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【ヤマカさんと僕】

私立十津那(とつくに)高校という学校がある。
瀬戸内海沿岸にある、淡路島ゲートの間近に設立された学校だ。
<こちら側>と<あちら側>の友好を深める事を目的とし、
亜人と人間の共生を目指すための学校だ。
そういった意味では、種を越えて友情を育む事はまったく目的に沿うものであるし、
場合によっては友情を超え、愛情へとつながることも稀ではないだろう。
そして、この学校に通うという事は、そうした事に対してのある種の
責任感や使命感に燃える者が多いという事でもある。
必然、学内カップル誕生率も極めて高いのである。
そして当然、そんな恩恵にあずかれない者もいるのである。

「きょうはおべんとうのおにぎりですよ。ヒウマくん」
「ああ、ありがとう」
オーク種族の奥山さんと人間の犬塚が一緒に食事をしている。
奥山さんはミズハミシマの諸島に移住した豚人系オークの子孫だという。
彼女にヒウマくんと呼ばれている犬塚勇馬は、まあいわゆる人間で、
先祖は明治維新で人斬りをやっていたとかいう話だ。
それで影響を受けているのか受け継いだ血なのか、剣道部のエースでもある。
二人はいつの間にか、やたらと仲良くなっていた。
昼食時などつかず離れずで一緒に食事などをしている。
あまつさえ最近では、奥山さんの手弁当を食べているというではないか。
羨ましい!実に羨ましい!
男子が10人いたら、そのうち3人が「いや、あれブタじゃん」と言い
4人が「ムッチリたまらん」と言い、2人が「おっぱい揉みしだきたい」と言い
1人は「いや、言うほどブタじゃない。むしろ天然で可愛い」と言う逸材に、
お弁当を作ってもらえるとは!

そんなブッチャケた話どうでもいい事を考えて購買の焼きそばパン(王道)を
むさぼり食っているのが、僕こと川津である。名は伏せる。
パンを食いながら上記のようなクソくだらない事を考えてしまう辺り、
中学時代にこじらせた厨2病が一切完治していない証拠なのである。
本当は僕だって彼女が欲しい!と言えない!だから欲しいそぶりなんか出さないぜ!
とか思ってるのが外に滲み出て哀れを誘うような人間である。
ちなみに犬塚勇馬と同じく剣道部であり、彼と異なり部のお荷物である。
実際は誰も比較すらしないのだろうが、彼に比べなんと情けない人間だろう。
それはそうとこの焼きそばパンうめぇな。
仕入先変えたんだろうか。

「まーた一人で深刻ぶりごっこしてんのかー」
という声と共に、背中から首筋にかけてヒヤリとした質感が覆う。
「うひゃあ!」
ああ、またやってしまった。
リアクションを声に出すとか気持ち悪がられるのはわかっているのに。
だいたい誰の仕業か分かってはいたが、振り向いてみると予想通りだった。
蛇神ヤマカだ。
奥山さんと同じく<向こう側>からの留学生で、いわゆる蛇人だ。
種族名のイメージから想像するよりは随分とニンゲンなのだが、
やはりその眼、割れた舌先、なにより滑らかで美しくもあるが、
一目でそれとわかるウロコが、やはりヘビを思わせる。
何より首がヘビ級に伸びる。
眼がやたらと悪いようで、牛乳瓶の底のように分厚いメガネをしている。
「おおかた勇馬っちと自分を比べて寂しくなってんだろー
 比べるだけ無駄なのよねー」
ニヤニヤと笑いながら、ヤマカがからかってくる。毎度の事だ。
チロチロと舌が出入りする。
「手製の弁当が羨ましかっただけだよ」
ウソは言っていない。本当に羨ましい。
「んー?
 なんならアタシのお弁当を分けてあげてもいーぞ。
 お手製って言うんなら、これもお手製だぞー」
ヤマカはそう言いながら、僕の目の前で弁当箱をゆすって見せた。
「仕方ないな。食べてやるよ。
 とりあえず離れてくれないか」
ああ、僕はこういう言い方しか出来ないのか。
なんと情けない。
「フフン。ヤマカちゃんの絶品弁当を見て驚けー」

ヤマカが開けた弁当箱には、唐揚げがみっしりと詰まっていた。
なんだこの男弁当。栄養バランスとか何も考えてねぇ
「それじゃ、いただきます」
とりあえず一つ唐揚げをつまみあげてバクリと食べてみた。
淡白な味わいながらも衣の味付けが絶妙で実に美味い。
これはトリササミを揚げたのだろうか。やるなヤマカ。
「美味しい?」
ヤマカが僕の顔をのぞき込む。どうでもいいが首がちょっと長くて怖いぞ。
「まあまあだな。このトリササミ揚げ」
するとヤマカはまたニヤニヤしながら話しかけてきた。
「それ、カエルの肉なのよー」
なんと。

放課後になり、部活動の時間となった。
犬塚は相変わらず、部のレギュラー陣と殺し合いのような稽古を続けている。
王仁主将の3m超えの体躯から繰り出される連撃を危なげなく裁ききり、
逆に出小手をあっさりと決めてしまった。
僕はと言えば中盤もそこそこから体力の限界を感じフラフラになっていた。

「よーし!今日の稽古終わりだ」
顧問の瀬戸先生から止めの合図がかかった。
瀬戸先生は、『全ての人種が集うアルティメット剣道大会』において
普通の人間にも関わらず圧勝に圧勝を重ねて優勝してしまった今剣聖だ。
そんな先生でも七段以上の部に出ると優勝出来ないというのだから、人間とは恐ろしい。
「皆は当然知っていると思うが、年明けに全国大会予選が開かれる。
 人間の部と無差別の部の代表チームを組まねばならんのだが、そのための部内選を明日から開始する。
 そのチームを元にして、冬合宿の結果でどんどん入れ替えていくからな。
 とりあえず、全員今日はゆっくり休めよ」
その言葉は部内に静かな熱気をもたらした。
勝てばレギュラーか。実に羨ましい。
まあ僕には関係の無い話だ。

タオルで乱雑に汗をぬぐったあとで、すぐさま制服に着替える。
どうせシャワー室は練習後の部で取り合いになって、男臭地獄だ。
裏手から外に出ようとすると、先に出ていった部員達と、
それを待っていたカップルの片割れとがイチャイチャしていた。
犬塚も奥山さんと一緒に帰るんだろう。
だいぶ秋も深まり、冬に差し掛かってきたせいか、嫌に冷える。
そして背中と首筋をヒヤリとした質感が覆った。
「遅いわー。何でこんな寒い日にこんな待たせるかなー」
ヤマカだ。
「誰もお前と一緒に帰るなんて言ってない」
するとヤマカはまたニヤニヤとして言った
「カエル肉の唐揚げは食べたのに、カエルなんて言ってない・・・ププ」
笑いの沸点低いなぁ。この女。
「あー。あったまる・・・
 寒い日はキミの熱であったまるのが一番だわー」
「人をユタンポみたいに言いやがって」
「アタシの種族は熱が下がると動きがにぶくなってダメねー」
「ホッカイロでもつけて一人で帰れよ」
「やぁよ。熱源が近くにないと迷子になっちゃう」
「カーナビか。僕は」

いつも通り、僕らは一緒に家路につく。
家が隣同士だから仕方のない事だ。
「つーかホントそろそろ離れろよ」
「んー?せっかく女の子の感触を提供してあげてんのにー」
チロチロと舌が出入りする。確信犯か。いや、誤用なのはわかってる。
「お前の貧相な体があたったところで、何の提供にもならんよ」
「まーたまたー
 今夜あたり、オトコノコタイムでしょ?」
「だから女の子がそういう事言うな。
 あと、試合前にそういう事しねぇから」
出来るだけ真面目な雰囲気で突き放した。
するとヤマカはなにやら考え込んでいる。
少しは僕の意思も通じただろうか。
「前に言ってた部内試合ってやつかぁ
 レギュラーになれたら筆下ろしとかにする?」
何も通じてなかった。
「逆にプレッシャーになる。
 あと何で童貞だって決めつけてんだ」
「長い付き合いだし知ってるに決まってんじゃん。
 それに匂いでわかるのよねー
 ヘビは匂いにビンカンなのよー
 筆下ろししたら、唯一犬塚に勝てる分野が出るぜ?
 どーするー?」
「だからそういう事を言うなってば!プライバシー!」
「んふふー
 一応ヘビは性的な暗喩とされておりますのでー
 淫魔的?なポジションになれたらいいなーってー」
「そんな見た目で淫魔も無いわ。
 お前どっちかって言ったら地味目清純キャラだろ」
「処女だしね」
「だから言うなって」

いつの間にか玄関口。
「そんじゃな」
僕は何となく照れ臭くて、わざとぶっきらぼうに言う。
厨2病が治ってないから仕方ない。
「じゃあ、明日もカエルのお弁当を作ってあげるよ。
 また明日ね、テンちゃん」
ヤマカがニヤニヤしながら言った。
「テンちゃんって呼ぶな・・・まったく」
今日は酷く疲れた。
練習疲れだけじゃなくて、ヤマカの相手でも疲れた・・・
かろうじてシャワーはあびた。メシも食った。
川津天(おおげさな名前だ)の一日は、もうこれで終わりにしよう。
ベッドに倒れ込むように身を投げ、心地よい睡魔に襲われた時、
ケータイメールの着信音が鳴った。ヤマカからだ。
うう・・・眠いのに。
中身を開けると『オトコノコタイムするなよー』の一文。ウゼェ
そして無駄に長い空欄もウゼェ
メールの最後の文章は・・・『明日はガンバレ』だった。
何で。
もっと普通に。
応援できないのか。
『おう。頑張る』の一文だけ返信して、僕は眠りに落ちた。




さて、若干時を巻き戻して下校時、裏口には取り残された男が二人。
「本当にこの部はカップル率が高いのう」
主将の王仁が嘆く。
「やはり男は顔なのかのう」
副将の奥戸も嘆く。
「カップル誕生率の高い学校じゃ言うても、
 その恩恵にあずかれない者もおるのじゃけぇのう」
王仁は恨めしそうに、自分のゴツい顔をなで上げる。
我ながらなんと酷い仁王顔だと思う。
「いつかわかってくれるオナゴに出会えるじゃろ。
 それまではお互い、剣の道を歩もうじゃないか。のう」
モテない男の悲しさか。
二人の剣士はいつの日にか訪れるその日を夢見て、今日も家路につくのであった。


  • テンちゃん現状に満足しちゃっているとこれ絶対進展なさそうな気配。 台詞には抑揚があってもどこかテンション低そうに感じるのは蛇=定温動物だからだろうかヤマカさん -- (名無しさん) 2013-06-26 02:42:24
  • 普通に会話できる女友達がいるだけで全然違うだろというその他男子生徒からの声があがりそうですけども。あと一歩は踏み込んでこないアタックに川津君はどういう答えをだすんでしょうか -- (名無しさん) 2013-07-21 18:37:54
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最終更新:2018年12月24日 00:47