【薬草を買いに行こう】

ニシューネン市の中心部からやや外れた小道。
赤煉瓦通と名付けられたその街路の奥にひっそりと佇む店がある。
薬草を専門に扱う店『傷に石二分草八分』だ。
おそろしく頑丈な玄関戸を開けると、ツヤツヤに磨き上げられた床と
巨木からムクで削り出されたカウンター、そして巨大な棚と
そこにぎっしりと並べられた薬瓶と薬草を収めた箱が目に飛び込んでくる。
店主は御年90歳を越えたノーム
薬草学はエルフの専売特許ではない。そういう事のようだ。

「どもー。ちぇーす。
 傷薬50個ください。多分それくらいいる」
「適当すぎだよ。
 それに何に使うか用途を伝えないとダメだよ」
「その前に50個は買いすぎなのだわ。
 予算も考えるのだわ。
 金勘定が苦手にもほどがあるのだわ」
店内の静けさを急に珍妙な3人組が奪った。
耳の短いエルフと普通のエルフ、それにゴブリンの3人組だ。
「用途なぁ・・・
 まずは切り傷に擦り傷だろ。
 それに火傷の薬もいるかもな。
 これから火竜の卵をかっぱらいに行くんだから。
 おっと、いただきに参上するんだからな」
「言い換えても意味ないだろ。
 あと、鎮精剤が欲しいな。それと湿布も」
「胃腸の薬が必要なのだわ。
 ウチは誰かさんみたいにお腹が丈夫じゃないのだわ」
「うるせぇぞガキども。
 どうせ薬草の一つもわからんくせに。
 既製品でも買ってさっさと出て行け」
手にした新聞から顔を上げ、ノームの店主は酷く不機嫌な声を出した。
その言葉を聞いて、エルフが眉間にしわを寄せて言いだした。
「えっと、じゃあ擦過傷用に乾燥ニングルとフヒトの種と皇樹の根を。
 火傷にはナモ実とジザ粉を。
 鎮精剤に妖練樹の実と雫。
 胃腸薬は…チキューからセーロ丸を持ちこんでるからいらないや」
エルフがつらつらと注文を始めると、ゴブリンが懐から算盤を引っ張り出して弾きはじめる。
「ここの所、海が穏やかで積み荷が多く届いているのだわ。
 おとといも随分と商船団が入港したのだわねぇ。
 薬草も少しダブついて値崩れしたのは知っているのだわ。
 根拠は?とか聞きたそうな顔をなさっておいでだけれども、はい新聞。ここ見るのだわ。
 パチパチのパチ。まあ少しイロつけてこんなモンなのだわ。
 これ以上は銅貨1枚も出さないのだわ」
「・・・好き勝手言いおってからに」
「なあなあところでノームの爺さんよ。
 それ、ネモチー海賊団で取り仕切ってる竜馬競争の予想だろ?
 露骨な八百長でも無ぇ限り、八番札の『エレシエデルン』で決まりだぜ」
「へぇ。メノー、そんなのわかるんだ」
「毎日のように飛竜に乗ってれば、筋肉のハリだの仕上がりだので見たらわかるようになるんだよ」
「う・・・むん。
 そうか。七番札か八番札かで迷っとったが。
 ほれ出番じゃ。仕事せんか」
ノームが足元の箱を蹴飛ばすと、風精霊がふわりと吹き上がってきた。
「八番札に賭けてこい。ほれ」
風精霊はノームからラ・ムール金貨を1枚受け取ると、ふわりと飛び立った。
「それで、薬はこの価格で売ってくださるのですわね?なのだわ」

笛野瑪瑙とイスズ・サレンスカ、それとアリョーシャ・ギョーシャの3人は、
『傷に石二分草八分』で買った薬を山ほど抱えて赤煉瓦通を歩いていた。
「メノーに竜馬競争を当てる特技があったなんて知らなかったよ」
イスズが心底感心して言うと、メノーは笑って言った。
「いや、あれ絶対に当たらねぇから」
それを聞いたイスズが絶句すると、フンと鼻を鳴らしてアリョーシャが言う。
「ネモチー海賊団が仕込みなく賭場を開くわけが無いのだわ。
 皆が仕上がりを疑わない竜馬を負けさせて大儲けに決まってるのだわ。
 そもそもレンキューだのナツヤスミだのでしか来ないこの男より、
 真面目に飛竜牧場を経営してるウチらの方が目が肥えてるに決まってるのだわ」
「言われてみると・・・
 え?じゃあメノーはウソついたの!?
 何でそんなひどい事するのさ!」
「薬を安く買いたかったから」
「当たると信じてウチらに安く売ったあの爺さんが悪いのだわ」
そう言うと2人は酷く悪い顔をして笑った。

『なお、薬屋の店主の買った竜馬競争の券はちゃんと当たったのだわ。
 密かに話をつけたのだわ。ヤンチャな主人を持つと苦労するのだわ』
係留された宿屋の竜小屋で、ワナヴァンが密かにため息をついた。


  • RPGにあるような道具の売買や所持を実際にするとなると量や大きさとか如実に反映されてくるよね。異世界の賭け事ってちゃんと成立させるために取り立ても支払いもがっつり厳しそうだ -- (名無しさん) 2016-11-03 07:18:20
  • 本当に効き目がありそうな素材の名前がイイ。日本円でどれくらいなんだろう総額 -- (名無しさん) 2016-11-08 00:36:50
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最終更新:2016年11月03日 07:07