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【天空への階段】

君は日本人か。こんなところで地球人に会うとは思わなかったよ。Berliner Morgenpost東京支社の特派員だって?若いのに優秀だね。あそこの企画は実に面白い。僕はカール・ニュッテ。生まれはスイスだが十年前からここに住んでいる。昔フリーランスの記者をやっていてね、Berliner Morgenpostに寄稿した事もあるんだ。編集長の事も知っているよ。相変わらず無茶やって先生に叱られてるのかな?

ああ、ここから先には立ち入らない方がいい。写真もダメだ。ここはオルニト人の"聖域"だからね。見えるかい?遥か彼方に立ち昇る一筋の煙。君もあれを見に来たんだろう。あれが"天空への階段"だ。散文的に表現すれば火葬場の煙さ。
鳥人たちは天空に対する誇りと尊崇がある。だから死した後の肉体を天に、という考えを持つようになったのだろう。 どこまでも天に昇っていく荼毘の煙は鳥人たちの祈りそのものだ。

だが、それは空を飛ぶ鳥人たちのものだ。もう気付いてるね、村人たち全員が翼があるにも関わらず羽ばたき一つせずに地を歩いてることに。ここは傷付いて飛べなくなった鳥人達の村なんだ。飛べる鳥人はもちろん、初めから飛べない鳥人もそれぞれ生きる術を持っている。それに比べて"飛べなくなった鳥人"は惨めなものだ。翼と誇りを失い、地に生きる術も知らず、天空の階段を登って天に還る事だけを願って日々を生きている。

よく気付いたな。そう、あれは銃創だ。この村の大部分は密猟者によって不倶にされた者たちなんだ。美しい鳥人の剥製は今でも地球のブラックマーケットで途方もない高値で取引されている。こちら側で"加工"して、ゲートを通してあちら側に持ち出しているんだ。銃の異世界への持ち込み、異世界人の死体の持ち出し。本来ならどちらもゲート審査で引っかかるはずだ。だが"奴ら"はそれを上手くすり抜けている。11の大ゲートのどれかで審査に穴が空いている。新天地ゲート、つまりレギオンと米軍かCIAが怪しいと睨んで調査を進めていたが、奴らに尻尾を掴まれた。あやうく殺されるところだったよ。今でもゲートの地球側では監視が継続されてるだろう。


だから、君にこれを託す。
僕が十年かけて調べ上げた顧客名簿と金の流れの全てだ。君のところの編集長に渡して欲しい。彼ならきっとこれを役立ててくれる。
とぼけなくていい。さっき"相変わらず先生に叱られてるのか"と聞いた時の表情で判っている。君は"先生"に会ったことがあるね?だから、僕は君を信用する。ようやく信用できる相手を見つけた。危険を承知で頼む。どうか、これを編集長に渡して欲しい。見返りはこのレポートそのものだ。使い方次第で途轍もない力を齎すだろう。

済まない、僕は地球に戻れない。僕はマークされてる。ゲートをくぐった瞬間、僕は殺されるだろう。ああ、"カール・ニュッテ"は偽名だ。本名は教えられない。お互いの安全の為にね。顔も指紋も作り物さ。気休めのようなものだが。

それに、僕はこの地に帰化しようと考えてる。ここの村人は見も知らぬ僕を迎え入れて、同朋として扱ってくれた。命を掛けた仕事を叩き潰されて絶望に打ちひしがれてた僕の事が、翼を奪われた自分たちと同じに思えたのかも知れない。いずれにせよ彼らは命の恩人だし、今では家族のようなものだ。僕は翼なきオルニト人として、彼らと共にここで生きていくつもりだ。

これも何かの縁だ。君にもう一つ頼みがある。いつの日か、僕もあの階段を通って天に還るだろう。僕が天に還るまでの間、この地から君に、毎年一本レポートを送る。この件が決着して君自身の安全が確保できてからでいい。どうか地球の人たちに伝えてくれ。異世界の名もなき人々の暮らしを。傷付けられた人々の痛みを。そして異世界の天に還った一人のオルニト人の事を。


end

  • 短い中に異世界とつながったことで深く禍々しくなった人の欲と、それに微力でも無力ではないと立ち向かう人の良心の戦いが描かれて素晴らしい! -- (名無しさん) 2017-05-31 20:54:40
  • サスペンスと抒情が合わさった話だった。一人は終着駅を見つけて一人はそこから新たな道に踏み出すという -- (名無しさん) 2017-05-31 21:30:18
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最終更新:2017年05月31日 00:46