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【クリスマスをミズハミシマで】

 異世界交流も試行錯誤紆余曲折あって進んだ今現在、世界間の移動も旅行も融通が利くようになりまして。
 ここは日本でも交流特区と呼ばれる世界でも有数の交流先進区であるポートアイランド。
 そのポートアイランドのとある公共団地に暮らす異種族家族が一つありまして…

(りん)くん、異世界便が届いてるわよ?ミズハミシマのイシダイ村、麟くんの実家からみたい」
「本当?うわっオヤジからじゃないか。ついに日本に手紙を出してくるまで進化したのか… で、何々?」

 『今日、磯で海猪の大物を仕留めたので御馳走してやろうなのでこっちに家族皆で来い。肉皮を売るついでにゲート近くの浜町で宿を取っているのでできるだけ早く来るように』

「突然も突然すぎるだろう…手紙出してからこっちに届くまで何日かかるんだ?って話だよ」
「今はミズハミシマのあちこちの島に異世界便のポストができたって聞くわよ?」
 日本とミズハミシマは両世界で見ても異世界交流には意欲的であり、日々これ進歩と言わんばかりにあれやこれやと施設や制度が試行錯誤実施されている。
 渡界フェリーの中も今やミズハミシマ土産市と言わんばかりの色とりどりな物産模様で盛況である。
 まだ手紙に限定されてはいるが、竜宮城により設置された青いポストは毎日“風乗り”“波乗り”が回収で廻り、
 それらを渡界フェリー乗り場にある日本郵政公社ミズハミシマセンターに届けるのである。そして日本へ届く。
「来いっつってもし行かなくてもどうせ年始あたり押しかけてきそうだし…これからすぐだとクリスマスに被るんだよなぁ」
「去年はクリスマスに出勤だったから今年は休みは取れるんでしょ?私も一応休みの段取りでいたし、ミズハミシマ行きいいんじゃない?」
地球の就労にも慣れたとは思うがこの世界でも日本は特によく人が働く国だと言う。カレンダーの赤い休みの日も会社の意向でお構いなしである。
年の終わりと始まりが忙しい職業だと言うのは理解しているが、それでも去年は尻尾に火が付くほどの忙しさだった。
その甲斐あってか今年の年末年始は休みがもらえる番なのだ。なので家族でクリスマスを、と考えていたのだが。
「仕方ない、行くかぁ」
「決まりね。渡界フェリーのチケットとか段取りするね。 明十(あきと)~鱗じーじに会えるわよ~楽しみね~」
「りんじーじあえるん?みじゅはいくー」
 交流特区の住民は異世界交流政策の先駆けとして様々な措置が実施されている。
 異世界からの滞在者含む全ての人に対して登録が義務付けられており、何をするにしても速やかに管理バンクと連動するのである。
 煩雑な行政手続きを無くすという点では成功と言えるのだが、ゲートを越えるフェリーの発着タラップを登り乗った時から、交通機関の切符を買った瞬間になど
 どの様な者がどういった行動を取ったのか全て把握されているのだ。
 なので当人に問題がない限りはスムーズな移動なり買い物なり手続き申請などが行えるのである。

 クリスマスシーズンから年末年始は、まだそれぞれの世界で過ごすのが主流であるのか渡界フェリーの乗客も満員というほどではなく八割程度。
 しかし、この時期に異世界に行こうとする人々は大荷物だったり覚悟を決めた顔をしてたり一人だったりすることが多いという。
 元は車両運搬も兼ねたフェリーだったのを人員輸送中心に改装したためにそのキャパシティはかなりのものである。
 一種の外交特区にもなっているフェリーの中は日本とミズハミシマのお土産や物産店が中心に並ぶまでになった。
 乗客それぞれが思い思いに準備を行う。荷を確認したり為替で通貨を用意したり談笑したり、これまでの交流の成果の現れの様にも見える光景である。
 そしてフェリーは淡路ゲートを通過しミズハミシマの海へと出る。

「浜町で待ってるなら港町はそのまま通過だなー」
「港町は去年のGWに回ったからいいんじゃない?義父さんを待たせるのも悪いし脚籠でも乗って急がなくちゃね」
 砂浜が続く海岸線が途切れ整備された港、ミズハミシマでも最も大きい港町。ゲートへの発着場として竜宮城が整備と発展に力を注いだ成果でもある。
 港町からは海之入を通じて海中の町や竜宮城へ、内陸を進み山へと登るとかつての鬼人達の総本山、白鬼の社がある。
 海岸線沿いにはいくつもの町や村が点在しており、何処も船の往来や商売などで活気溢れている。
「小さい子のお代はサービスだよ。大人二人分で浜町までだね」
 港町の広場には乗獣駅があり、人や荷物など様々な要望に応える色々な乗用獣が出発に備えている。
 安定と力で言えば四足だが、速度となれば二足が強い。特に鳥類。
「鳥ではないのだわ。羽毛竜なのだわ」
「自己紹介はいいから、そら出発だぞ」
 クッションの敷いた鞍は人間の大人であれば三人まで乗れるゆったりとしたもの。揺れる道では手元の綱を握る。
 鞍の最後尾はちょっとした升席のようになっており、幼児を抱いたままでも安心の乗り心地である。
「とr…ではなくて羽毛竜って喋るのね、すごい」
「まァ羽毛竜と言っても種類は多いですからね。こいつは特別というか何というか…駅で客待ちしている間に人の会話を聞いてたら勝手に喋れるようになってたっていうか…
今じゃァ勝手に出前まで注文して飯食うくらいですぜ」
「見た目は脚の長い大きな鳩なのに凄いな」
「はぁとはやいはやい」
「御所望とあらばギアを一つ上げるのだわ」
 その後、奮起した鳩もとい羽毛竜の俊足もあってか昼に港町を出てから小一時間でひと山越えて目的の浜町に到着する。
 斜面も荒れ道も軽快に走る背の上で揺られる幼児は終始はしゃいでいた。

鱗人以外にも獣人の往来ともよくすれ違う浜町は、あちらこちらから海産物が発する潮の香が漂ってくる。長く地球で暮らしているとなお一層懐かしい郷愁だ。
この浜町に旅人などが宿泊できるような宿は一件しかないので迷うことなく目的地に到着した。 …が、手紙を出してからずっと待っているのだろうか?
「物々交換中心で特に金が回ることのない故郷だから何泊もするほど持ち合わせないだろうし、行き違いになるかも知れない」
「あっ、鱗くん義父さんじゃない?あそこのテーブル」
嫁が指差したのは食堂になっている宿屋一階のカウンター席。まだ夕方だと言うのに盛大に料理をかっ食らいながら豪快に酒を飲んでいる頭鰭をひらつかせている鱗人。
「おっ、オヤジぃー!」
「おぉ!やっと着いたか!待ちわびたぞぉー!」
青いはずの顔は真っ赤っ赤。どう見ても酔っ払いである。まさかずっと飲み食いして待っていたというのか!?
「お~お~(かさね)さんもお綺麗で…明十ちゃんも久しぶりじゃのぅ~かわええのぅ~♪」
 手招きして席へ誘う父親に唖然とする麟だったが、すぐにはっと気付く。
「オヤジ!待ちわびたって今日までの宿代とかどうしたんだ?!まさかツケとかじゃないよな?!」
「何を馬鹿言うかぃ!借りは作っても貸しは作らんのが我が家の家訓じゃろがぃ!ニコニコ毎日現金払いじゃぃ!」
「どっからそんな金が出てくんだよ!…まさか実家や畑売ったのかよ?!」
「流石にそれはないでしょ麟くん」
「じーじかおあかいー」
 酔っ払いは子供用の飲み物と酒を追加注文するとカウンターの上に金袋をドン!ジャラ!と乗せて見せる。
「先週まで近くで“鯨都”が催されておってな、そこで捌いた海猪を売ってたら竜人がえらい金額で“海猪の牙”を買ってくれてのぅ ──

 「これはいいものだ…よし、これで買おう」
 小さい褐色の竜人女性は有無を言わさぬ重量の金をオヤジに見せる。その後ろで同行している人間の女性が目を丸くして驚く。
 「ミレイさん、それってそんなに高価なモノなんですか?」
 「うむ。ここまで大きくなった牙は相当な年月を海を掻き分けることに励み、海の栄養や水精霊の何やらを多量に染み込ませているのだ。
 合わせて猪突猛進で名高い海猪の力の源が凝縮されていると言われていてアッチやソッチで大活躍の薬の材料にもなるのさ」
 「成程、だからよそに買われる前に問答無用で買っちゃうと」
 「ああ~素晴らしい色艶と硬さ。よし、今夜早速試そう」

── という訳で思わぬ大金が入ってきたんじゃぃ。海猪様様じゃぃ!」
「海猪ってあれでしょ?私と麟くんが初めて出会った時に麟くんが釣ろうとして逆に追い回されてた猪に魚の体と尻尾の」
「はっはっはっ!思い出すのぅ、まさか地球のシュウガクリョコウのガクセイだった女子の放った矢で馬鹿息子が助けられて一目惚れしてそのまま地球にリュウガクして追いかけたんじゃったな」
「いややめてオヤジやめて思い出すから恥ずかしいから」
「練習用の矢だったけど水と風精霊さんが助けてくれたから何とかなったのよね~、懐かしいわぁ」
「じーじやっつけたん?」
 幼児の手を振る指先をあやしながら酔っ払いが自慢気に語り出す。
「そうじゃぞぉ~?あの時のものより数倍でっかいのをやっつけたんじゃぞ~?じーじは凄いじゃろ~?」
「数倍って俺を追いかけたのでも4か5メトルはあったろ?フカしてんじゃないって」
「何を言うかぃ!見よ!この“鼻拓”を!」
 ばららっと広げて見せたのは直径2メトルはあろうかという豚猪の鼻を墨付けて形取ったものだ。流石にこれには納得せざるを得ない。
「いや本当かよ…って絶対無理だろこんな大物をオヤジだけで仕留めるってよ!」
「いやまぁ実は磯を通りかけた小舟に乗ってた鎧の鱗御仁に助けられてのぅ ──

 「いやはや助かりましたわぃ。しかし見事な剣の腕前で、あの巨体を真っ二つにしてしまうとは!惚れ惚れしましたぞぃ」
 「いえ、大事なくて何よりです。これからはあまり無茶をせぬように願います」
 金の鎧兜に着物姿のいかつい碧の鱗人の男は手柄を誇るでもなく剣を収める。
 「アシュさーん、出発しますよー」
 「ほっほっほ。人助けは終わったかの?」
 「ツキヤマ老、ゲッコウ嬢すみません、今参ります」
 そそくさと去ろうとした鱗人の尾先を掴み徳利を差し出す。
 「本当は海猪を捌いて馳走したいのですがどうやらお急ぎの様子で。せめて村自慢の海葡萄酒をお持ち下されぃ。機会があればいつでも立ち寄り下さい、お礼させてもらいますぞぃ」
 「これはかたじけない、では有難く頂戴します。では!」

── という大立ち回りがあったんじゃぃな」
「オヤジ逃げてただけじゃないか?」
「釣り上げたのはワシじゃぃ!」
「怪我がなくてよかったですね。それでこれからどうするんですか?三日ほど予定を立ててきましたけども」
「うむ!村に捌いた肉が幾らかとってあるでの、ワシが腕をふるって馳走させてもらうぞぃ!土産も用意してあるでのぅ」

 ひょんな手紙からクリスマスをミズハミシマで過ごすことになった家族一行。
 雪は降らねども、温かい団欒が舞い降りたのでした。

「オヤジ、年明けは日本に来るんだろ?」
「うん、行く」
「じゃあその時に肉持ってこりゃいいじゃんか!」
「孫に会いたかったんじゃ~来年まで待てなかったんじゃ~! それに生の食い物は地球に持っていけんじゃろ?」
「あっそうだった」


異世界ですごすクリスマスを想像

  • ナマモノ輸出入だめか。異種族間で子供が産まれる時は父母どっちの遺伝が優位なんだろう?? -- (名無しさん) 2016-12-28 08:29:54
  • 異世界便、そういうのもあるのか…やっぱクロネコヤマトなのかな… -- (名無しさん) 2016-12-28 11:12:45
  • ミズハミシマが日本との交流に意欲的だから手紙配達が整備されたんじゃないかなぁという印象。陸を走る鳩ヴァーン想像して吹いた -- (名無しさん) 2016-12-28 17:05:32
  • ちょっとしたシェアにわむ。一体いくらで売れたんだろう>海猪の牙 -- (名無しさん) 2016-12-29 19:03:46
  • 生鮮食品の世界間移動は禁止というところに妙な説得力を感じた。実家がミズハミシマと日本なら行き来も難しくはないか -- (名無しさん) 2017-01-19 09:03:29
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最終更新:2016年12月28日 03:26