある家の竃に小さな火蜥蜴が住んでいた。舌をちろちろ出して藁を燃やし火勢の種にするくらいしかできない小さな火蜥蜴。
精霊を知り始めた子供達は、自分の家にある竃に住む火精霊を比べあう。
小さな火蜥蜴を馬鹿にされた子供は家に帰るや、もっと大きくなってもっと大きな火を出してと竃に訴える。
しかし火蜥蜴はいつもと変わらず舌をちろちろと出すだけ。
思わず子供は思い出すのも苦いひどい言葉を投げつけてしまう。
しかし火蜥蜴は相変わらず舌をちろちろさせていた。
ある夜のこと、どこぞから流れてきた無法者が家々に火をつけ回り大火事になる。
逃げ惑う村人、大きくなる火勢。やがて炎は火蜥蜴のいる家をも包もうとしたその時、
竃から外へ飛び出した火蜥蜴がぱっくり大きな口を開くと迫る炎を全て飲み込んだのだ。
村を飛び回り次々と炎を吸い込んでいく火蜥蜴の体はどんどん大きくなり、やがて巨大な翼まで生えたのだ。
巨大になった火蜥蜴は無法者を見つけ掴み村人の前に放り投げると、全身に村を襲った炎を全てまとわせ遠くの空へと飛び去っていった。
子供は火蜥蜴のいなくなった竃に何度も何度も何日も謝った。しかし舌がちろちろと出てくることはなかった。
やがて子供の誕生日がやってくる。
帰ってきた子供は少しもやっとした気持ちながらも御馳走に腕をふるう母のいる台所をこっそり覗いた。
すると竃から見知った小さな舌がちろちろ出ていたのだった。


 【鬼と岩の賭け】
ミズハミシマで何度目かの龍神の大暴れの後、真っ二つに分かれた島があった。
泳いで渡るには遠く、船を出すには波の荒れがひどい海峡。
別たれた島民は同じだった向こう島に渡るために、大きく遠回りの船路を余儀なくされていた。
ある日、島に流れ着いた黒鬼が島渡りに悩む島民のために一肌脱いでやろうと島一番の山へと登っていった。
数日後に黒鬼は大きな岩を担いで戻ってくると、海峡の先にそれを置き人払いを頼んだ。
一晩の後、黒鬼は最も引き潮になる時間に島民を海峡、岩の下へと集めた。
するといきなり地が揺れ海底が隆起し、向こう島まで一本の岩の橋が出来上がったではないか。
黒鬼が言うには、日の内で引き潮が極まる二度だけこうして岩が橋を作るように土精霊が取り計らってくれるとのこと。
やがて潮が満ち始めると橋も戻っていくので、そうなる前に渡りきるといい、と。
黒鬼に促されて思い思い橋を渡る島民達。向こう島へ渡ると歓喜と謝辞の後、ことの顛末を向こう島の民に伝えた。
黒鬼はそれを遠目で見るや、岩の方へにやり笑った。
事の真相はこうである。
 黒鬼は島の大土精霊の眠る岩を夜の間に移動し、一つの賭けを持ちかけた。
 これから引き潮になるごとに島と島に橋を架ける。 もし橋を渡った者が感謝を表さなかったら精霊の勝ち。
 この先、精霊の勝ちになるまで橋を架け続ける。 もし精霊が勝てば岩を元の場所に戻し、大層な社を建立し奉ろう。
実は土精霊、戻ろうと思えばすぐに戻れる力を持っていたが賭けへの興味から岩に留まり橋を架けることにした。
時が経ち、もう黒鬼はいなくなった島の海峡で今日も岩の橋が架けられる。
「ありがとう!」「土精霊様、本当に助かりますじゃ」「今度、岩にお供え物を持っていきますね」
賭けは此度も負けではあったが、岩は少しだけ揺れはしたが動いていく気配はなかった。


異世界での精霊との日常の触れ合いはどんなもの?
そんな短い話を一時

  • 人の生活と密着する精霊も何かしらの益があるからというのは分かりやすい -- (名無しさん) 2015-03-08 22:01:49
  • 自然を動かしてくれる精霊だけど助けてくれるのに善人悪人の判別はしているのかな -- (名無しさん) 2015-03-11 20:24:25
  • 精霊がいるのが当たり前の世界の話ってのがよく伝わるな -- (名無しさん) 2015-03-30 23:27:01
  • 精霊にも情とかあるのかな? -- (名無しさん) 2015-04-23 23:08:25
  • 今の神と世界のバランスが保たれてたらこんな人の生活が続いていくんだろうなーって -- (名無しさん) 2015-08-28 23:29:51
  • 生活に密着というか前を向いて歩いていたらふと精霊と出会う異世界ってイイネ -- (名無しさん) 2016-08-03 20:23:09
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最終更新:2015年09月26日 01:09