【ドニー街話】

ドニー・ドニーの中心港タンネン湾を北に見据える歓楽街。絶えない喧騒と店灯りから【不眠街】とも呼ばれている。
ゲート開放や七大海賊団による国作りの本格化によりそれまでの海賊強国の姿から少し舵をきり方向を変えたことで戸惑いも大きかったが、
今では異世界における海運事業その他の雄として活躍するに至る。
だがしかし、世の流れに全ての者が乗るかと言えばそうでもなく…

カランカラン
歓楽街の裏通りも裏通り。看板と店が密集する怪しげな通りにある一つの店の扉が開く。
「いらっしゃい…っと、ギンガマリの旦那じゃねぇですかい!久し振りも久し振りで…自慢の頭殻にヒビが入ってますけど何か荒事でも?」
丸眼鏡のコボルト店主がすんすんと鼻を鳴らし久方ぶりの客の様相を気遣った。
ギンガマリと呼ばれた岩貝人はぼろぼろになった船員服を二重に着込み、体の随所を覆う貝殻の傷を隠していた。
「黒磯海賊団…解散しちまったって話じゃないですかい。一体何があったんで?…昔話をしにきたワケじゃないと。
へぇへぇ、それで何が入用で? …虹珊瑚の若芽と老杉の奥樹液、灰海豹の括約筋…ってこの素材は」
注文を聞き書く店主の眉が眉間で捩れるも、ギンガマリは動じずに品を三種追加する。
「旦那ぁ、何をやるのかは聞かねぇが、あっしのちんまい脳ミソでもこいつらでどうこうすると今のドニーの法にフれちまう。
悪いこた言わねぇ。薬師としてそんだけの腕があんだ、真っ当な仕事を ──
店主の言葉を遮るように腕の貝殻の隙間から針棘が突き出、喉元の直前に迫る。
「!へいへい。人生命あってのナンとやらだ…用意してきやすが、あっしは確かに言いやしたからね?時代ってなぁ何ともはや難しいもんだ…」
店主が垂れ布をくぐり奥へと消える。 ギンガマリが黒い情念を沸き出し拳を強く握った。
 ── その時
「緑海の毒使いギンガマリ!大人しく縛につけ!」
突如店の扉と裏から雪崩れ込む海賊達。ラウダフルの団直下の治安維持隊である。
四方を囲まれ逃げ場の無いギンガマリは抵抗する素振りを見せず佇む。 が、異変を見せたのは囲む海賊達だった。
恍惚の表情を浮かべ力なく床に崩れる面々の中で一人悠然と立つ姿にギンガマリが思わず構える。
「自身の求める幸福を幻想させ腑抜けにする惑夢香。これほどのものを作れるのにまだ悪行に堕ちるというか!」
羽根付き海賊帽が揺らめく一瞬で二振りの細剣が強固な岩貝人の両肩を挟み抑える。
「何故効かないだと?他はどうか知らないが…私の幸福は現実にあるのでなッ!」
鮮やかな連続する剣撃があれよあれよという間に武装を斬り崩し、ギンガマリはあえなく伏せられた。
「ドニーで何かする以上はドニーの法に従ってもらう。それが嫌ならドニーから出て行くか法を変えるんだな」
床で歯軋りやまぬギンガマリの懐からボロボロと薬瓶が転がり出る。
「…どんな手段でも海賊の頂点に立てばお前が法になる。ラウダフルを倒せたのならそれも叶うかも知れん。
だが覚えておくといい。まず立ち塞がる私を倒せねばいけないということをな!」

裏通りを下手人を後に進むオークの双剣士バルバンクール。
伊達男と呼ばれる彼の心は鉄芯、如何な誘惑も不正も通じないが故に彼はドニーの治安維持の最前線を任されているのだ。


  • 地球とつながらなかったらまだ恐い海賊の国のままだったのかも。交流進む世界で国がしっかりしてくるとやりたい放題の集まりのままだと相手にしてもらえないか最悪敵として滅ぼされちゃうだろう。時代の流れだな -- (名無しさん) 2015-11-19 22:37:15
  • 異世界の海賊の町なんだけど空気が時代劇の捕り物みたいだ -- (名無しさん) 2017-08-05 08:45:32
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最終更新:2015年11月18日 22:24