「風俗と言っても捉え方も解釈の仕方も様々で人それぞれ。実際体験してみるか入念に調べるか…とりあえず書く自分が納得できる記事かどうかが一番重要なんじゃない?」
異種族ながら全力体験突撃取材による人間とは違った目線と感想で綴るレポが好評という同僚のアドバイス。
風俗には性欲求を満たす以外にもその土地や地域の文化風習が表されるものであると、他とは違う高尚めいたプライドを持って週刊誌の風俗コーナーの一端を担ってきたものの
今ひとつ目立たず部署異動も打診されてたことで、異世界の風俗取材という思い切った行動に踏み出すこととなったのである。
ドニー・ドニー、異世界でも北方にあるため滅多に暑くならず涼しく寒い土地。取材目当ての店はこの国、港にある。
大
ゲート祭の特別措置により淡路ゲートからひとっ飛びで来れたのだが、廃プラントを流用したデジマの存在感は圧倒的である。
思い思いに階段や梯子を昇降したり水力人力に作り変えられたゴンドラや貨物エレベーターで上下する多種多様な人混みに入り一路港を目指す。
寒風も吹き飛ばす人々の熱気と行き交う人の圧のせいかデジマの下層に着いたはいいものの妙に腹が減ってしまった。
とりあえずと目に付いた飲食店に入ってみたが、これまたもの凄い熱気と喧騒である。
一際高い背丈と肩幅ながらも目の隠れた可愛らしい
オーガの給仕に注文した後にバッグを開ける。食べる前に飲む。
「何だいその小瓶。料理が美味くなる薬とかかい?」
低く渋い声ながら周囲の声を貫いて耳に届く男の声。向かいのテーブルで皿の上の焼き魚にフォークを突き刺している海賊装束の
ゴブリンが口端をあげてこちらを見ていた。
ゴブリンを挟んで立っていた虎人とダークエルフの女性に金を渡すと立ち上がり、席を一緒になる。
溜め息をつくダークエルフを尻目に目を輝かしあっという間に山の様な注文を叫ぶ虎人。
「食べるために飲むというのか?」「成る程降りることのできない食の席というのもあるのか。まるで戦だな」
地球から持ってきた物品や仕事について話の華が咲くと持ち前の好奇心からかゴブリンはとても上機嫌になった。
「風俗の取材ってなると“あの店”に行くんだろう?店主に取材できるように言伝しておこうじゃないか。なぁに面白い話を聞かせてくれたお礼みたいなものだ」
そう言うとゴブリンは小さな木の割符を手元に置いて席を立つ。
次いで急ぎ席を立ち残った料理を腕に抱えてお付きの二人が追う。店の扉は
ノームの少女給仕が開き見送った。余程のVIPだったのだろうか。
水平線に太陽が沈みかけた頃に目的の店へ到着する。
大娼艦、通称“御殿”ウィルヴァルディ号。ドニー・ドニー一番の風俗店である。
以前ドニー旅行に行った同僚曰く、とても大きなキャバレーという感想であったが…灯りと音楽が賑やかに交錯し笑顔の主に男性達が店へと吸い寄せられるように歩いていく。
昼間とは違った熱気を感じながらおそるおそる扉に近づくと槍を持った魚顔の鱗人の女性が歩き寄ってくる。
「客か?」
品定めするように丸い眼球がぐるっと爪先から頭の上まで観察する。
取材の旨とゴブリンに渡された割符を見せると鱗人は踵を返し店へと誘う。
既に多くの客を迎え入れるために開いた扉から店内に足を踏み入れた瞬間に体が宙に持ち上げられる様な錯覚に見舞われた。
「一階は万人に開かれた遊興と憩いの場」
言われて見渡すと確かに客層は多種多様様々で思い思いの席に座り女性と語らい酒と料理を楽しんでいる。
高い天井に煌く大小の貝殻と水晶、灯篭。空間に満たされているのは果実か何かの香りなのか甘い。
時折飲み過ぎて倒れ込む客を見かけるが、従業員によって店の奥へと運ばれていく。と思えば何やら妖しい空気と共に部屋に入っていく者もいる。
店の中央には天井へと付き抜ける階段があるのだが、客は多けれどそれを登る者はほとんどいない。
「では上へ」
客が不思議がり眼差しを向ける中で登る階段。前を登る客は筋骨隆々の魚人と背は低いながらも気圧す空気を放ち続ける鳥、ペンギン人。
無骨ながらも身なりは整えられており紳士の様相である。
「二階は持つ者が登れる歓談の場」
階段を登りきると一階とは打って変わり落ち着いた薄暗闇。漂うのも香木かアロマを彷彿させる控え目なもの。
天井は低くなったが小奇麗な黒服で珊瑚の棍を携える大きな虹貝人の頭上にはまだ隙間がある。
二階は開けた一階とは違いブースの様に各個が区切られており話し声なども聞こえてこない。もしくは聞こえない様に話しているのだろうか。
気がつけば更に階上、三階へと続く漆黒の階段の前に導かれる。
海底の石材を特殊な染料で黒く染めているのだろうか、触れるとひんやりしている。
「では上へ」
誘われるも一段目に足をかけることを躊躇う何かを肌で感じてやまない。気が付けば周囲の客もひそひそとこちらを見ながら視線を向ける。
数々の取材では身の危険がある場所や相手に会ったこともある。しかし、それとはまた違った空気の壁が眼前にあるのを感じるのだ。
ええいままよと階段を一歩一歩登る。一階から二階へ上がるよりも低いはずなのに、体感する時間は倍どころではない。
「三階は選ばれし者の秘密の場」
灯りは更に押さえられるも不安や息苦しさは全く感じないフロア。二階とはまた変わり仕切りのない中にぽつりぽつりとテーブルが散在し、少数が座しゆっくりと酒を飲んでいる。
「店主はこちらでお待ちしております」
フロアの奥の奥。花崗岩のような石扉に散りばめられた七色の宝石。“店主在席”の札がかかる前へと誘われる。
「では」
とんとん拍子でここまで来たものの、いざ目的地を前にして動悸が加速しっぱなしである。
涼しげな店内にも拘わらず出る汗が止まらないのに己の小心さを実感して止まない。
しかしこの取材を成し遂げてこそ我が記者人生の大きな一歩であり、勿論退くわけにはいかない。
ごくりと唾を飲んで扉に手をかけ、ゆっくり力を込めて押す。
思ったよりも軽い扉は音無く開き、部屋の中からむせ返る様な甘気が溢れ出す。
「ようこそウィルヴァルディへ。貴方がネモチーの紹介にあった人間の記者ね?」
眼前にて船長椅子にこれでもかと優雅に腰掛けるはスキュラ女性にてドニー七大海賊団の一角を受け持つ女傑、“パルジェリラ”。
艶かしく照る褐色の柔肌の上でくねる斑紋。うねる蛸足はまるで催眠術師の指の様に惑わしてくる。
心を突き刺し心臓を鷲掴みするような視線を放つ紅瞳に負けじと一歩踏み出すと、鋭利な歯の並ぶ口が大きく微笑み上がる。
さぁ…取材の時間だ!
スキュラ海賊団頭目パルジェリラの取材、前編です
- 二階三階は一晩でおいくらまんえんかかっちゃうのか気になる… -- (名無しさん) 2016-06-21 02:49:39
- 同じ城郭級と言ってもデザインは千差万別なんだろうなぁ。ヴィルヴァルディはなんか優美な感じなイメージ -- (名無しさん) 2016-06-21 08:51:27
- 二階に登ってた客は鮫のヴさんとオルチかな?ドニーで秘密の話がしたかったらウィルヴァルディへ行け!とかありそう -- (名無しさん) 2016-06-21 23:29:33
最終更新:2016年06月20日 00:38