四月に発生した九州熊本震災に出動した自衛隊各部署は、近年数度に渡り発生した震災での経験を経て迅速かつ的確な対応力と最新鋭の装備を以って復旧復興に臨んだ。
だがしかし、街中での災害や倒壊した建築物の扱いなどからお世辞にも作業の進捗は良いとは言えない状況であった。
これに対し出動していた開門自衛隊は膂力持ちの異種族を多く組み込んだ編成で臨機応変に小回りを利かして対処し、重機では作業困難な範囲をカバーした。
被災地を外周より狭めるように復旧を進めていた途中で6月に入る。
大
ゲートの通行が緩和されたのに合わせて門自は攻めの一手を打つ。
異世界側大
ゲート付近にて九州被災地での復興作業の従事者を募ったのである。
本格的な作業に就くためにボランティアではなく門自が短期~中期雇用する形を取り、適性検査を受けて認可が下りた者はレクチャー後に各分野各班へと配属される。
予想以上に集まった異種族達は各々の思惑、目的を持ちつつも高いモチベーションで作業に従事する。
装備と種族特性の振り分けも完了し、初旬には昼夜交代制による大々的な二十四時間作業が実施されることとなったのであった。
【作業交代の時間です。日中班は指示に従って待機所へと移動をお願いします。 夜間班は打ち合わせ通り持ち場に就いて下さい。】
未だ瓦礫の山が立ちはだかる街にアナウンスが響く。
「今日もよく働いた働いた!さぁて何を食うかなぁ?」
「今夜はラーメンにするぞ!塩味ってのを食うぞ!」
「おめー待機所の食堂にラーメン屋が来てから毎日ラーメン食ってんじゃねぇか?」
「一昨日はとんこつで昨日は味噌だっての。同じじゃねっての」
ぞろぞろとやってくる大柄、もとい巨漢も巨漢の作業員達。
車輌で運搬するような大型の発電機を二人掛かりで担ぐ鬼人や
オーガなどの大型種族の横を整然整列し道具を運ぶ
オーク達。
人間含む多くの種族が持ち味を発揮して日夜作業を進めている。
そして列を交える様に夜の者達が瓦礫の街へと向かう。
『大
ゲートに向けて礼ッ! 本日もレシエ様の忠臣として全力で臨む様!班長の指示に全力で応える様!』
『『礼ッ!』』
重厚な全身鎧は現代のアレンジが所々に見れる西洋風鎧であり黄と黒のツートンカラーで塗装され、並ぶ多くの腕部には建設重機の如くアタッチメントが換装されている。
彼らは、力ある雄達が富国のために日々鎬を削る
スラヴィアの中でも外国へと手を広げ活動しているレシエ卿その配下のリビングメイルの一団。
その中でも災害復旧派遣用に地球側企業との共同開発により調整された者達であり、過去米国などでも活躍したことがる。
そんな彼らの目的は外貨獲得であり、スラヴィアン、リビングメイルという能力を活かした活動により着実に成果をあげている。
異種族の中でも特異なリビングメイルは生物とは違う視界や知覚認識を有する者も多く、その中でも暗闇も物ともしないのが彼らである。
その気になれば延々と何日でも活動可能なのだが、日本の就労法により交代制で働いている。
空洞の鎧体から想像もできない馬力を発揮する彼らは、日中に集積されたり砕かれた瓦礫や残骸を処理場まで運ぶ車輌の発着場まで運搬するのである。
今宵も重機が入れない一帯を押し開いていく。
市街地は建造物とライフラインが複雑に絡み合っており、単純な撤去だけでは後の復旧がより困難になっていく。
詳細な現状調査と綿密な作業計画に沿って瓦礫と化した建造物などを朝までに片付けることが出来ればそれだけ進捗も早くなる。
的確に指示に従いスムーズに作業が進み、かつては商業モールであった一帯まで到達する。
リビングメイルには嗅覚が無いため腐敗臭などお構いなしではあるが、ガスなどの発見が出来ないために単独種族での班構成はないようだ。
『班長!今夜ここに出動しているのは我等の他に幾らかいるのだろうか?』
リビングメイル一団のまとめ役であるブルザードが崩れたモールの奥を指す。
「何班かは出ているけども、ここいらの撤去作業は私達だけじゃないかな?何か見えます?」
班長として随行する門自災害復興員の加時 真智が暗視ゴーグルを向ける。
瓦礫の向こうで数人が何か動いているが、どう見ても撤去作業という風ではない。
不穏な空気を感じ取った真智は周辺で作業途中であったリビングメイル達を招集するが、どうしても鎧の体であるためか足音を出してしまう。
作業班を察知したのか、人影は急いだ様子で場を離れようとしている。
『何やら良からぬ気を感じますれば、ここで取り押さえましょうぞ!』
『『応ッ!』』
「あっ、ちょっと待って下さい!」
パパンッ パパパンッッ
横列を組んだリビングメイルに何の警告も躊躇もなく拳銃が発砲される。
が、鋼鉄の体であるリビングメイルには掠り傷程度の威力である。
「ちょっとちょっと!一応一般人扱いなんですからそういう事は控えて下さいって何度も!」
『ならず者をひっ捕らえよ!突貫ーーッ!』
一斉に走り出す鉄の壁に気圧されたのか、影の一団は乱雑に発砲し迎える。
『むっ、班長!あやつら“逃げる”と言っていますぞ!このまま追いかけますぞ!』
逃走を計る面々は明らかに日本語でない言葉を喋っているが、地球にやってくる際に翻訳加護を受けた異種族には言語種関係なく理解出来ているのである。
「流石翻訳加護ですね。でもこの状況では捕らえきれませんので大人しく防護に徹しましょう」
積もる瓦礫に高低差は重厚なリビングメイルの足は合わず、慣れた様相で一目散に逃げる人影には追い付くことは出来ない。
『ぬぅおおおー!口惜しいですぞー!』
被災地を放置された宝の山だとやってくる火事場泥棒は復興を済ませるまで耐えることがない。
だが、それに対し手をこまねいてばかりではなく、適材適所で有効な人材が配されているのである。
『状況把握しました。被災生物の捜索途中ですか対象の確保を実行します』
ニャニャー ワンワン ニャーニャー ワワーン ニャニャーン
暗闇の高所から飛び出した影。その背や肩にしがみ付く多数の犬猫が合唱の様に鳴いている。
月光を横切る姿は女性の猫科獣人であるが、その手足、更に胴より伸びる複数の腕は機械的である。
『班長、回収物をお願いします。では』
「了解。でもあまり無茶はしないで下さいね、パンフィーナさん」
『鉄血機動、流動全開。被害拡散防止のために即時捕縛します』
獣ではなく鳥類の脚に近い関節構造がコンクリートを砕く跳躍を見せる。
上空から舞い降りては対象を掴み、そのまま次へと跳躍しては捕縛していく。
札束を散らしながら地に叩きつけられたならず者達は失神する。
八腕で全てを捕らえ押さえつけるその影は、ともすれば巨大な蜘蛛にも見える。
『完了です。これで博士の求める物に近づきました』
彼女はブルザード達と同じく
スラヴィアよりやって来た獣人スラヴィアンのパンフィーナ。
特異な
スラヴィアの中でも特に異質な領地で生れたという改造スラヴィアンとの自己申告であった。
身体検査時では、心臓の代わりに動力源が内臓されており血液と化合した【流れる鉄】がそれを動かし骨格に埋め込まれた歯車が動力を伝達するという。
生命の理から離れた種族とは言え、自在に換装可能な腕と足など突拍子もないことだらけで、本部も扱いに悩んだという。
日本へは彼女の生みの親だという博士の依頼で、岩盤掘削機の構造と先端鋼材を入手しにきたという。
多くの種族達が能力を活かし連携し復興に努める日々。そのゴールは初期の想定よりも早く到達しそうである。
異世界交流復興プロジェクト。少しばかりシェアを添えて
- おおおお!?スレで出た九周年に向けた布石か⁉パンフィーナかっこいい! -- (名無しさん) 2019-11-29 22:46:14
- スラヴィアンが本気出すと地球では無敵になるけど本気出せるスラヴィアンがレアなんだろなって -- (名無しさん) 2019-12-01 00:11:09
- 人間よりも体力筋力ある異種族はそれだけでも需要あるんだろな。尚食事量 -- (名無しさん) 2019-12-01 01:28:12
- もう種族混成レスキューチームとか活躍している国とかあるんかな? -- (名無しさん) 2019-12-03 23:24:58
最終更新:2019年11月28日 20:32