『Let's news!』
十津那学園では昼休みになると、報道部によるケーブルテレビが放送される。
かつて伝説の男と呼ばれた一人の生徒が、内外に掛け合って実現した功績の一つで、今では新聞部や他の部活と合同で様々な番組が放送されている。
大半は学園の連絡事項や差し当たりのないニュースだが、実際には報道部の趣味で構成された内容が半分を占めている。
特に学園の人気者や話題の人をゲストで呼び、学園内で集めた質問をぶつけるコーナーが人気だ。
『今日のゲストはシテ・パーントゥさんです。……えー、髪型変えた?』
テレビの中で眼帯を付けた司会役の女子生徒が、シテを横に座らせて何故か髪型の違いを指摘した。
彼女は変人揃いの報道部でも奇特な人と評される。その名は守田 真昼。眼帯は質問コーナーだけ着用する衣装で、彼女の目は何ら問題はない。
事実、今日は左目を隠しているが、たまに右目になったり、時には忘れていたりする。
『わらわは日頃からこの結髪じゃが?』
意味が分からぬと、鉄扇で口元を隠しながらシテは首を傾げた。
『ごめん。これ、形式美なの。じゃあ、早速、質問しちゃおうかー』
『ニホンの皆にわらわを良く知って貰う機会じゃ。如何ような質問でも喜んで答えようぞ』
快諾したシテの横顔見ながら、マヒルは箱に手を突っ込んで一枚のハガキを取り出した。学園内なのだからハガキで質問が寄せられる訳ではないが、これも形式美である。
『鬼族は骨が硬くて重いと聞きます。シテさんの体重はいくつですか?』
『あー、それはパスじゃ』
喜んで答えると言いながら、いきなりパスである。
地球に来て数週間。すでにシテは女性にとって体重が秘密に値すると分かり、今では軽々しく身体特徴を口にすることは避けている。
『じゃー次ね~。アラカンさん17歳からの質問。「シテさんはお風呂に入ると何処から洗いますか?」です。あたし頭からだけどシテさんは?』
『胸からじゃが?』
質問の意が理解しかねると、シテは首を傾げながら答えた。が、一部生徒たちがどよめいた事を、放送室にいるシテは知らない。
『おー、ダイターン。じゃあ、次ねー』
もっとねちっこくその手が次にどこへ行くのか聞けよと、一部生徒が騒いだが、やはり放送室にいるマヒルには聞こえない。
『一学さん 15歳からの質問。「下着を履くときは右足からですか? 左足からですか?」という質問ですが……』
『少し待て。さきほどからやや狭いところを突く質問のようじゃが?』
『やだなぁ。シテさん。無作為に箱から引いてるから偶然ですよ~。やですよねー、こういう質問。で、下着を履く時は右足から? で、今何色?』
『質問が増えておる! い、いや止めるのじゃ! お主、彪ではないか! いつから机の下に! や、止め……』
シテが慌てて立ち上がろうと会議テーブルに手をつく。そうとう体重をかけたのか、会議テーブルは脆くもまっぷたつになった。轟音と共にテーブルとシテはテレビの前から消え失せ、残されたマヒルが手持ち無沙汰にセクシーポーズを取る。
パッと画面が代わり、画面にはCMが流れる。
『おいしいニャー!』『はーい。ニニギ食堂はどんなアレンジもオッケー! 猫まんまは十津那学園前! ニニギ食堂へ、みんな食べに来てねー!』『今月はオムライスがオススメにゃん♥』
猫人と食堂の看板娘がコラボしたCMが、シテ・パーントゥへの質問がほとんど失敗した事を示唆していた。
「パンチラは日常……。至言だ。王は真理をご存知だ」
二階建ての部室長屋。その一角。
伝説の男が残した『最後の砦』と呼ばれる多目的部室で、ブラインドの羽を指で上下に分けて外を覗く男子生徒が呟いた。
彼の背後には、目を輝かせる男子生徒が二十人と集まってり席に付いていた。
会議テーブルと椅子しかない部室は寒々としているが、集まる男子生徒たちの熱気は凄まじい。
「総督! それは伝説の男が語った一文ですね! 確か全文は『パンチラは日常。パンモロは偶然。ムネチラ解禁。ムネポロはハプニング』だったかと」
背後に控える生徒たちの中でも、比較的前列にいる序列が高いと思われる背の低い少年が挙手して発言した。
総督と呼ばれた男子生徒は、メガネの位置を正しながら振り向く。
「うむ。そのとおりだ。……途中から意味わからんが、序文のパンチラは日常。これは至言と言うほかない。何しろ伝説の彼はこの日常を、一時とはいえ成し得たのだからな」
腕を後ろに組み、メガネの男は深いため息をついた。
「諸君、まずは残念な報告がある」
その神妙な面持ちに、居並ぶ生徒たちは息を呑む。
「我らが崇拝する一人、
ドニー・ドニーからの鬼っ娘留学生シテ女史が、イケメン三銃士の一人である今林 六義と共にライヴに行くという情報がもたらされた」
部室は騒然となった。
「なんてこった!」
「変態四天王、セクハラ露出姫の沢村 彪が付いておきながら何という事態だ!」
「隊長! 結局、世の中は顔って事ですか!?」
絶望を口にする生徒たちを睥睨しながら、メガネは悔しそうに肩を震わせた。
「く……。自分の不甲斐なさに辟易するよ。変態十六羅漢の盗撮総督で有りながら、何も出来ない自分が腹立たしい」
イケメンが三人に対し、変態が四天王と十六羅漢とは実に変態の多い学園である。
「そんな残念な報告の後になんだが、君たちにとある戦果を提供する。これだ!」
総督が懐から写真の束をテーブルの上に投げ出すと、一気に部室の生徒たちは色めきたった。
「こ、これは留学したばかりでタレットの銃撃を受けてボロボロになった、特に衣服がボロボロになったああああの……」
「し、しかもまままっまさかこここのこのむむむ胸元から覗くこれは! もしかしてピ、ピピピン……」
写真を奪い会う。手に入れた男子生徒たちは総督の戦果である写真を、血走った目で凝視して口々に信じられないモノ見た! まさに桃源郷じゃ! と賛美の声を上げる。
「うむ。私もこの写真を見た時は我が目を疑い銃火の映り込みもしくは色化けなど色写りはたまた飛散するゴミや着衣の繊維かまさかデジタルデータ化けを考慮しもしかしたら昇華型プリンターの印刷ミス果ては虫刺されの可能性などなど……ぜぇはぁ、ひゅー……。多角的に調査したため時間を要し、君たちへの提供が大幅に遅れてしまったが、それを差し引いても素晴らしい戦果と自負している。そしてそれを君たちに提供できる喜びに私は打ち震えているぅ」
(絶対嘘だ)(総督、こーいう時はずるいからな)(今まで独り占めかよ、このメガネ)
一気に言い訳のような物を捲し立てた総督の顔を見上げつつ、男子生徒たちはヒソヒソと不信の念が隠った言葉を交わす。
「だー! うるさい!」
総督は不満そうな一人の生徒の写真を奪いとる。
「あー、返して総督様ぁあ。あなたに忠誠をぉ、わたしに下賜ぉー」
足蹴にされながらも、写真を奪われた生徒は総督の足元にすがりつく。その光景を見た他の生徒たちは、慌てて写真を懐にしまい込んだ。
「聞けぇい、諸君ら! 私は約束しよう。諸君らに更なるファンタジーを提供すると! そしていつかはパンチラは日常という学園を手に入れる!」
おおう! と生徒たちが沸き上がる。
「しかし、期待もしているぞ、変態四十七士の諸君! 君たちも日常を手に入れるのだ! パンチラという日常を!」
4+16+47。本当に変態多いな、この学園。
「ふっふっふ。私は既にシテ女史のターゲットにしているのだ。あのシテ女史でもライブでは隙も多かろう。約束しよう。来週にはシテ女史のパンツの色と形をこの手に収めてこようではないか!」
「なんと総督得意のアップスカートですか!」
「やったぜ、総督が本気を出せばどんな鉄壁スカートも硬度1の紙切れだぜ」
「ふっふっふ……」
総督のメガネが怪しく夕日を反射した。
残念なことに、ライブ当日のシテはパンツルックであった。
トップは明るい色のフード・トレーナーに、ボトムは鍛えた体にフィットしたジーンズ。
がっくりと港駅の片隅で膝を付きながら、総督は「いや、かっこいいしエロカッコイいんだけどさ、そーじゃないだ、そーじゃないだよー」などとを怪しさ爆発していて周囲の視線が突き刺さっている。
一方、何も知らないシテは妹のセリオツと共に、待ち合わせに遅れている六義の姿を探していた。
学園のある島から出るには留学生は付き添いがいる。基本的に学園の関係者なら誰でもいいが、六義は留学生を担当している委員である。
彼が居なくては島から出るのも難しい。
しかもシテは本土で電車に乗ったこともない。六義が居なくては右も左も分からないといっていい。
彪は彪で補習で遅れるから先にライブ会場へ行ってくれと連絡があった。
シテはしばらく悩み、待ち合わせ場所にセリオツを残して、六義へ連絡するため携帯電話を使用できる場所へと移動した。
と、シテがその場を離れた時、合わせたかのように六義が湾駅へと姿を表した。
しかも、シテにもセリオツからも見えない位置から。さらにセリオツの背後へと近づきながら、手袋を外す。
セリオツの小さな頭に手が届く。
その距離で立ち止まり、六義は笑みを浮かべてセリオツの頭へと手のひらを広げて腕を伸ばした。
「なんでい? じゃあ、そのトライアングルビーター意外にやべー奴がいるってのか? こんちくしょう。どんだけうちらの敵はいるんでい? いや、どんだけ人間てなぁバラバラなんでい!」
ウーススは立膝で探偵事務所のテーブルに座り、マヌなんとかへ捲し立てた。
マヌなんとかは、相変わらず眠そうな目で植木鉢のユーディコッツ所長に水をくれている。
「ええ。しかし、ほとんど実態はわかっていないの。そうね、仮にヤツラと仮称しましょう」
マヌなんとかの説明によると、そのヤツラとはトライアングルビーターを襲い、なんらかの手段で全滅させると、その場に捕らわれて
エルフとオーガーを連れ去ったらしい。
助け出したのでないことは明白だ。オーガーの大量の血。そして二人とも行方不明。
これを考慮すれば、まともな相手でないことは容易に想像できる。
しかも、ビーターたちは不思議な手段で殺害されていたという。
これにより、警察はヤツラの正体を異世界人としている節がある。
「ですが、これは違う。ヤツラは明らかに人間のはず。現場にはいかなる神力も精霊の力も、なんら異世界の痕跡がなかった。こちら側の痕跡がないなら、かならず地球側の技術が使われたという証拠。警察がこちら側の仕業にするのは、捜査が行き及んでいないからですわ」
マヌなんとかは所長を日当たりのいい窓に移動させると、クスクスと笑いながら振り向いた。
「ところで、ビーターの今後の活動情報が手に入りました。と、所長が言っておられます。どうしますか? ウーススさん。ドミヌラさん」
問いかけられ、ウーススはパンと膝を叩いた。
「きまってらぁ! こっちから出向いてやんぜ、こんちくしょう!」
「そう言うと思ってました。ビーターの狙いは異世界人が多く集まる今夜のライブ。沢村 太助のライブで騒動を起こすつもりですわ」
- 異種族の混ざる非日常な学園だからこそ漫画のようなイベントや集まりにも説得力があるのかなと。端々に挟むキャラと施設の紹介が上手くて面白いですね。しかし六義の正体が先に出ているためか彼が関係してくると緊張感が絶えませんね -- (名無しさん) 2013-07-22 18:31:59
最終更新:2013年07月22日 18:28