【出産の準備だよ!】

“ナマラ、遂に産気づく!”
新天地ニシューネン市に風の噂が吹き抜ける。
市でも名を知られている酒場フタバ亭、その亭主であるシメイの妻である女将ナマラが鬼人の特性である長い妊娠期間を経てようやっと産気づいたのだ。
噂を聞きつけて星教会の狗人シスター長が様子を見に来る。
各地で布教活動をする傍ら、数々の出産修羅場を仕切った産婆も兼ねる彼女は老いて右腕が鉄義手になった今でも信頼に足ると評判である。
「ようやく…と言ったところかね、よく頑張った、さぁ診てみようかね」
横になり休んでいるナマラの膨らんだ妊腹に肉球を当てて目を閉じ感覚を研ぎ澄ます。
「ふぅむ。オーガの子ならとっくに産まれてるだろうし、やはり長い月日の経過と合わせて考えても…十中八九赤子は鬼人だね」
少し汗ばみながらも微笑を返すナマラに、あまり猶予が無いことを実感するシスター。
「問題があるとすれば、妊娠期間が長いもんで母胎の中でそこそこ赤子が育っているかもというとこだねぇ。 それが逆子にでもなったら…」
異世界の宙より全てを見渡す星神を奉る星教会のシスターということから、何か嫌な予感めいたものを察する。
少しばかり思案したところでポンと腕を打つ。
「そういやフタバ亭に空便で飛んできた一行が泊ってたね。その一行に鬼人の力を操るに長ける駆け込み教会と噂される白鬼人を連れてきてもらおうかね」
鬼人の出産で最も懸念される事態が“逆子”であり、赤子が頭から産道を通過する際に未発達とは言え角が母体を内部で傷つけてしまうということ。
他種族よりも鉄血や肉体面で多くの体力を使う鬼人の出産に於いて、母体が傷つくというのはとても危険なことなのである。
「鬼人の力を操ることができれば、角を一時的に小さくすることも可能と聞いた。いけるかも知れないね」

「話は聞かせてもらったぜ!」
『なのだわ』
「ちょっ、ちょっとメノー、いきなり飛び出したらダメだよ」
人間男性・大きな鳩もとい羽毛竜・エルフの…少年? 件の一行が角より現れ、みなまで言うなという風体で親指を突き出しあれよ見る内に外で出立の段に入る。
「場所や相手は…分かるのかい?!」
鳩っても一応は飛竜であるワナヴァンの羽ばたく風に圧されるシスターが声を張り上げると、瑪瑙は合わせて大声で返す。
「ドニーの離れにいるハクテン様ってのだろう?任せとけ! 時間がなさそうだ、風精霊と空の道を使って一気に飛ぶぞ!」
「風精霊の方は任せて。メノーとワナヴァンは空の道を外れないようにね!」
『くるっくー』
力強い飛翔から一瞬で雲に並ぶまで高度を上げた一行は、一路ハクテン様の住まう白ノ郷へと大体の方角を合わせて吹っ飛んでいった。
「任せたよ、と言うのはちょいと都合が良すぎるかね。こっちでも出来るだけの備えはしておくかい。 シィ!お湯の用意だよ!」

俄かに騒がしくなるフタバ亭。
女将の出産は…近い。

フタバ亭。検索したらマスターの名はシメイ、女将の名はナマラでした。出産前振りみたいな感じで一本

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最終更新:2020年06月19日 03:07