異世界は北、海に島群れる
ドニー・ドニーの中のどこかにその里はある。“白ノ郷”。
長命で超力で高名な白鬼ハクテンが住まう里は以前は隠れ里とされ立ち入ること極めて困難な場所であったが、
大
ゲート開きし後にはドニー・ドニーにも多くの訪問者があり、周辺地域での辺境事故や遭難者の救助や帰還などに尽力することで多様な者が訪れることとなっていったのである。
里の中には現状を危惧する者もいるが、長であるハクテンが外に対して柔和であるためかじわじわと認知度が広がっている。
そんな里の日々は今日ものんびり朗らかで ───
「メルカ、メルカはおらぬか~」
里で一番の屋敷、見目は少女の白鬼人ながら長き双角と計り知れぬ鬼力を持つ里長ハクテン。長い縁側を昼の陽気に照らされながらゆっくり歩き名を呼ぶ。
「何か御用でしょうか?」
縁側から一望できる庭で洗濯物を取り込んでは新たな洗濯物を干している白鬼人の…胸の大きな少女が振り返る。
「うむ、毎日世話ご苦労じゃぞ。今日はそんなメルカに贈り物を、と思ってのぅ」
「贈り、物ですか?何でございましょう」
メルカの返事に鼻の穴を広げ手を組み反り返るハクテンの傍にまるで狸の風精霊が包みを持ってふわふわ飛んでくる。
「ほれ、開けてみるがよい」
洗濯物籠を一先ず置いてやれやれという顔で小さな包みを開いた。 ── 途端、
「こっこれは!」
それは本、一つは手ごろな大きさ、一つは少し大きなしかし薄いもの。
「今朝の早便に載っていたatumori先生の新刊“異界妖刀伝”と…地球通販で売り切れで諦めていた蔵元先生の薄異本の最新刊ではありませんか!?」
地球と異世界とでの情報のやり取りはまだ大きなタイムラグがある。なので地球の最新情報を得るには難く、人気のある最新商品は得るも難いのである。
世界間交流が進み地球に興味を持つ異種族が増えていく中で、そういった事情から泣く者は多いのである。
「メルカが欲しいと言っていたのを思い出してのぅ、大ゲート祭で日本に帰省した山戸森に頼んで買ってきてもらったのじゃ。
ちょいと支度金ははずむことになったが薄異本の方は通販在庫がないので本店まで行ってもらい店頭在庫から買ってもらってきたのじゃ」
「ありがとうございますハクテン様!仕事が終わったら読ませていただきます」
「うむ。喜んでもらえて何よりじゃ。 …それはそうとメルカや?」
「はい、ハクテン様何でございましょうか?お酒以外の御用ならお聞きいたします」
歓喜から一転、いつもの冷静な表情で応えたメルカに頬を膨らませるハクテン。
「今日でなくともいいのじゃ。ちぃとばかし一日分の酒量を増やしてはもらえんかのぅ?」
「…そう言うので今年になってもう五回も増やしたではありませんか?酒蔵の方でもハクテン様にお出しするからにはとその日一番の酒を用意していのですよ?
酒蔵の働きも日に日に忙しくなり腐霊の数も増える一方と聞いております。 あまり数が増えますと酒蔵の方で御せなくなってしまうかも知れぬでしょう」
「いやいやまだ大丈夫じゃろう。あの子の力なら酒蔵をもう一つ増やしてもお釣りがくるぞぃ。腐霊にも好かれておるし万事安泰じゃぞぃ」
「だからと言ってハクテン様が飲みたいがために無理をさせるのはいけませんでしょう」
「ぐむむぅ、確かにそうじゃのぅ」
「…でも、無理しない内で少しばかりお酒を増やせないか相談してみましょう。…これっきりでございますよ?」
「ウム!」
満面の笑みのハクテンは、今日の修行のために鬼力に悩む鬼人が集うハクテン修行道場へと向かうのであった。
「変に断ってまた酒造蔵をこっそり破られては困りますし…頼めば無理をしてでも応えるでしょうし言い方を考えておかなくてはいけませんね」
一通り家事を済ませたメルカは輝く二冊の書を読むのをぐっと堪えて酒造蔵へと向かうのであった。
白ノ郷、ハクテン屋敷の一幕を
- それなりに長として仕事してそうで実は頭の中は酒で満たされているハクテン! -- (名無しさん) 2016-07-20 20:46:18
- 長い人生を生きていくための目的が酒だとしたらそれがないの消えているも同然なのだろう。我慢できないほど飲みたくなるのも少しは納得できる -- (名無しさん) 2016-07-22 19:11:29
- メルカちゃん真面目だけど趣味は歳相応?酒蔵のあの子の潜在能力は凄いのか -- (名無しさん) 2016-07-22 22:26:07
- 全然隠居とかじゃない生活をエンジョイしているんだなハクテン様 -- (名無しさん) 2016-08-28 19:07:48
最終更新:2016年07月20日 03:52