ふわああ、とあくびを一つ。
ふわふわのクッションから降り、昼寝タイム終ー了ー、と体を伸ばす。
自慢のひげの手入れは忘れない。
ヒゲの調子は今日も上々。風の動きが手に取るように分かる。
見渡せば真っ暗。カーテンも窓板も閉めているから当たり前だよね。
記憶を頼りに、いつも通りに、窓に近づき木板を開ける。
とたん、部屋が朱色に染まり、喧噪が流れ込んだ。
窓下には夕焼けに染まる町。
商人たちの声が響き、活気に溢れている。
知人がこちらに気づき手を振った。わたしも笑って手を振りかえす。
町の向こうには、沈みゆく太陽。
今日もいい日ですと、夕日に向かっておじぎをした。
薄手のカーテンを閉め、日課の家宝みがきをはじめる。
丸くて、緑で、キラキラしてる。
宝石のことはよくわからないが、家宝というのだから素晴らしいはずだ、多分。
玉をみがきながらいろいろなことを考える。
今日の商売のこと、お昼寝のこと、王様のこと、夕飯のこと、昨日の商売のこと、お昼寝のこと。
そういえば、のどが渇いたな。
ここ
ラ・ムールでは水分補給をおろそかにできない。お茶、煎れよー。
今日のお茶は
エリスタリアの。結構高級品だが残りわずか。
この分で最後になるだろうな。
お茶っ葉を最後まで出し切ろうと、瓶をひっくり返しトントンとたたく。
ハラリとお茶っ葉といっしょに、一枚の小さな紙が出てきた。
なんだろうか?
文字が書いてるな。手にとって読んでみる。
瞬間、緊張で毛が逆立った。
紙片にはただ一言、《試練開始!》
風景が変化する。先ほどまでの町並みは消え失せた。
真っ白な世界と、私と、それから、神霊だけがいた。
『こんにちは!こんにちは!どーもよろしく、今回の試練の担当はこのわたしです!』
いつもながら、気安げな様子に恐縮する。
まったくもって油断できない生活だ。
今回の試練は何だろうか?
この前は、なぞなぞだった。
できれば体を動かすものがいい。
『今回のお題は"お茶っ葉"ですか。うーん、うんうん、どうしよっかなー?』
爪は鋭く、ヒゲの調子は上々。
一切の獲物を逃さない。
休息は十分で、体調も万全だ。
『お茶、お湯、葉っぱ、葉っぱ。ああ、そうだそうだ。
お歳暮に
世界樹さまから頂いた樹獣がありました!それにしましょう!』
風景がまた変化する。森の中だ。
奥に祭壇のようなものが現れ、遮るように樹獣が次々と現れる。
『静聴してください!今回の試練を発表します!
襲いかかる樹獣を潜り抜け、お茶の置かれた祭壇へと走れ!!
褒賞はおいしいお茶!制限時間はお茶が冷めるまで!失敗したら熱湯風呂!
では、では、よい試練であらんことを!!』
樹獣が、にわかに動き出す。
ほどよいスリルに口元が歪む。
私は猫人、生粋の狩人。
素晴らしい狩り場をお与えになった太陽神への感謝を胸に、
ニャーゴと一鳴き、樹獣たちへ飛びかかっていった。
- なんてことはない日常から一変して試練へというラ・ムールならではの日常は異世界の中でも特異な部類に入るのでしょうか。突然の試練も当然のように受け入れる猫人にラ・ムール民のたくましさを感じました -- (名無しさん) 2013-06-12 18:56:37
- まさにこれがラムールの日常?逞しくなるのも頷ける -- (名無しさん) 2014-01-09 23:40:35
- 宝箱を開けたらテレポート!みたいな試練の入り口。最後もどことなくRPGの不条理なイベント開始の合図のような -- (名無しさん) 2014-02-11 23:14:58
- 飛んだ先からまた飛んでの試練決定がアバウトすぎて命の危険すぎると思ったけども神霊には無意識下での手加減セーフティがかかってる? 瓶の中から試練がどうぞしたのに思わずくすりとなった -- (名無しさん) 2017-01-31 19:09:06
最終更新:2013年08月11日 10:41