……と、表題のように一声で事の全てを説明できれば苦労はない。
人には事情がある。そうそううまく行くはずがない。
彼ら彼女らは偶然にも別々の経緯で異世界へと渡り、これまた偶然にも異世界で再会することになる。
ともかくも、まずはその始まりを追っていこう。
状況その① 銀城鋼助の下宿にて。
さっきからヒィが鼻歌交じりに荷造りをしている。
大きめのキャリーバックに着替えだの缶詰めだのを詰め込んでは出し、出しては詰め込んでの繰り返しだ。
「ちょっと待てよヒィ」
「どしたの?」
量が明らかにおかしい。どこに行く気だお前。
「あとその鍋とか包丁は何に使うんだよ?」
ゲート祭で帰省するならそんな物は必要ないはずだ。
「にゅっふっふっふっふっ、実は
ラ・ムールでこんなイベントがあるんだって!」
ふにふにの肉球から手渡してきたチラシには「カレーコンテスト」の字が踊る。
「コレに参加するのか」
「そーだよー。実家も近いしー、面白そうだし!」
「あのな、ヒィ。参加要綱のところ、よく読めよ」
「?」
「『本大会は二人一組での参加とする』だってさ。一人じゃ無理だろ?」
「??」
「あ、そうか。地元の友達とでも組むのか。なら応援くらい…」
「違うよ?コースケとだよ?」
「……はい?」
「だーかーらーコースケと二人で!」
我が耳を疑う衝撃発言。
「ちょっと待てって何言ってんだ俺の都合はどうなると言うか今からチケット取ったって間に合わないだろ!?」
「それならだいじょーぶ!」
再びキャリーケースをひっくり返して、何やら高そうな封筒を二枚突きだしてきた。
「手紙にコースケの事を書いたらパパが『一度連れてきなさい』って送ってくれたんだー」
「…何だよコレは」
「にゅ?向こうまでのチケットだよ?」
「…………ソウイウコトデスカ」
今年の初夢が頭の中に甦る。
灰みたいに真っ白になった俺を余所に荷造りを再開するヒィの鼻歌をどことなく殺伐としたモノに感じたのはナゼダロウ……。
状況その② 主と従者の場合。
「へぇ、ユエン『さん』は今年は忙しいんスねー」
「なんなのその『さん』って」
「べーつに何でもありませんぜ」
んなわきゃネエけど。
考えてもみてくれや。代々仕えてきた家の、さらに言やぁ俺を叩き起こして生きる意味を与えてくれた恩人に女が出来たんだぜ?
祝福してやれってダチは言うけどよぉ…割りきれるかってんだ!あ、言っとくけどホモじゃねーゾ!?
だいたい特殊なんだよオレの場合はヨォ!?
「ドラン」
坊っちゃんの冷たい一言に総立ってた鱗が静かに倒れる。
「ウス、スンマセンでした…」
「わかればいいよ…はぁ」
空気が重い!不機嫌な坊っちゃんも恐ェ…!
ゲート祭の一月くらい学校だの何だのメンドクセーの全部ほっぽりだしてホレたスケと一緒にいてえのはわかってんだ!!
でもユエンは俺らと違ってイッパシのカタギでしかも書き入れ時の観光ガイドなンだよ。
この時期ばかりはいくら何でもこの俺サマの力でもよぉ!
「……遠いなぁ」
「そうッスね…」
「ラ・ムールかぁ」
「ラ・ムールにいるんスね」
「知らずに相槌打ってたの?」
「え!あ、いや知ってましたヨもちろん!?ラ・ムールですよねラ・ムール!ラ・ムール……ラ・ムール?」
「何?」
「コレがあるじゃないですか坊っちゃん!!」
1週間前から寮の部屋にポスティングされてたカレーコンテストのチラシだ!
このイベントは会いに行くいい口実じゃネェか!
坊っちゃんのためなら例え火の中水の中!
さらに優勝して坊っちゃんのカッケーところをユエンに見せつけてやりゃあ仕える従者としちゃ大成功ジャネエかよぉ!!
待ってろよぉカルアイノとかいう野郎!坊っちゃんのための引き立て役になってもらうぜぇ!!!
状況その③ 十津那学園の大講堂での事件。ただし、ここだけ時計が少し巻き戻る。
ゴールデンウィークのファンイベントで事件は起こった。
「あの!オチ・ムシャさん!」
ハウリング気味のマイクパフォーマンスに会場は水を打ったように静まりかえる。
対照的に突然のご指名に心臓が大地震を起こしている男がいた。
入場口の脇でプレゼント争奪ジャンケン大会をひっそりと眺めていた当のオチ・ムシャである。
リングの上では3等の「ラ・ムールペア旅行券 メッチャ・カーラーカレーコンテスト特別ご招待つき」の目録とマイクを握りしめたケルピー、セルケアーノ・メイル・イスガが顔を真っ赤にして彼を見つめていた。
オチ・ムシャは混乱する。
確か彼女がジャンケンに勝ち残ってリングに上げられたのは覚えている。
それから目録を受け取って「今の気持ちは?」とか「誰と行きますか?」とか司会に質問攻めにされていたはずだ。
回想のような走馬灯のような、頭の中の流れに合わせるように照明係が余計な気を利かせてゆっくりスポットライトを浴びせかける。
「コレで……私とラ・ムールに行ってくださいませんか!」
ざわついていた場内が再び静寂に包まれる。
観客の視線が一斉にオチ・ムシャに注がれて、誰かがアジった。
「答えろよオチ・ムシャぁ!」
集団心理とは恐ろしい。なお言えば今の彼はウォーチではなく最強最悪のヒールレスラー、オチ・ムシャなのだ。
堰を切ったように会場は謎のオチ・ムシャコールの濁流となった。
おかしい。明らかにおかしい。ヒールには似つかわしくない大合唱。
顔はそのままにマスクの下の視線で両脇に控えていた同じヒールの死念坊と苦念坊に助けを求めてみたが……
「「オッチ・ムシャ!オッチ・ムシャ!オッチ・ムシャ!オッチ・ムシャ!」」
駄目だった。
『ここで盛大にフッて台無しにしてやろうぜ!!』
二人の目は如実にそう語っている。悪役の性だろう。
ウォーチは彼女の想いを知ってしまっている。しかし今はウォーチではない。オチ・ムシャだ。
拳を振り上げ雄叫びを上げて、花道を猛然とダッシュしポストを豪快に飛び越えリングイン。
彼の次の行動を観客の誰もが固唾を飲んで見守っている。
勿論、目の前にいるイスガも……と、そこまでは良かったのだが、彼女が涙をこらえているのに気がついてしまった。しかも心なしか小さく震えている。
一発KOだった。
『おおーっとォ!!意外や意外!!あのオチ・ムシャが!残虐残酷陰惨極悪でならした最強のヒールがぁ!!彼女の手を優しく握りしめたァァー!!??これは一体どういう事だぁァァー!?!?!?』
……このことは翌日の学園新聞のトップを飾り、しばらくゴシップのネタになったと言う。
状況その④ そして阿呆たちが往く。
「ぬう、またか。何度やっても答えは同じとは」
磊令兄弟の長男、梁は唸った。
三兄弟が囲むのは大延文字がびっしり書き込まれた紙と「占」の躍字が浮かぶ十円玉。
「スッゲーな、このコックリさんって精霊はよぉ!!」
「しかし兄者。『ラ・ムール』だけの答えでは一体これが奴らを倒す鍵となるのかさっぱりではありませんか」
「……行ってみるしかあるまい」
「まさか」
「今からラ・ムールにかよ!?」
「折しもゲート祭が近い。これもコックリさんの思し召しだろう」
「だったらよ梁兄、コレ行こうぜコレ!!」
「馬鹿者!観光ではない!」
浮かれ気分の慶の脳天に鈞のメリケンサック拳骨が降り下ろされる。
「痛ってえ!?何も殴るこたあないだろ!」
「いつもいつも食い意地ばかり張って、何がカレーコンテストだ!……カレー…カレーか。うん…嫌い、じゃないかな?」
「鈞!?」
ここに来て次男、まさかの裏切り。長男の心境は察するにあまりある。
「さっすが鈞兄だ!話が分かるぜ!」
「久しぶりにウマがあったな」
「つーわけで梁兄」
「多数決で決定です兄者」
「む、むう…」
「決めかねるというならまたコックリさんにお尋ねしますか?」
「そうしようぜ!あ、そうだ。今度は足使っていい?」
言って慶はズボンの裾を捲る。
「なんだと!?」
「良いと思うぞ。俺も試してみたい得物があるのだ」
今度は鈞の番である。背中からズルリと現れたのは白木鞘の長ヤッパ。
「お、お前たち…!」
「卑怯とは言わせません。その『占』の字を出したのは兄者なのですから、これで平等です」
「そーだそーだ!」
「グ、グぬぅ…」
結局、長男が折れる形で彼ら磊令兄弟のラ・ムール行きは決定となったのだった。
ご覧の通り、簡単そうで簡単ではない連中が思惑を持ってメッチャ・カーラーに集う。
そしてここにもまた一組、偶然にもゲートを渡る者たちがいる。
彼と彼女もまた……
状況その⑤ ???
ゲートを臨む夜の埠頭にけたたましいサイレンが鳴り響く。
陸には鱗人が、海には門自の哨戒挺がひしめき、喧騒と緊張があたりを支配していた。
その遥か頭上、海に突きだしたガントリークレーンの中腹で柚鬼と元原は身を潜めていた。
「…逃げて」
「馬鹿、野郎……!怪我してるヤツを見捨ててなんて行けるかよ!」
二人とも傷は深く、息も絶え絶えであった。
「いいから…動く…ぞっ!」
「待って!」
這いよってきた丈児を柚鬼が突き飛ばし、クナイを背後の暗がりに向かって投げ放つ。
何もない暗黒からぬるりと陰が露になる。その姿は片目の貝人だ。
「おやおや。その傷で動けるとは。なんとも頑丈なお二人だ」
「…だれ?」
「こうしてお目にかかるのは初めてですね。ワタシは鱗人連合が参謀、臥吏(がりぃ)と申します」
「ケッ、大層な名前だけどよぉ、要は不良鱗人の寄居じゃねえか」
「これはこれは手厳しい。しかしご指摘はごもっとも、単なる学生の互助組織なのは事実事実。
ですがそれ故に繋がりは強いのです、種族の特性もあるでしょうが。だからこそのこの状況」
臥吏が手を翳すと示し合わせたように投光器が三人を照らしあげる。
「いたぞ!あそこだ!」
門自の哨戒挺からの大声がまるで陸にいる鱗人たちに知らせるように響き渡る。
「ちぃっ!」
「ははははは、あの中には息がかかった者もいます。海も陸も我らと門自が封鎖しているのです。こちらの言葉で四面楚歌ですね。
さて……少しだけお話をしましょう。一年前の騒動の時、貴方の元原という姓にピンと来て調べさせていただきました。そして納得がいきました。
貴方がゲートを使用できない訳も近づけない訳も、そして通行証を持っていない訳も全て。
そして…貴方の父親がどれほど嫌われているか、どれほど憎まれているかもです」
「てめえ……まさか!」
「とんでもないとんでもない、コレは大事なカードゆえ、易々と切るなどとてもとても。
それに公表していたとして、この程度の騒ぎで済むわけがありますまい。
ミズハミジマの天下を覆さんと画策し、大勢の命を奪った殺人鬼の息子がここにいるのですから。
何しろ貴方の本当の名は、そして貴方の父親は…!」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「放てー!」
眼下のあらゆる方向からゴム弾に石火矢に礫が雨霰と撃ち込まれ、元原の体が海へと落下していく。
「丈児!!」
追って柚鬼も飛び込み水柱が天を突く。
この高さから落ちたとあれば、ひとたまりもないだろう。クレーンの頂上で臥吏は一人ほくそ笑んでいた。
「元原丈児、敗れたり…!」
群がる門自と鱗人たちから二人は無事生還できるのか。
この結果はゲート祭の開幕と共に明らかになるだろう。
そう、日本から遠く離れた異世界の地において。
- バスツアー感覚で異世界のどこのゲートにも行けちゃう大ゲート祭ってかなりすごいことなんだな。しかし正規の方法以外でゲートくぐろうとしたら一気にバイオレンスになるのか -- (名無しさん) 2016-06-05 08:43:25
- ヤンキーズとの最後の決戦みたいな意気込みで異世界行きを決めたのかな三兄弟。個人的にはオチムシャとイスガがどうなるのか気になるぞ -- (名無しさん) 2016-06-05 17:40:19
- 地球からの参加者結構多いよねコンテスト。クロトとシィは素直に応援したい -- (名無しさん) 2016-06-06 23:20:26
- 数名デート旅行気分だよねこれデートって感じだよね -- (名無しさん) 2016-06-21 03:26:35
- 元原もだけど三兄弟もかなり行き当たりばったりでちゃんとラムールに到着できるのかちょっと不安がある -- (名無しさん) 2016-06-21 13:00:42
- 口実や好機や何やらで目的は様々だけど世界を越えて多くの人を集めることができるというのは大会以外での意味合いも生まれそう -- (名無しさん) 2016-12-10 00:55:10
最終更新:2016年06月02日 00:37