おおぅ、珍しいじゃねぇか!こんな辺鄙なところにお客さんが来るなんてよ!見慣れない格好だねえ。アンタどこから来たんだい?ニホン?トウキョウ?よく分からねえが、久々のお客さんだ、好きなだけゆっくりしていきな!
なんせここは死ぬほど退屈なところだからな。
へぇーアンタ"あっち"の世界から来たのかい。いやー初めて見るけどホントに
エルフと
ホビットと
ノーム混ぜたみたいな、いや、どっちかってえと鬼人か?角ないけどな。やっぱ服とか小道具とかこっちとは大分違うもんだねぇ。それで何しに来たんだい?え、シュザイ?キシャ?この遺跡に付いて話を聞きたい?話くらいなら幾らでも聞かせてやるよ。人と話すのなんてホンット久しぶりだしな。
この遺跡は"墜ちた迷宮"って言われてるんだ。元々は空に浮かんでたのさ。浮遊島って知ってるだろ?あれのでっかい奴だったんだよ。それがある日突然"墜ちた"んだ。でも
ハピカトルの神力を喪って墜ちたんじゃねえ。今でも濃密な神力の影響下にある。ただし上下逆向きにな。下は硬い花崗岩の岩盤なんだが、それでも年に大体2メルトのスピードで沈下し続けてる。信じられるかい?このバカでかい遺跡全体が岩にめり込みながらズブズブ沈んでいってるんだぜ?
そしてコイツは生きてる。そこにポッカリ口開けた岩門があるだろ。全部で100以上あるこの遺跡の入口のひとつさ。内部は控え目に言って"魔境"だ。神力の影響を受けて空間が歪みまくってる。どこまで潜っても底に辿り着けない。前後左右上下の繋がりがメチャメチャだ。神力で妙ちくりんな姿に変異した獣が棲みついて互いに喰らい合ってる。
そして最深部には"ハピカトルの落とし物"がゴロゴロ転がってる。大図書館の司書どもが金に糸目を付けずに買い取るもんだから、
オルニト中の命知らずが一攫千金を夢見て潜ってたんだが生還率は一割以下。戻って来た奴等も無事じゃなかった。赤ん坊みたいな白痴になってたり、手当たり次第に殺しまくるキチ○イになってたり、神力浴び過ぎて人外のバケモノに変わっちまったり、まったく酷いもんさ。そんなこんなで流石の命知らずのバカ共もぱったり来なくなっちまった。誰かと喋るのなんてホント十年ぶりだよ。
なんでそんなに詳しいのかって?俺も迷宮から還って来た"元"命知らずの一人だからさ。アンタさっきから目の前の男と話してるつもりだろうが、そいつは正確には俺の一部だ。俺の身体は遺跡と融合しちまってる。遺跡に喰われたって言った方が近いかな。この身体も周囲の遺跡も含めて俺の身体だ。もう十年もここから離れられん。腹が減らないのは助かるが退屈で死にそうだ。まあ、身体はこんなだがオツムは無事だしまだ運が良かった方かもな。
アンタも五体満足でいたかったらシュザイは第二階層までにしておきな。そっから下はお薦めできねえ。ガイドは必ず付けろよ。しこたま踏んだくられるが命や正気には代えられん。もっとも、引き受け手がいりゃいいが。
きっと無事に戻って来るんだぜ。十年ぶりの話し相手が遺跡に喰われちまったら目も当てられねえ。また独りぼっちなんて真っ平ご免だ。
なんせここは死ぬほど退屈なところだからな。
end
- 沈み続けるってのが法則混沌でハピカトルらしい。落とし物だらけの迷宮から還ってきた者は果たして本当に当人なんでしょうか? -- (名無しさん) 2017-05-21 20:05:37
- scpのTalesぽい -- (名無しさん) 2017-05-21 21:57:25
- 一度でも生還できたらハマりそうな魔性の魅力がありそうな -- (名無しさん) 2017-05-22 19:04:13
- 遺物が散在する巨大なランダムダンジョンのスケールの大きさはハピカトルならではという雰囲気ある -- (名無しさん) 2017-05-28 20:23:27
最終更新:2017年05月21日 20:04