「えぇーいっ!脱出成功なのです!」
(もふもふ どーん)
大きな毛むくじゃらの上に長い髪が伸びるシルエット。勢いよく太い柱を粉々に砕いて躍り出てきた。
「はわわわわっ!太陽が出てるのです!ダメです陰に戻るのです!」
(もふもふ くるっ)
陽光に触れた毛先髪先が紫炎に包まれじゅっと消滅する。スラヴィアンである二人は異世界の太陽神ラーの光に照らされると消えてしまうのである。
如何に
スラヴィア有力貴族の岩窟王、監獄姫と言えども例外ではない。
「おぉっ?!深層に囚われたところから戻ってこれるとは驚きだ。どんなに運が良くても百年はかかりそうなものなんだが」
オルニト名所“墜ちた迷宮”の門番兼ガイドを務める帰還者の男が鳥の目を丸くして手放しで賞賛する。
入り口大扉にかかる庇の影で腰を下ろして一休みする二人が砕いた柱はいつの間にか何事もなかったように元通りになっている。
「迷宮の中は空間がぐちゃぐちゃなのです。見えるものだけ見て進むと迷う一方なのです。目を凝らして因果律の綻びを見つけてパパの剛腕でこじ開けて進んだのです」
「因果律?言葉の意味はよく分からないが何やら凄いことをやったのだと言うのは分かる。兎にも角にも帰還おめでとう」
陽が山の後ろに沈みかかった頃に空が灰色に染まっていく。合わせて気温がぐんぐんと下がっていく。
陽が隠れたと同時にひらひらと雪が舞い落ちてきた。
「“氷の御披露目”じゃないか。今年もそんな時期かぁ」
「…空の上にいっぱい精霊が飛んでいるのが見えるのです。風と闇が合わさった大勢に担がれているのはなんでしょう?水…でもないような」
「あれは氷の国の大精霊の子、次代の大精霊だよ。 時期になるとああやって異世界中の空を巡って御披露目をするのさ」
監獄姫の見る遠くの視界で渦巻く寒波に担がれる何かの赤子に見える氷塊が眠っている。
空はいよいよ黒く染まり、それを空から降る雪が白く彩っていく。
だわ… だわ…
だわ… だわ…
墜ちた迷宮の前で見上げた空から大鳥がいそいそと降下してきた。
「全く寒くて飛んでられないのだわ」
「御披露目に巻き込まれたら翼も凍ってしまうのだわ」
「しばらく休憩するのだわ」「賛成なのだわ」「疲れたのだわ鬼人は重いのだわ」
着地するやいなや翼を畳み丸まるのは寒さをやり過ごすための野生のスキル。
「うぅっ寒い!」
「大精霊なら仕方がない。少し休憩にしよう。しかし本当に寒いな」
「鳥さんも二人もちょっと寒さに弱くない?私はまだまだ平気よ?」
「「北国育ちは感覚が違うから…」」
大鳥の鞍から降りてきたのは人間の男性と竜人の女性。大鳥が三羽がかりで持ち上げていた籠から出てきたのは鬼人の女性。
三人はそそくさと迷宮入り口の屋根の下に走り寄ってくる。
「あっどうも。ちょっと軒下をお借りします」
背荷物を降ろし丁寧に挨拶する。
「やーん!カワイイ!ディズニー映画のキャラクターみたい!色んな服着せたいわぁ!」
長い長い美しい髪とアンバランスな童顔に獣耳。だぶついたオーバーオールに穴獣の腕という姿の監獄姫が可愛くないわけがなく、
鬼人女性の趣向にド真ん中なようで持ち上げ愛でまくる。
「わわっ!何をするのです降ろすのです」
じたばたとするも鬼人の腕力の前にはどうしようもないという。
「かっ、可愛い…!」
(もふもふ?)
「す、少し触ってもよいだろうか?」
(もふもふ)
豊かなな毛をたたえるムークスラヴィアンの岩窟王の体に手を差し潜らせて愉悦の表情で微睡む竜人。
「ちょっとちょっと、カスミさんもトガリさんも初対面の人達に失礼じゃないですか」
寒さを忘れるくらい和気藹々する風景を眺める番人は少し頬を緩めた。
人の枠からはみ出した己ではあるが、こうして番人となることで人の道と重なることができる。
「迷宮の中に置いてきた己が存在を取り戻しに行くのも良いかも知れないな」
…と思ったかどうかは定かではない。
- 監獄姫ちゃんって単体戦闘力低いんだっけ?パパは滅多なことじゃ怒らないイメージあるけど娘にガチで危害加える邪な奴には容赦しないだろう -- (名無しさん) 2018-01-04 18:20:04
- ワナヴァンというか鳩鳥ベースの生物が喋るってのがテンプレになりつつあるのだわ。カスミさんやっぱり重たいかー仕方ないかー。抱っこされてる監獄姫ちゃん想像してわむ -- (名無しさん) 2018-01-04 23:58:23
- 薄異本ではカスミさん出てこないんだけどもし一緒にいたらそんな感じなんだろうなぁと思い浮かんでくる。知の監獄姫と力の岩窟王の完成されたタッグはかなり強力? -- (名無しさん) 2018-01-30 00:18:59
最終更新:2018年01月05日 22:56