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【寒い!どうする?】

こうも狭い、肩も触れれば吐息も届く空間に唯二人。エルフと人間、種族は違えど何も感じないわけもなく…
「それ以前に寒いよ!ボクこんなの聞いてないよ!」
「あー?昨日言ったろ?秋口過ぎたからもう朝はさびーぞって。俺はちゃんと防寒してるから大丈夫」
「むー!」
異世界交流特区ポートアイランド中央庁舎にて早朝の窓拭きバイト(外側)のゴンドラから不満を叫ぶエルフはイスズ。
「早く手動かせよ。さっさと次の窓に行きたいんだが?」
高所を揺れながら移動するゴンドラの操作に心躍らせる瑪瑙とは逆に、イスズは兎に角寒くて寒くてどうしようもない。
「地球に精霊がいないってこと、時々忘れちゃう。厳しい気候だなぁ」
「あーあー、これだから精霊慣れした御方はもう、ね。異世界だろうが地球だろうが“寒い”と大前提あるならとりあえず防寒は用意するだろ? 異世界だって無精霊領域とかあんだから」
「うーん、確かにこの前の無風空域は大変だったね。ワナヴァンも羽ばたき過ぎて筋肉痛になってたし」
まだ陽の登り切らない高層の窓に寒風が叩きつけられる。
異世界であれば風精霊がいれば寒い空気を避けてもらえたりするのだが、地球ではそうもいかない。
「うぅっ!やっぱり寒い!そもそも先にこなした依頼で報酬貰っているのに何で地球でもバイトとかするのさ!?お金持って帰ればいいじゃない」
「ばっかイスズ、世界間為替なんざ金と暇持て余してる奴らの戯れみたいなもんだ。手間賃取られるわ手続き面倒だわで…それやるくらいならあっちとこっちで稼いだ方が手っ取り早い。アリョーシャもお勧めしないって言ってたろ?」

 「現時点での世界間為替はデメリットの方が圧倒的に大きいのだわ。損するだけなのだわ」

「それは分かったけど…やっぱり寒いよ!」
「っかたねーな」
瑪瑙は視線を窓に向けたまま、ぶっきらぼうに捲いていたマフラーを半分解いてイスズの首に巻き被せる。
ごわごわした肌触りながらも太い繊毛が擦れ合って急速に体温が上昇するのが分かる。
「このマフラーってボーボーハイエスの獣毛と北海猫の翼膜を編み合わせてるの?あったかい…じゃなくて、ゲート通過できたの?異世界品なのに?」
「そりゃゲート通過しましたイコール害ある菌等ありませんってことだからな。世界間の物品移送もやっとこ緩和されてきたなって感じだ」
温かい以上に長いマフラー。首二つ捲いても十二分なくらいに長い。
「素材の粘り気と丈夫さから、いざって時にはロープになるんだぜ?」
一つのマフラーを二人で捲く。自然と近づく二人の距離。
瑪瑙は相変わらず窓拭きに集中しながらこれからの冒険計画を語っている。
首よりも胸の奥から熱が込み上げてくるイスズは窓拭きどころではなかったのだが、そういう状況を瑪瑙に気付かれないように平静を装いつつ瑪瑙のモップの動きを追う。
ゴンドラが窓面を一周する間、イスズは温かい夢心地の中にいたのであった。

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最終更新:2020年10月31日 01:53