【クルスベルグの馬】

地球と異世界が繋がって二十余年、何かと世界同士の関係も進んだ今ですが物品の運送についてはまだまだ未成熟でして、
異世界でゲートに近い町や村からでも地球に物を送ろうとすれば一週間ほどかかってしまい、あれやこれやと物品に事故発生もままあるのが現状。
ということで異世界、クルスベルグに住む同僚に企画書を届けるついでに原稿を受け取るためにいざドイツゲートを越えてクルスベルグへ。

ベルリンの壁跡地、複雑に組み上げられた巨大な石門を越えて光のもやをくぐった先はまた石と岩の空間。
山脈と森が国土を占めるクルスベルグでは山の中に町が形成されており、ゲートがあるのも山の中の町である。
異世界でもクルスベルグ特有の動力源“シャフト”こそ存在しないが、この山中町も中々に歴史あるらしく移動手段も整備されており麓の出入り口までトロッコですぐに到着する。
以前クルスベルグに行った同僚の話では出入口を出てすぐに各方面行きの乗用獣駅があるとのこと。
山を出てすぐに広がる整備された平地はまさにタクシーやバスのロータリーである。
岩造りの堅牢な厩舎から多くの獣が顔を出して水を飲んだりなどしている。
「本当に異世界に来たんだなぁ」
地球では見かけることのない映画から出てきたような動物ばかり。それも大体が大きい太い。
「おいさ、人間さん。獣が入用かい?ゆったり乗れるものから力強いものまで色々あるよ」
「あの鼻息の荒いのんびりとした顔のは?」
「山ハイエスかい?足の速さはそこそこだがどんだけ荷物を積んでも平気な力持ちで頑丈な荷獣さ」
「カバか牛かよく分からないが何やら大層な獣みたいだ。 ところで行き先はここなのですが」
ドワーフの店主に目的地の住所を手渡す。それを見てふさふさしたヒゲをゆすって一考する。
「ここは山一つ越えないといかんなぁ。見たところ人間さんは荷物も少なさそうだし足の速いのがよさそうだ。どれ、右から二番目の厩房のはどうだい」
房の中からは甲殻類特有の触覚のような目が二つにょきっと伸び出ている。
「蟹ですか?」
「遠くはマセ・バズークから輸入した岩石蟹さ。他の獣じゃ行けないような崖でも川でも自慢の六脚で走破するって寸法よ」
「う~ん、崖とかちょっと怖いですね。他には?」
「じゃあ穿犀はどうだい?多少の障害物なら自慢の石頭と鉄角で砕いて進む上に短い脚の見かけによらぬ速度で駆けるぞ」
「砕かれてもちょっと何というか乗ってると痛そうですね。 …馬とかいないんですか?」
馬。と一言聞いてドワーフは丸い目をさらに丸くして驚く。何言ってるんだお前みたいな呆気に取られた顔になる。
「“馬”っておめぇさん、あんなのはホイホイ乗れるような代物じゃねぇぞ?」
「え?馬ですよ?」
「馬だろ?」
ドワーフは太い指で平地の先にある櫓台の根本を示す。そこには何やら毛むくじゃらな大きな何かがずんぐりと座り寝ている。
「どんな寒さでも自慢の毛皮で平気で走り、太く強い脚はぐいぐいと急勾配でも登っていく。大きな体には栄養がたんと蓄えられてて山の三つ四つ越えたって平気ってな。
あそこで寝ているのは防人が緊急時に総督山に走るために待機させてあるものさ」
「あれ、“熊”じゃないんですか?」
「何を言ってるんだ?熊が昼間に外にいるわけなかろうが。クルスベルグの馬はどいつもこいつもあんな感じだぞ。あぁそうか人間さんはクルスベルグは初めてなのか。それなら仕方がねぇ」
首をゆっくり上げて大きな欠伸をした馬と呼ばれたそれの頭部は、少し馬の面影を残しているが兎に角太くて毛むくじゃらである。
「馬はああ見えても頭が良くってなぁ、茸を食わせないと言うことを聞いてくれねんだよ。人を運ぶのに馬が満足するだけの茸を食わせていたら採算が取れねってな」
ところ変われば獣も変わる。地球の常識で異世界を見るのはまずいということなのだろう。 …では異世界の熊とは一体。
仕方なく足の速い森蜥蜴に乗ることになり、いざ同僚のいる山村へと向かう。
まさに自然というような澄んだ森の空気を掻き分けながら蜥蜴は走る。山道からそれず走らせるノームの操者の腕前はかなりのものである。
峠を越えて下りに入ったところで山道下の森に走る影を見る。
「あれは…馬?それに何か乗って…子供か?」

「きょうもいっぱいあそんだね!いえにかえったらおかあさんがキノコパイをごちそうしてくれるよ!」
「おねえちゃんそんなにはじっこにのるとおっこちちゃうよ」
「これくらいへっちゃら!」
「うまキノコあげる。うまはやくはしる」
どすんどすんと走る馬の目の前にキノコを枝で吊るすコボルトの少女。ひょいぱくとキノコを飲み込むと馬はギアを一つ上げるように加速する。
巧みに木々を交わし、背に乗せるノームと人間の少女にも枝葉や飛び石が当たらないように走る。
「きのこのいわやをまもっているうまかしこい」

「成程、あのようにしてキノコをあげて走らせるのか」
今月はクルスベルグの冬の暮らし方という企画であったが、山の国の乗り物というのも合わせて頼んでみよう。
異世界クルスベルグ在住にて風土文化風習を書いている同僚記者の記事は中々に好評である。
あれやこれやと先の展望を思案している内に目的の山村の入り口に到着する。
巨大樹二本の間を抜けて村に入ると遠くから手を振ってこちらに歩いてくる大人と子供の人影。
おぉっとこれは失礼。件の同僚夫妻でした。


クルスベルグの乗り物

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最終更新:2017年07月29日 00:19