【カレー、いいね oh yeah】

香辛都市メッチャ・カーラーで開催されているカレーコンテスト。異世界のみならず地球からも参加者を募ったことでその規模はとんでもないものになった。
都市全体を巻き込む区画整理により建造されたコロッセウムさながらの会場ではあるものの、方々より集まった参加登録人数を一度に許容することは不可能であった。
が、しかし世界中から参加者がやってくるために到着や用意だのといった個々のタイムラグが発生することで自然と分散する形となった。
主催のカルアイノ氏も広く参加者を受け入れるため、多くのカレーを吟味するために急遽コンテスト開催期間を倍にして対応、
かくしてカレーコンテストは大ゲート祭の開かれるひと月と同じ長期開催となったのである。
陽の昇る夜明けから陽の隠れる夕刻まで開かれるコンテストは常に大歓声。そして今日も新たな参加者達が会場へとやってくるのである。

「朝陽と共に今日も始まりましたカレーコンテスト。太陽も真上に差し掛かろうとしている頃、続々とカレーが出来上がっては運ばれてきます!」
料理人以外も多く参加する今コンテストなので作られるカレーも様々であるが参加者の様相も様々であり観客を楽しませている。
中には気合いの入れ過ぎで大量のカレーを作る者もいて、審査員達に配られてもなお余る場合は観客へとよそわれるためさながら大延国の大食祭にも似た雰囲気になっている。
「審査の終わった組は片付けの後速やかに退出願います!次の組は係員の指示に従って入場して下さい!」
コンテストも始まって数日のため参加者の列は会場の外へと延びる勢い。東西南北の出入り口から続々と出入りする組。
「おや?何やら目立つ組が入って来ましたね?」
白いカッターシャツにスラックス、洗練されたサラリーマン夏スタイルに口に咥える禁煙パイポは料理に配慮しているのか凛とした人間女性。
同じく白いカッターシャツにタイトスカートは定番の事務スタイルに長い鼻と小柄な体でひと目で分かるゴブリン女性。
真っ赤な大きいタオルをこれでもかと広げはためかせ上空に観客席に見せて悠然と歩く二人。
「何やら文字が刺繍してありますね?商会か組合の名前みたいですが…」
「── あれは、“YAZAWA STYLE”なのだわ」

  ─z YAZAWA STYLE z─
 それは彼の世界であるチキュウのニホン国で生きながらにして伝説となり今なお健在である歌謡戦士YAZAWAの動きから果ては思想までを指し示す、正に“生き様”
 彼の歌を聞けば姿を見れば誰もが熱くなり魂を震わせ憧れを胸に滾らせるという
 一説ではその魂に響く歌声により人は感情の流れを抑えきれなくなり言葉は最小限に、ただ思いだけを発する様になるという
 その生ける伝説の数々のパフォーマンスをなぞり追う、それがYAZAWA STYLE

「赤、いいね」
「ただ歩いているだけ凄い存在感、いいね」
まるで鳩なワイヴァーンとノーム少女があっという間に呑まれてしまった。
二人はそのままゆっくりと歩き宛がわれた調理台へと到着するや否や、真っ赤なバスタオルを三度四度振り回した後にマントの如く背に羽織ったのである。
真っ赤なタオル地に縫い込まれているのは二人が勤める旅行社の名前である。
「おや?反対側の方角からも何やら出てきたのだわ」
「おぉっとー?これまた同じ赤い布を掲げての入場ですよー?」
若干ぎこちない足取り、というよりは尾ヒレ取りの魚人女性は白いコック服にコック帽子。そして精一杯ヒレ手を挙げて真っ赤なバスタオルを掲げている。腰には水精霊の作る水輪が浮かび彼女に湿気を与えている。
その後ろから薄手の和装、割烹着と後ろに伸びる鱗尾を揺らし俯き加減に小走りの鱗人女性。どちらかと言えばタオルは掲げるというよりほっかむりで顔を隠しているようにも見える。
「若干思い切り足りない」
「恥ずかしさ?逆にいいね」
先に入場した二人組、川島&ロブデが考案した社の宣伝も兼ねてのコンテスト参加にほぼ強引につられて参加させられた同社のアユとツアー宿泊先で交流のある宿の女中ゲッコウ組。
「すみませんゲッコウさん無理をさせちゃって。こうなったらさくっと料理を作って退場しましょう」
「はいぃ、こんなに大勢の前に出るなんて思ってもいなかったので…頭がくらくらします」
「大丈夫ですか?水分足りてますか?」
色んな意味で顔を紅潮させるゲッコウは、観客席から彼女の名を呼んでやたらとフラッシュをたきレンズを光らせ写真を撮るカメラマンにも気付かないようだ。
しかし、そんな状況にも関わらず彼女は料理に一切の手を抜かない。
暑いラ・ムールの環境下で鮮度を保持することのできる闇壺など用意できなかったが、都の朝市での彼女の目利きによる新鮮な食材の選別は凡そここに来るのが初めてとは思えないほどであった。
あっという間に砂河鯉の鱗をこけら落としたかと思えば鮮やかな銀弧がぱくりと臓物を切り出す。
既に血抜きを終えている切り身をアユに手渡すと水精球に潜らせる。瞬く間に残っていた砂が取り除かれる。
そうこうしている間にまな板の上には甘味の強い果樹葉と果物の皮が刻みがこんもりと山を作っていた。
砂漠の砂の下、黄土層から掘り出した粘土によるラ・ムール土釜はもう素材を受け入れるには十分に加熱されており、蓋を開ければ中に敷き詰めていた清涼なる香草の熱風が吹き出す。
そこに豪快に雪崩れ込む切り身と果の刻み。そして蓋は閉じられる。
慣れないラ・ムールの暑さと釜の熱のせいか、ゲッコウの額や腕に汗がどんどん滲んでくる。横からそれを素早く拭き取るアユがヒレ手を合わせると水精霊が水を粒子化させてひんやりとした風を送る。
真剣な調理の中でも時折笑顔を見せるゲッコウに思わず観客も審査員も胸をキュンと鳴らす。
湯気が同時に二つの釜より吹き出せば、先に片方を開けるとそこには茹で上がったオアシスにて育つ果樹実と砂漠麦で練り作った細麺が泳ぐ。
麺をさっとすくい水球に通し筆を揃える様にまな板の上へ、そして小刻みなリズムで短く刻んでいく。
アユが待ってましたと並べた小皿に分けられた麺の上にほどよくほぐした砂河鯉の果樹香草焼きが乗せられた。
「ふぅ、何とかできました」
「う~ん、ゲッコウさん私達何か忘れてませんでしょうか?」
二人顔を見合わせ小首を傾げる様子に審査員達も観客達も言いたいけど言えないもどかしさに地団駄もんぞり返る。
「あぁそうですカレーですよゲッコウさん!」
「そうでしたカレーでしたねアユさん」
盆の上に並んだ調味料、タレ、そしてカレー粉を入れた三つ房皿と一緒に料理が審査員の元へ。
「これは中々。甘い魚料理というのも珍しいですが三つの味を加えることで食べ味がガラリと変わるんですな」
「運河の魚は身を叩いたり洗ったりして砂を落とすのですが、あの様に優しく扱うのは滅多に見かけませんねぇ、しかも速い。全く身が崩れていないからこそあの蒸しにも耐えれるんですねぇ」
「白身の淡泊さに香草と果樹馴染む、いいね」
「彼女の料理とそれを出す相手へのやさしさに溢れる一皿、いいね」
「確かに料理としては一級品文句なし。しかし今回の“カレー”コンテストという眼鏡で見れば少しばかり非情な決断を下さなければいけませんな」
「うぅむ、氏もそう思いますかな。悲しいですな」
「そうですねぇ入賞は厳しいかも知れませんけども、あとで私の店から声をかけるとしましょうかねぇ」
「ほっほっほ、抜け駆けはいけませんぞ?」
「カレー、悲しいね」
「カレーだもんね」

審査員の評決を受け取ったアユとゲッコウは真っ赤なタオルを持ってそそくさと退場していった。
「ところで、まだあちらの組は調理を続けているのだわ」
「何やら長丁場になっているようですね?」
長いも長いはずである。野菜の皮を剥けばタオルを振り回し、肉を切ればタオルを放り投げ、鍋に水を張れば二人して調理台をぐるぐると回る。
何をするにしても大げさにバスタオルでアピールするのである。
「?切り分けた食材を皿にまとめたのだわ」
「二人はそのまま保存用の闇蔵の中に入って…出てきましたね。皿を置いてきたようです」
「うん?二人ともタオルを掲げたのだわ」
「…あれ?まさか退場でしょうか?」
「どうやら 今日の調理はここまで ということなのだわ」
「まさか!宣伝のために明日引き続きやってくるということなんでしょうか?!」
「多分明日どころじゃないずっと来るかも知れないのだわ」
やりきった満足げな表情で入場と同じように真紅を掲げ退場する二人。
「目的、優勝じゃない」
「商魂、たくましいね」


アユさんゲッコウさんは料理大会だったらいいとこまでいけていたかも知れません
川島さんロブデさん両名は経費が続くその後三日くらい粘って普通のカレーを出して帰ったのかなぁと

  • 世界が注目する大会なら宣伝目的での参加も大いにありえるかー。やり方次第だとダメージ受ける可能性もあるな -- (名無しさん) 2016-07-13 12:35:06
  • ゲッコウちゃん健気kawii!E・YAZAWAなら異世界でも通用しそう -- (名無しさん) 2016-07-13 16:05:47
  • 無言でドヤ顔しながら広報している川島ロブデが浮かんで吹く -- (名無しさん) 2016-07-14 07:51:01
  • 美味しい料理じゃなくて美味しいカレーをつくらなきゃいかんのか惜しい -- (名無しさん) 2016-07-22 22:24:30
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最終更新:2016年07月13日 03:46