「で、シテちゃんは今度のライブ行くわけ」
ヤクドナルドのアッパーセットを食べながら、半分だけ美少女の高校生がポテトでシテを指し訊ねた。
シテはバナナシェイクのストローを咥えたまま、ライブのチラシを食い入るように見ている。
爛々とするシテの双眸は、二メートルを越える体格も相まって周囲の客を寄せ付けない。
シテの近くにいる人物は、合い向かいに座る二人だけ。半分美少女とクラスメイトの男子生徒だけだ。
半分美少女は、右半身が美少女である。
何を言ってるのか分からないかもしれないが、半分は美少女。半分は退廃的な少女である。
黒く軽やかに長い髪。
睫毛は遠目でわかるくらい長く、インド彫刻のようなアーモンドアイと鮮やかな栗色の瞳をもち、少し高い鼻と、小さいが膨らみがセクシーな唇。
しかし、その美しさも右半分だけだ。
左半身は恐ろしく退廃的だ。
まず眉にアイブローピアス。
目の下頬にアンチ・アイブローを並べて二つ。舌の左端にはタン・リム。
左耳に至っては、ピアス密集地帯で、耳上部のヘリックス、バーベルでインダストリアル、コンチは二つ。そして、アンチトラガス、イヤーローブと、分からない人には分からないような物が、いくつも穿たれている。
左手には、ナックルピアスが三つ並んでいる。
見たことはないが、いくつかボディーピアッシングもあるらしい。
しかも、恐ろしいことにスカリフィケーションまでされている。
スカリフィケーションとは、医療メスによる傷で身体に模様を描く身体装飾である。スキンリムーバルという面で皮膚をそぎ落とし、陥没した傷跡で左の口元に小さなファイヤーパターンが描かれていた。
自らの美を破壊する倒錯した性癖が、半分美少女にあった。
彼女の名は沢村 彪(あや)。
シテの思い人の沢村 太助の妹である。
「シテちゃんって兄貴ラブすぎ。ちょー可愛いんですけど! マジで! ちょっと抱かせて、うわヤベ、胸すげー」
「なな、何を! 何をする妹君! わ、わらわのむ、胸……やめ……」
沢村のライブチラシに夢中で前後不覚になっていたシテは、彪のテーブルに載ってからの抱きつき攻撃を真正面から受けて身体中を弄られた。
シテも大事な人の妹である以上、乱暴な事は出来ない。しかもか弱く愛らしい(?)少女が相手である。
オーガや
オークの荒くれモノをたちを相手にするような雑な事はできない。
甘んじて激しい彪のスキンシップを受けていると、クラスメイトの男子生徒が不承不承ながら仲裁に入った。
「はいはい。これ以上、エロいことするとまたお巡りさんに捕まるよ。エロ回線切りな」
男子生徒はテーブルの上でシテに抱きつく彪のパンツを、ヤクドナルドのトレーで周囲の目から隠している。彼の目からは彪の際どい下着が丸見えなのだが、双方気にしている様子はない。
「六儀。アンタのカバーが逆にエロい! パンツ隠すから逆にエロいってことを知らない!」
彪はクラスメイトである六儀や男性客の目を物ともせず、制服の短いスカートを翻しながらテーブルから飛び降りた。
彼女の制服はやりすぎなほど、ゴシックパンクスタイルに改造されている。
リボンが革になっているのは軽いくらいで、ナイフスカートの襞縦一列にはパンチで穴が開けられている。丁寧に開けられたパンチ穴の金具輪からは、彪の派手な下着が時より見え隠れする。
胸元は大きく開けられ、華奢なわりにシテにも劣らない豊満な胸の谷間が覗いている。しかも谷間に何故かドラムスティックが収められている。
性的要素なのかドラマーなのかさっぱり分からない。
しかしさらに分からないのは、クラスメイトの六儀。今林 六儀である。
彼は十津那学園で星の王子様と呼ばれ、女子生徒たちに人気の天文部員だ。一見優男だが男気があり、それでいてクール。しかも文武両道と完璧さで羨望と嫉妬をその身に浴びる美少年。
どのような事態でも取り乱さない六儀は、異世界人と交流では常に十津那学園を代表する立場だ。
生徒会執行部予備室の一人でもあり、担当は異世界留学生の補助。つまり、シテのように留学間も無い生徒を相談に乗ったり、面倒をみたりと優等生さを遺憾なく発揮している。
シテも女性の一面を持つが、実のところ六儀の見てくれのよさと優秀さ以外に何かを感じ取り好ましく思っていない。
確かに彪のエロ放蕩っぷりにも辟易しているが、愛情(困った事に……)の表現であることも分かっている。
しかし、六儀は違う。
星の王子様などと形容されるが、シテには彼が白い白い流氷に思える。
どこまでも一人で流れ、冷たい海を突き進みながら地平線に見える白い空へと向かうような茫漠さ。
ドニー・ドニーの海を味わったシテにはそのようにしか思えなかった。
シテの心象はともかく、学園で生徒代表の留学生担当者であり何よりクラスメイトである。
無碍にも出来ず、シテは内心思うところがありながら六儀と行動を共にしていた。
「ヤクドナルドの物足りなさを、アタシのパンツがオカズとして補う。完璧!」
訳の分からないことを言いながらスカートを捲る彪に対し、無言でトレーで鉄壁を築く六儀。
息のあったコンビにも見え、恋人同士にも友人にも兄妹にも見える。しかしながらどことなく一方的だ。
やり取りとしては成立しているが、気持ちはまったく交差していない。
彪はホットで、六儀はクール。バランスは取れているが相容れない。そんな感じだ。
シテはライブチケットを何度も確認しながら財布にしまい、ついでに捲ったスカートの下で自分のパンツを脱ごうとする彪を押しとどめた。
「いかにわらわが異邦人であろうとも、この場でそれはならぬと知っておる」
「えー? ロックのライブじゃコレくらい普通だよ。ブラ投げ込みなんてロックの代名詞だし」
ロックの非常識さを公言しながら、するりとパンツのサイドを解く。
六儀は苦笑を浮かべながらジュースの氷を頬張り、ガリガリと噛み砕くと肩を強張らせて語りかけた。
「だけど食事するところでそれはない。場所をわきまえなよ、彪」
「えー? アタシ、別に生えてないから心配な……」
「アウト、アウトな、それ。そうだとしても関係ないから」
「はーい。わっかりましたー」
サイドを再び結びながら、すとんと腰を落とし不機嫌そうにポテトを頬張り始めた。
「でっさー、アタシの補習どうするわけー? ライブに補習直撃とかマジありえないですけど。ライブで補習とかのほうがまだありえるんですけどー」
「いや、なかろう……」
お堅いシテは彪の奔放さに少し困りつつも、あの沢村の肉親である。もしかしたら妹になるかもしれないえ? ちが…それは早い。いえでもそれも視野にいえいえいえ沢村様にご迷惑な夢想をなんてわらわははしたない! ごめんなさい沢村様わらわはしたなくていえけっして行為を想像したわけではいえいえいえあのいえ違いまする行為とはアレではなくいえ違いまする違いまする……。
「……え、どうしたの? シテちゃん。なんか急にエロ可愛い顔して何そのいやんいやんポーズ。マジ萌えるんですけど! お持ち帰りしたいんですけど!」
も、持ち帰り! 沢村宅に持ち帰られる! わらわていくあうと!?
「はいはい双方ストップストップ」
妄想が暴走するシテの手と、あやしい彪のあやしい手を掴み六儀がカットに入った。
「むー。六儀が邪魔するー。アタシの趣味を知っての狼藉かー」
「はいはい。場所を考えてね」
「六儀どの……」
「はい?」
シテは悟られぬように身構えた。そしてそれに六儀は僅かに反応を示して人差し指をシテの目へと向けた。
彪でも分かる緊張が二人の間に流れた。
「……ああ、ごめんね。急に手を掴んだりして」
「いや、わらわこそ迷惑をかけた」
シテは解放された手を擦りながら、六儀に頭を下げた。
だが油断はしない。
腕を掴まれただけだが、シテは彼が武装していることを悟った。
部下のオークたちが、親しい友人にも隠す奥の手。それを持っているものが持つ感覚。
六儀にはそれがあった。そしてそういった者が必ず持つ心理的要素。
自信と気弱。
六儀にはそれが無い。
あるのは飄々とした余裕。
彪のエロ行為を逐一潰す六儀の横顔を眺めながら、シテは平和な日常が危うい上に立っている事をひしひしと感じ始めていた。
星の王子様は輝いていた。
危険なサインを輝かせて、そこにいる.
- 肝いりロック様相にポリシーを感じた。シテと彪の種族の違いを感じさせない女生徒付き合いが楽しい反面で前回領域を読んでいるためか六儀が何か行動をおこすのではとはらはらしました -- (名無しさん) 2013-07-12 18:14:57
最終更新:2013年07月12日 18:03