【ドラゴンレポート】

ここは交流特区のポートアイランド。 高校の頃に引っ越してきてから好きでもない勉強を頑張ったのは、そう大学に合格するためだった!甲斐あって合できた!
大学生ともなるとどんな人も種族も分別なり常識なり身について節度ある交流ができるというもの… 異種族混じってのキャンパスライフたのしー!
…とバイトだサークルだと楽しみまくってたらレポートの提出を失念し単位失効の危機に陥っていた。猶予は一週間!
行こうミズハミシマ!異世界の生物調査研究のレポートで乗り切るんだ!ドラゴンとかいいな!


「ドラゴン?あぁ竜のことか。 んなモンこんな人里にいるわけないって」
「ぬ、っく…」
駆け込んだタコフェリーで即ミズハミシマにやってきてすぐに色んな動物を扱っている魚顔のおっちゃんに突撃取材して轟沈。
町中をドラゴンが飛び回って火吹いてたらそりゃ大騒ぎだ当然だ今想像した。
「それでもドラゴンみたいな動物とかいるんでしょう?いないとレポートのインパクトが薄くなるんですよ!」
「うわっしがみついてくるなって!竜なんてのは卵から孵してもなつく前に食われるかも知れない化物だから飼うだの扱うだのする奴なんて滅多にいないって!」
「そうなのだわ。今や強くて凶暴な竜よりも親しみ易く頼れる隣人な亜竜の時代なのだわ」
魚っさんの後ろの幕より顔をひょこっと出してきたのは大きな大きな鳩まるで鳩。しかしこの鳩喋っているのだ人語を流暢に。
「荷獣界でも乗獣界でも今や引っ張りだこのスターは私たち亜竜種なのだわ」
「亜…竜?竜の親戚ですか?」
「まぁそんなところなのだわ」
「そんなところっておめぇは鶏冠だか角だかわかんねぇモンが頭にちょいと生えてて足が鱗で覆われてるってだけじゃねぇのかよって。
それでおめぇ竜の親戚だって言えるのなら世の中竜の親戚だらけだって!」
「私はまごうことなき亜竜なのだわ。巷では羽毛竜と呼ばれているのだわ」
翼が幕を開く。全身が露になった羽毛竜は丸っこい鳩の体に長い脚を生やし起用に胡坐をかいて座っている。
「私は羽毛竜の中でも地を走る種なのだわ。翼は飛ぶには小さいのだわ。気合と根性と風精霊がいれば滑空くらいはできるのだわ」
「今は足の怪我を療養中で休んじゃいるが食う量は変わらねぇもんだからこっちはたまらないって!
他の乗用獣を使っちゃいるが…早く足治せって!」
「頑張っているのだわ。でももう少し豆と魚を欲す、なのだわ」
漫才だか口論だか分からない一人と一羽のやり取りを眺めつつも驚きの事実を書き記す。喋る鳩!ではなく亜竜!
「亜竜と言えども喋れる種は限られているのだわ」
「心を読まれた?!」
「顔にも紙にも書いているのだわ。私たち羽毛竜の発声器官と舌は言葉を喋るのに適している形なのだわ。あと頭も良いのだわ」
「日に日に喋る中身が豊富になっていくんだって。驚くって」
「喋れるということは言葉を理解するということなのだわ。後は日々それらを学んでいくのだわ」
「魚っさん、羽毛竜は最初からこんなにぺらぺら喋るんですか?」
「うーん、そんなことはないと思うんだがなぁ。急に喋りだしたと言えばそうなんだって」

「この港町にいるう羽毛竜が喋れるようになったのは【導主】のおかげなのだわ」

「【導主】?」
「なんだそりゃ初耳だって」
「あれはとても晴れた日、空から一羽の羽毛竜が舞い降りたのだわ。飛行する翼種であるその羽毛竜はエルフと人間を従え私たちが食事をしている真ん中。
高らかに私たちの言葉と人語を混ぜながら目覚めよ立ち上がれ誇りを胸にと語りかけてきたのだわ」
羽毛竜が言うには、その翼種は丁寧に分かり易くボイストレーニングから発声のコツを集まった羽毛種へとレクチャーしたのだという。
ある時は町の乗用獣の集合厩舎で、ある時は船着き場の海用獣の網房で、多くの走種と泳種へ会話ができるように施して回ったのだと。
程なくしてつたないながらも喋れるようになった羽毛竜達は急速に人の思考に近い行動を取るようになり、
労働環境の改善だの食生活の向上要求だの夜は酒だの出前を取るだの好き放題のやりたい放題になっていったのだという。
助かったのは放題だらけではあったが乗獣としてはそれまで以上の働きをするようになり、羽毛竜を扱う業者の需要が高まったということだ。
「私たちは【導主】に教えられた言葉を更に多くの同胞に広めていくのだわ。それ即ち種の進化なのだわ」
 …だわ …だわ だわだわ…
はっと気が付けば周囲にいる羽毛竜も同じ言葉使いで会話しているのである。怖い!何か怖い!
「今夜は焼き豆と泡泡酒が飲みたいのだわ」
「いいからさっさと休んで脚治せって!」

ふとした切っ掛け一つから鳩が人語を喋るようになる。異世界には生物進化の大いなる可能性が眠っているのではなかろうか。
重要なのは「変わろう」とする気持ち、心を持っているかということではないかと、目の前の事実から思うに至ったのである。
そしてその可能性は異世界だけなのであろうか?地球には? まだ進化の可能性は残っていると私は思うのです。

「…まァいいでしょう。レポートは合格です。 異世界に行って何だかんだと見てくるレポートは多いですが本当に見てきたことだけを箇条書きにするものが多いのです。
君のレポートはそこから一つ先に進んだものだと判断しました。次からはもっと余裕をもって作成に臨んで下さい」
とんがり帽子で豊かな髭を蓄えたノームの老教授が少し呆れた表情でレポートを受け取ると、生徒は安堵の溜め息を漏らし教員室を後にした。
廊下に出た彼は早速小躍りしてサークル室に向かっていった。
彼は今回を教訓に進化するのであろうか?いや、今夜のコンパで楽しんだ後にはそんな気持ちも酔いと共に消えてしまうのだろう。悲しい悲しい歴史を彼は繰り返すのだろう。


  • 全ての始まりはワナヴァンだったんか -- (名無しさん) 2017-04-08 17:13:58
  • 異種族と異世界の生物の垣根は人間と動物よりも低いのかもね -- (名無しさん) 2017-04-08 20:29:58
  • 翻訳加護じゃなくて自力発声なんだなすごいな -- (名無しさん) 2017-04-11 18:29:06
  • 何かよくわからないがしゃべるんだからしゃべれるんだろうというのが異世界パワー -- (名無しさん) 2017-04-22 05:49:14
  • 鳩っぽい生物がだわだわ言ってたら怖いってのは分かる。知能を備えた獣の可能性! -- (名無しさん) 2017-05-04 05:43:00
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

k
+ タグ編集
  • タグ:
  • k
最終更新:2017年04月08日 04:08