【未来の学園祭 1】

「四十七士の新総督としてぇ!ここは必ず勝ぁつ!勝つのだ! 既に奴の弱点は()えている!なのにっ!なのにぃっ!」
朝陽がゆっくり昇るに合わせて聳え立つ校門が闇から現れる。
空を見上げ剣を翳す鎧。その切っ先の向かう所に悠然と羽ばたく銀色の大翼。
「変態の殿堂なんて絶対に不許ピヨ!天空の裁きをその身に受けるピヨ!」
横薙ぎした翼は剣の束。銀色の閃光は弾雨となり地上へと降り注ぐ!
『マスター、この攻撃の分析結果は ──
「ふっはははっ!見える!見えるぞ!流石は“魔眼剣”(シヴァール)!私の未来はぁぁああぁぁんっ!!」
連続する鈍音。伸びる影に黒の線が幾本も生える。
膝から崩れ落ちた鎧は見る見るうちに灰砂と化し、風に吹かれ消えていく。
跡に残ったのはひき潰された蛙の如く無残に伏した素っ裸の男子生徒だった。
後の学園史で語り継がれる“変態のケツで学祭開始事件”だが、その原因は当のケツ本人ですら覚えのない摩訶不思議な出来事であった。

 「ンっン~早速ひと勝負ついたようだネ。どれほど相手の弱点を見抜いても一撃すら入れさせてもらえなきゃ勝てるワケないか~」
 学園校舎の頂上から先程の戦いを見据えていた鴉。その脳内に響く声。
 『相性の極端さもありましたが、如何せん“飛翔剣”(ディーヴィア)の主が翼人であるというのが大きいと思われますが?
 この先の戦いでも有利に働きすぎるやも知れませんので今一度選考のやり直しを提言します』
 闇よりも漆黒な。それ以外は特に普通の鴉であるが、それは何の躊躇いもなく喋る。
 相手はこの場にいない別異の世界におわす神。
 「いいヨ~そんなことしなくて。 自分と相性の良い剣を引き当てる“運”も立派な実力だヨ。
 いやぁビシタシフォンだっけか翼人の子。事象を曲げるハピカトルの息がかかった種族はluckが高いよネ」
 『左様ですか』
 「まっ、というワケだから次の戦いが始まったら中継頼むヨ~」
 『しかし此度は派手に蒔きましたね… 最初は一つの杯、次は三本の杖、四枚の札ときて七つの宝玉。そして今回の十二本の剣。
 時間をかければ吸血姫に気付かれてしまうでしょうに』
 「はっはっは(棒)。何々大丈夫だヨ。 サミュラは世界構和会議に出席しているからすぐにはバレないってネ」
 溜め息をついた様にも見えた鴉は、朝陽を嫌ったのか校舎の裏側へと飛び去っていった。


2XXX年 神戸
年々増加する異世界からの移住や留学生、労働者を受け入れるために異世界交流解放特区であるポートアイランドは
海隣の六甲アイランドを埋め立て併合し大幅に拡張するに至る。
大きくなった受け皿は多くの住民と、その世代が重なり誕生し産まれた子供達を許容する。
それにより生活関連施設の需要は更に高まり、そのあおりを受けて遂に十津那学園は山之上と海之前の二校が合わさり一つのマンモス校“十津那学園”となった。

そして秋の学園祭。出店や出し物何でもござれの学園を賑やかな色が包んでいる。
「うーん!中々イケてるんじゃない?菜園部産の素材で作ったエルフ蕎麦。
ちょっと変わった風味が混ざっているけどこれがエリスタリアの味ってやつ?」
立ち並ぶ屋台の一つ、“エルフ蕎麦”のカウンターで背高な女生徒が蕎麦を堪能していた。 足元には竹刀と道着袋。
「それはきっとエリスタリア北季領の山で取れる岩塩の味だね。具は主に山野菜だから…山菜蕎麦の山塩仕立てという感じで」
「いやー感服!隠し味もだけどエルフなのに料理上手いよねウルハ君。エルフって料理がアレな人が多いからどんな蕎麦が出てくるか不安半分だったんだけど…
流石生徒会の審査をパスするだけはあるわ~」
どこから用意し作ったのかアンティークな木材仕立ての江戸屋台。
割烹着に三角巾の出で立ちでもイケメンオーラを醸し出すエルフ男子のウルハの一挙一動にカウンターの女性客から黄色い声とシャッター音が響く。
「エルフの学習能力はちょっと特殊でね、世界樹に集められた様々な遺伝子などが次世代のエルフに活かされるのさ。
ある旅エルフがもたらした遺伝子と地球での経験情報が多大な影響を与えていると思うよ。僕の世代にはね」
ふんふんと話半分で蕎麦をすする女生徒の後ろから勢いよく顔が突き出てくる。
「竹刀提げてソバ食べてると様になるねー。まるで時代劇の浪人みたいじゃない?うっきー」
「いやちょっと浪人はないでしょう。せめて武士と言って下さいよせゐ先輩。 あっ、お蕎麦ご馳走さま! 美味しかったから学園祭中にもいちど食べにくるかも?」
「ありがとう。食堂の御息女にそう言ってもらえるのは光栄だね。 よき学園祭を」
女生徒は袋を背負うと蕎麦屋台をあとにする。
「そろそろシフト交代の時間よね」
「いやー学園祭もあまりのネタの平凡さに焦っちゃうよ新聞部としては。 去年もそうだったけど、うちの学園祭ってなんで屋台と喫茶店ばっかりなんだろ…」
せゐと呼ばれた女生徒は武士うっきーよりも背は低いがどうやら学年では上らしく、無い胸を張って進む姿に意地を感じる。
「平凡だったら今朝みたいなことなんて起きませんよ。 あの写真って本人に許可もらったんです?」
「そうそうそう!いやー記者の勘ってのが騒いだから朝速攻登校したらプリケツ晒した変態がいたのよ!撮ったわけよ!
あっ、許可はちゃんと取ったわよ?はぁはぁ汗かきながら大判で頼むとか写真掲載サイズまで指定してきたんだから」
学園のみならずポートアイランド全体にまでそのシャッターを光らせる新聞部の記事はトンデモばかりだが嘘は無い。
「じゃっ私は他の取材に行くからこれで。そっちはお化け屋敷だった?後で回るー」
別れの挨拶が出るよりも先に走り去った女生徒。鹿の尾のようにたなびくポニーテールが目立っていた。

 『…D…』

「ん?」
ふと響く声。しかし周囲の人の流れは誰一人自分を向いていない。
「気のせいかな。最近ちょっと学園祭の準備で疲れてたから」
再度袋を担ぎ直した女生徒は自クラスへと向かって走り出す。


ちょっと未来の十津那学園の学園祭を想像。 祭りの始まり

  • 未来でも相変わらずの学園は歴史を繰り返す? -- (名無しさん) 2015-12-09 21:59:36
  • カップル成立していないキャラの親とか気になっちゃう -- (名無しさん) 2015-12-27 17:03:22
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最終更新:2015年12月09日 22:11