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【クラスメイトのクラハくん】

クラスメイトのクラハくんは、エリスタリアからの留学生だ。
いつも窓際で杖を持って佇んでいる姿は、ぱっと見はかっこいいので最初は女子にきゃーきゃー言われていたが、よく見たら立ったまま鼻ちょうちんを浮かべていたのを見てそこで6割が脱落した。
それでもしぶとい女子はお弁当攻勢で勝負に出たが、「僕は水と果物だけでいいよ」の言葉でまた半数が減った。
そしてある雨の日、持っている杖が奇怪に波打って雨を受け止めるように「逆さの根」を広げたときには、もう彼を追いかけようという奇特な女子はほとんどいなくなっていた。
…そう、ほとんど。

「やあ仲原さん、おいしい水を見つけたんだけど一緒にどうかな」
「…それ、用水プールの雨水だよ」
いまや一人勝ちというより、この変人の世話係になってしまった私は果たして勝者と言えるのだろうか。



お昼休み、屋上で思い思いに食事をする生徒達に混じって私も黙々とお弁当を食べる。
…とはいえ、この学校の「思い思い」はほんとに自由すぎると思う。
「おや、かわいらしいお弁当だね。私もご相伴に預かりたいものだ」
「…そちらのお弁当も『かわいい』ですね」
「勿論さ、私の父が領地から選りすぐって持たせてくれた最高のものだからね」
そういってかしずくメイドさんの喉もとにやさしく唇を滑らせる姿は無駄にエロティックだった。自重しろエロ貴族。

「しかし、我々がこうして日光浴しても平気とはまったく素晴らしい土地だねここは」
「そうだねぇ、日差しが気持ちいいのはいいことだ」
反対側ではクラハくんが上半身の衣服をはだけてのびのびと羽を伸ばしていた。文字通りの意味で。
光合成のときはああして羽を広げて太陽光を集めるエルフもいると最近はじめて知った。無駄にきれいで見とれてる自分がいるのがまた腹立たしい。



クラハくんの髪は、普段はいわゆる金髪だ。
きれいはきれいだけどひねりがないなどと勝手なことを思ってたら、ある日彼の日光浴を見て息を呑んだ。
彼の金の髪は太陽の光を浴びて緑色に輝いていた。緑色に光る金ってなんだそれって思うかもしれないけど、そうとしか形容できなかった。

思えば、彼を気にするようになったのはそれからなのかもしれない。

「おきろこらー、教室移動だぞー」
「…ごめん、今日はもう早退したい…」
「曇りのたびに休むつもりかー!」
あの一瞬がなければこんないらん苦労を背負い込むこともなかっただろうに。ああ、まったく。



結局クラハくんは私の事をどう思っているのだろうか。
今のところうるさいとかうざいとか、邪魔くさいみたいな事を言われたことはないのだけれど。スルーってほどじゃないけど、柳のように受け流されてることが多い気がする。
…告白しても不思議そうに笑顔だけ返されそうで、実は私もちゃんと言葉にしたことってないんだよね。なんかよくないなあ、こういうの。

「すぴー…」
一番の問題は、こいつがさっぱりムード出してくれないことにあると主張したい。プールに沈めて水耕栽培するぞしまいには。



「…やあ、仲原さん」
暖房の効いた温室の中でさらに炬燵に入ったクラハくんが、くてっと突っ伏したまま言った。丹前の袖から二人羽織みたいに突き出してる羽根は笑うところなのだろうか。
「寒そうだね」
「ずーーーーーーっと夏の国に暮らしてて、他の国に来るのはこれがはじめてだからねー」
それでいきなりこの寒波の洗礼か、可哀相に。
「白湯でも入れようか?」
「うん、お願いー」
勝手知ったる、と言うにはシンプルすぎる部屋を横断し、キッチンでお湯を沸かす。初めて入った時は驚いたけど、まあ食事=光合成ならこんなものなのかも。
「あ、ごめん。こんな調子だからお茶菓子も切らしてるんだ」
「いいよそのままで」
この様子だと大掃除も私の仕事になりそうだった。



私の告白に、クラハくんはいつになくまじめな顔でこう切り出した。
「ぼくは君に見限られるようなことばかりやってきたように思うんだけど、それでも…」
本当に空気読めないやつはそういうこと言わないんだよバカ。私はそうやって人を遠ざけようとするあんたが心配になって余計深みにはまったんだ。
「こちらの言葉では、策士策におぼれるって言うんだっけ」
ため息の甘い香りがこっちまで漂ってきて、こんな時だっていうのに…いや、だからこそか、余計にどきどきする。

クラハくんが私の手をとり、そっと握る。
「ぼくには昔、好きな人がいた」
ああ、やっぱりそうなんだ。
「ぼくらは好きな人ができた時、大人になる。でもぼくの好きな人は、ぼくを置いて遠くにいってしまったんだ」
手を引かれ、クラハくんの胸に抱かれる。私はただ静かに受け入れた。
「君はどこにもいかないで、かなさん」



…やさしくするんじゃなかったのか、このえせ草食系。
「うん、ごめん」
これだから一見やさしそうなやつは…じ、冗談、冗談だってば。そんな目に見えてしおれることないじゃない。
「だって、僕は君に嫌われたら生きていけない」
こいつは、またそういうことをさらっと言う…。
あ、そうだ。今度の2/14だけど、チョコ…はいらないか。
じゃあ代わりに、あんたのとこの伝統料理によく似た、えっと…練蓮だっけ。あれ、作ってあげよっか。
「いいの?」
いいの、ちょっとは彼女らしいことさせなさい。



はい、約束の練蓮。
「うわあ、ありがとうかなさん!」
いや正直、味には全然自信ないっていうか。これ、本当に作り方あってるのかな…ってもう食べてるし。
「そうそう、この味。懐かしいなー」
…クラハくん、今度ちゃんとしたご飯食べにいこう。
なんだか涙出てきた。



「練蓮をヌードルにするなんて、日本は本当にファンタスティックだ」
いや、それ練蓮ヌードルじゃなくてたぬき蕎麦だから。
うーん、一応天かすも植物性油で作ったし大体動物性抜きで作ったけど、かけつゆだけは流石に昆布と醤油だけじゃ無理だから魚介が入ってるんだよね。アレルギーとか出ないといいけど。
「おいしいよ、かなさん」
喜んでくれてるみたいだから、まあいいか。



あ、アゲハの幼虫だ。今はちょっと不恰好だけど、成長したらきれいな蝶になるんだよねー…って、何やってんのそんな隅っこで。
「な、かなさん…それ、捨てて…」
…虫、ダメなの?
「…まだ小さかった頃におカイコに葉翼を齧られて以来、全ッッッ然ダメなんだ…」
あー、なるほど…災難だったね。
「とはいえ、芋虫を手づかみにできる君もすごいよね…」
小さい時はわりと野生児でしたから、ええ。



卒業式の雰囲気って苦手だな、やっぱり。どうせほとんどおとなりの大学に行くだけでも、なんだかちょっとね。
「時間は待ってくれないみたいなことを考えてしまう?」
うん、まあ…。そういえば、クラハくんは先のこととか考えてる? やっぱり大学まで出たら帰っちゃう、のかな。
「どうかな、こっちに根を張っちゃうかもしれない」
はは、あんたが言うと冗談に聴こえないって。
「それとも、一緒に来て欲しいって言って欲しかった?」
むっ…。
「心配しないで。君から離れたいって言われないかぎり、僕はそばにいるよ」


  • 最後の最後の台詞にこの話の全てが集約されているような -- (名無しさん) 2012-06-08 01:39:58
  • いいロマンスだったわ -- (名無しさん) 2013-01-14 23:23:40
  • 水耕栽培なだけじゃなくそれなりに過去も意思もあったクラハ君。 でも二人の行く末は簡単には運ばないんだろうなぁと -- (名無しさん) 2013-05-05 14:06:38
  • 健気なかなさんと天然素材で残念二枚目のクラハ君とのやりとりがなんとも和みます。少し影を持つクラハ君がかなさんとの日々でどのように思い変わっていくのか期待しちゃいますね -- (名無しさん) 2013-06-15 17:56:59
  • 優しい二枚目半…最高じゃないですか -- (名無しさん) 2017-02-14 18:07:16
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最終更新:2013年12月30日 12:38