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【新世界航路】

離陸準備のラッパが高らかに鳴り響く。
ラッパは乗客や乗組員に向けて鳴らされるのではない。
今回の旅の主役、風の精霊たちに対して呼びかけているのだ。
ここオルニトの飛空艇発着場は、離陸準備に駆け回る乗組員たちでごった返していた。

『飛空艇』
失われた古代技術の復興。
オルニト・ルネッサンスの輝ける精華。
二つに割った落花生の殻のような船体と透明な回転翼。
軽量で極めて頑丈な赤銅色の船殻がギラギラと陽光を反射している。
古代遺跡から発掘された船殻の特殊金属は、現代の技術では未だ再現不能な遺失技術の一つであった。

そして乗客もまたオルニト・ルネッサンスの申し子だった。
遥かなる『新世界』(散文的な精神の持ち主は単に『未踏破地域』と呼ぶ)を探索すべく編成された『ドクトル・ウンデルホフ&アインゼル秘境探検隊』。
飛べる飛べないを問わず全オルニトから選りすぐった俊英中の俊英たち。王族から旧支配地(他国の連中は事もあろうに『新天地』などと呼ぶ)のアウトローまで揃った多彩な顔ぶれ。
隊長のウンデルホフ博士(コンドルの鳥人)とアインゼル博士(ハシブトカラスの鳥人)は主導権を握ろうと事あるごとに口論しているが、飛空艇の中では唯の『お客さん』である。

飛空艇の乗組員もプロフェッショナルの集団である。
風の精霊のご機嫌を取ることにかけては彼らの右に出るものは居ない。
高らかなラッパの音に興味を惹かれた風の精霊たちが飛空挺の周囲に集まり始める。
風の精霊は管楽器の音がお好みなのだ。

タイミングを見計らって、オウムの機関士がよく響く声で口上を述べ始める。
オペラか浪曲のような独特の節回しで述べられる口上の中身は、ひたすら褒め言葉の洪水だ。
得意のマシンガントークで風の精霊たちをおだてて、おだてて、おだてまくる。
怒涛のおだてに乗せられて風の精霊力が活性化を始めた。

すかさず助手の少年たちが空中に色鮮やかな小粒の砂糖菓子をばら撒く。
風の精霊たちがわっと群がり、大樽一杯はあった砂糖菓子が空中で次々と消えていく。
ラッパで興味を引き口上とお菓子でご機嫌になって貰ったら、次は具体的な『お願い』の番だ。オウムの機関士に代わってアホウドリの航法士が口上を引き継ぐ。
これまた独特の節回しと朗々とした美声で、目的地、航路、天候予想、乗員乗客を含む総重量などの必要情報を精霊たちに伝達している。
精霊たちはうんうん頷きながら砂糖菓子を頬張っている。

開始のラッパからから、既に15分が経過した。
心地よい旋律と口上、カラフルな砂糖菓子で最高にいい気分になった精霊たちは、それぞれが小さな風の渦となって猛烈な勢いで回転を始めている。
船体の両側面に具え付けられた巨大なホルンのような吸風口が、回転する無数の小さな渦を束ねて、巨大な精霊力の渦に育て上げる。
吸風口から船体内部に続く送風管が精霊力を機関部に送り込み、『恒転』を意味する表義文字が安定した力の回転に変換する。

大気がざわめき、船体が微振動を始める。機関部に巨大なエネルギーが充填されていく。
船体に備え付けられた無数のプロペラが陽光を反射しながらゆっくりと回転を始める。
地面と水平に張られた大小の三角帆が上方に向かって膨らみ始める。
今や風の精霊力は限界まで集められ、束ねられ、高められていた。

天候よし。
動力よし。
乗組員配置完了。
精霊さんのご機嫌極めてよし。

離陸準備は整った。
フクロウ船長のタクトに合わせて全乗組員と両博士を含む全探検隊員が声高らかに『お願い』を唱和する。

「精霊のみなさん、道中よろしくお願いしますよ!
 さあ参りましょう、遥かなる『新世界』へ!」

次の瞬間、無数の精霊たちの笑いさざめく声とともに、飛空艇『にわとり号』は天高く浮揚した。



end











●あとがき
 読んでくださった方、ありがとうございました。
 この世界の飛空挺はどんな感じかなと思ってつらつら書いてみた小ネタです。
 『ドクトル・ウンデルホフ&アインゼル秘境探検隊』の行く末はネタができたら書くかも知れません。
 (船の名前はかっこいいのが思いつかなかったので過去作品から使い回しました…)

  • うぽつです。最近のはっぴー押しの風潮のせいか、最後にはっぴーが起こした暴風で台無しオチかとドキドキしました -- (名無しさん) 2011-10-26 00:28:22
  • 何とも異世界らしい精霊の力を受けた飛空艇でした。飛び立つまでが主題と一風変わっていましたが精霊とのかかわり方が丁寧で楽しかったです。にわとり号の行く末も気になりました -- (名無しさん) 2013-06-12 18:52:19
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最終更新:2011年10月25日 23:23